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ベルガラック

 
 ステージショーとギャンブルに人の群がる、眠らない街、ベルガラック。一時は大富豪ギャリングの強盗事件でひそやかになったものの、カジノが復活したベルガラックは活気ある喧騒に満たされている。
 一族の試練に護衛として同行したエイト達は、その後もギャリング兄妹に厚遇され、気の向いたときは何時でも来てくれと言われていた。「カジノでお金を落としてくれれば、我ら兄妹の儲けとなる」という言葉を思い出し、エイトは苦笑した。
 ヤンガスとククールにとっては、旅の用立てとしてベルガラックに赴くと言っても、それは建て前である。彼らは「先立つ物は必要」と口では言っても、いざカジノへと足を運べば、そんな動機などすっかり忘れてコインをつぎ込んでいく。
 特に、「所持金の全てを軍資金にしろ」とせがむククールには注意をせねばならない。すかした態度を見せていても、ククールが人一倍負けず嫌いなのは知っている。エイトは、仲間に財布をすられては堪らないと思った。
「…この前は錬金の為にあれを狙ってたっけ」
 ククールはスパンコールドレスを指差して、隣のゼシカを眺める。彼の視線を受け止めたゼシカは、自慢げに今着ている服の裾を摘んだ。彼女が嬉々として着ているひかりのドレスは、つい先日、ここで手に入れたスパンコールドレスを錬金して作ったものだ。
「今回は‥‥エイト、あれ狙おうぜ」
 景品交換所で現在のコインを確認したククールは、エイトの脇を小突く。
「はやぶさの剣?」
「そう。俺とエイトの分」
「ふ、ふたつ?コイン20000枚だよ…」
 景品リストを見ながら、エイトは焦った。
「俺の手にかかれば、すぐだって」
 ドニでの一件を思い出したゼシカが、彼を注意する。
「ちょっと、イカサマは使わないでね。追い出されちゃうじゃない」
 エイトは二人の会話が周りに聞こえないか心配しながら交換所を去る。その足でコイン売り場に向かい、軍資金をいくらにするか考える。
「兄貴、銀行に預けているのも使えば相当な…」
「…ヤンガス」
 たしなめるエイトに苦笑いが零れる。
 所持金をある程度コインに換えると、4分割して各々が持つ。時間を決めて、それぞれの場所で各自が勝負に挑むことにした。
 エイトとて、苦労して得た金をむざむざギャリング兄妹にそのまま貢ぐのは面白くない。それに、ここベルガラックでしか見たことがないはやぶさの剣を、ククールほどではないが、手に入れたいと思う気持ちは勿論ある。ゲームを楽しみながら、エイトは長期滞在になるかもしれないと思っていた。
「エイト!見て見て!」
 弾けるような笑顔を見せて、ゼシカが駆けてきた。手には抱えきれないほどのコインの山。後ろを見れば店員が重そうにコイン箱を抱えて彼女についてくる。
「ゼシカ…どうやってそんなに?」
「うん。ルーレットの席に座ってるだけで皆がくれるの!お得でしょ?」
 ゼシカはエイトにウインクした。座っているだけで?と、そのカラクリを理解しかねているところに、身なりの良い男が寄ってくる。
「…これはお嬢さんに」
 ククールほど秀麗ではないが、整った顔立ちの男は流し目を送りながら、ゼシカにコインの積まれた箱を差し出す。
「あら、ありがとう!」
 キョトンとしているエイトを尻目に、ゼシカはにこやかに男に笑顔を送り、素直にそれを受け取った。美しい色気を身に纏いながらも、媚の無い元気な微笑み。
「勝利の女神におすそわけですよ」
 男は端正な瞳でそれを受け止めると、宿屋へと向かう扉へと去っていった。ゼシカは、今しがた得たコイン箱を抱えながら、その姿をニコニコと見送る。
 ゼシカが大量にコインを得た理由を実際に見たエイトは、彼女の姿を改めて見て納得する。確かにゼシカは見事なまでに美しかった。
 今日はカジノということで、装いも髪形も変えている。長い髪を一つに結い上げ、細い首を大胆に見せている。肩にかかる項の後れ髪が艶っぽく、白い肌は光り輝くドレスに息を呑むほど映えていた。
 気付けば自分が周囲の視線を集めていることが分かる。フロアの男たちは、目の前に繰り広げられる己の賭け事よりも、妖艶かつ端麗な彼女が誰と話しているのかが気になるらしい。
「…すごいね」
 思わず口にした言葉だった。
 身近に居すぎて感じない、彼女の魅力。
 そう、彼女はただ美しいだけでなく、大勢に囲まれながらも際立つ華やかさを持っている。決して隠れることのない、隠れることの許されない、天性の美人。
「あ、褒めてくれてる?嬉しいな」
 こりゃ本格的に頑張って、大量に頂いちゃおうかな、とゼシカは笑った。
 口を開けば活発な少女。
 その端々に見せる威勢の良さが、また彼女を輝かせる。
 気合の入った清々しい微笑みに、エイトも笑顔で応えようとしたその時。
「アッシはイカサマなんかしてねぇでがす!」
 地響きのような叫び声が、スロットマシンの周りにできた人集りから聞こえる。
 慌てて駆け寄れば、ヤンガスが数人の店員に囲まれていた。
「あっ、兄貴!」
 見ればヤンガスの座っていたスロットマシンからは、考えられないような枚数のコインが溢れ出していた。それはヤンガスの足周りを覆い尽くし、ジャラジャラと鈍い金属の音を立てている。
「スリーセブンが出たまでは良かったんでがすが、コインが止まらなくなりやして…」
 エイトは店員を眺め見た。
 これがゼシカであれば、彼らも疑いはしなかったかもしれない。慌てながら無実を懇々と説明するヤンガスを少し気の毒に思いながら、エイトはゼシカと一緒に人集りの中央へ進んでいった。あまりの騒ぎにククールもやってくる。
「おい、どうしたんだ…?」
 
 
 
 カジノでは、鼻息の荒い客が夜ごと勝負に一喜一憂し、隣接する酒場では、その昂ぶりを抑えられない連中がやって来ては、ステージの踊り子に揶揄や野次を飛ばす。
 しかしこのように酒と賭事に浸かりながら、街の豪奢で気品の漂う様子が一向にそがれないのは、娯楽の地位を確固たるものとして維持し続けるギャリング家の努力の賜物かもしれない。
 店員に連れられてきたエイト一行を見ると、そのギャリング兄妹は大いに笑っていた。
「あはははは、とんだ災難だったね」
 ユッケはエイト達の姿を見ると、「この人達は大丈夫」と言って解放してくれた。フォーグは呆れたような笑みを見せて、自室へと招く。
「此処に来ていたとは。しかし、挨拶もせずカジノか」
 部屋に屈託のない笑い声が満ちた。兄妹は久々に会った恩人に食事をもてなし、試練を受けた時と同じく、再び屋敷の部屋を提供した。
「今度はクスリは入ってないからね」
 ユッケの冗談を聞きながら、一行は心ゆくまで久方の馳走に腹を満たした。

 

 風呂を終えたエイトは、窓から見える輝かしい光をゆったりと眺めていた。
「結局、ヤンガスの出したコインはどうなるの?」
 同じく風呂上がりのゼシカが、髪を乾かしながら部屋に入ってくる。エイトが振り返って彼女を迎えた。
「二人が執り成してくれて、出た分は貰っていいって」
「凄いじゃない」
 一日で目標の20000枚を手に入れた。全部で何枚になったのか分からないが、目標以上の枚数を得たことは間違いない。
 ククールとヤンガスは上機嫌で酒場へと繰り出していったらしい。彼らは早めの風呂に入って、「今夜は心配するな」と一言残して足早に部屋を出て行った。
「ヤンガスもククールも、宿屋に泊まってるんじゃないんだから、もう」
 荷物を置いたままのベッドを見て、ゼシカが少し怒る。こんなに寝心地の良いベッドに眠れる夜は少ないというのに、その夜を捨てて飲みに出かける気がしれない。ギャリング兄妹にこれ以上の迷惑をかけるのも憚れるので、屋敷の者に鍵をかけるか訪ねられたときは、ゼシカはキッパリと「かけて下さい」と言った。
「ククール、次ははぐれメタルよろいを手に入れるって言ってた」
「…身ぐるみ失わなければいいけど」
 明日はカジノでコインの枚数を確認し、はやぶさの剣を手に入れる。一日で目標を達成したとなれば、当然ククールは物足りないだろう。残ったコインを元手に、次の目標を掲げるに違いない。
「あのムチを手に入れるまで、って言いそうだし」
「あ、グリンガムのムチ?私も欲しいと思った!」
「200000枚だよ?何日かかるか…」
 驚き呆れたエイトを見て、ゼシカは笑った。
「あ、でも、ここには何日居てもいいかな」
 聞いたエイトは、冗談っぽく怪訝な顔を見せる。
「…ゼシカって意外にカジノ好き?」
「違うけど。…此処なら二人で居られそうだから」
「…え?」
 窓際に立つエイトにゼシカが近づく。
 洗いざらしの髪を上げた彼女は、先ほどカジノで見たそれを思い出させる。しかし、先ほどよりも緩やかにまとまる濡れ髪は、あの時よりも魅惑的で。
「ククールもヤンガスも、此処だと夜は出かけちゃうでしょ?」
 誘うような上目遣い。
 柔らかなゼシカの香りが鼻腔を擽る。
 途端、エイトは彼女の色気に気付いて戸惑いはじめる。
「ゼシカ、それどういう…」
 意味を図りかねるエイトは言葉に迷った。
 彼だって全くの無頓着というわけではない。意味深な態度を見せられれば、それなりの想像や期待をしてしまうのが本音である。
 それでも己の中でなされる展開を否定し、相手の意思に任せて冷静を繕うのは、内在的な自衛かもしれない。
「エイトと二人で居たいな、ってことだよ」
 ゼシカは自分の想いを一直線に投げつけてくる。自分に正直であり、相手にも飾らない彼女は、何も包み隠さない。全てをむき出しで伝えてくる。
 エイトには分かる。彼女が美しいのは、その外見に加えて、そういった素直さが一番の魅力であることを。
「ねぇ、エイト。一緒に寝ようよ」
 それ故に狼狽してしまう。それが無邪気に言う言葉なのか、自分の想像する意味を含んだものなのか。
「え、と…それは」
「別々の部屋で一人ずつなんて、寂しいでしょ?」
「…」
 返事に困り動揺している間にも、ゼシカはエイトの荷物が置かれたベッドに入り込んで「おいで」とばかりにベッドをポンポンと叩いた。
(…そこは僕のベッドなんだけど)
 流されやすい自分自身に嫌気がさすこともあるが、白い腕が自分の手を絡めとってベッドに誘い込むのをどうしても拒めない。ベッドの中には愛らしい天使が居て、此処に入って来ることを心待ちにしている。
「…知らないよ?」
 ポツリとエイトが言って、ゼシカが小首を傾げる。
「それ、どういう意味?」
「…ううん」
 この胸の鼓動がどうか聞こえませんように。恥ずかしい期待を描く、邪な心の奥に気付かれませんように。エイトは極力、平静を装って、ベッドの中に身を入れた。
 咄嗟に首に回される腕。
 彼女の柔らかさが飛び込んでくる。
「わっ」
「エイト」
 満面の笑みでゼシカはエイトを迎え入れた。ふわりと香る風呂上がりの匂いに、エイトは動揺してしまう。
「嬉しいな」
「…」
 誰もが視線を奪われる、眩いゼシカ。
 彼女は今、自分の腕の中にいる。子猫のように甘えて、己の心をかき乱す。
 他の男は想像するだろうか。目の眩む程の美しさを持つ彼女が、こんな他愛ない一人の男と寝ていることを。取り立てて美しくもない普通の男に、その白い腕を絡めていることを。
「…ゼシカ」
「何?」
 大きな瞳で、無垢にエイトを映している。しかしそれは限りなく色っぽくて、掻き抱きたくなる衝動に駆られる。
「…エイト?」
 エイトは遊んでいた腕をゼシカの腰に回し、彼女の身体をぐっと自分に近づけた。ゼシカはそれを嬉しそうに受け止めて、距離が縮まった瞬間にキスをする。
 エイトは囁くように彼女の耳元に呟く。
 その声は自分でも驚くほど熱を帯びていた。
「…抱いてもいい?」
 誰もが羨むこのゼシカは、今は僕の腕の中。いとおしそうに見つめる瞳は、今は僕だけに注がれている。
「…勿論!」
 飛びきりの笑顔に合わせて、背中に回した彼女の腕がギュッとエイトを力強く抱いた。
「いっぱい甘えちゃうよ!」
 
 誰も知らない彼女。
 そう、それは僕だけの。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 君は、美しい。
 
 身体の火照りをなぞるように、指は優しく柔らかい肌の上で滑る。
 今、彼女に灯された熱を、確かめるように舌を這わせる。
「ゼシカ」
 名前を呼ぶ声が、吐息が、痺れそうな脳裏に響く。
 呼ばれたゼシカは、薄く開かれた唇から、切なげに声の主を呼んだ。
「エイト…」
 二人の呼吸は次第に上がり、吐息は絡まって、溶け合って、やがて一つになる。
 
 君は、美しい。
 
 
 
 互いに与えられる甘い刺激に、腕を回し、指を絡ませ、無意識の中で必死に応えていくのだけれど、次々と繰り返し押し寄せる官能の波に、理性は太刀打ちできそうにない。
「ん…ぁっ」
 エイトは、彼女の上ずった甘い声に応えるように、その脹よかな胸を掌で揉みしだき、節ばった指で頂の突起を転がし弄ぶ。唇を寄せ、甘噛みして吸い上げると、ゼシカは鳴くように喘いだ。
「あっ…っぁ…」
 呼吸さえままならない。目の前の愛しい人は、息をつく間もなく愛を与えてくる。
「…ん…っもぅ、狡いよ…エイト」
 息を上げたゼシカは、堪りかねて体位を逆転させ、エイトの身体に乗った。
「わっ」
 ふわりとエイトの四肢がベッドに埋まる。少し驚いたような顔を見せるエイトに微笑んで、ゼシカは彼の黒髪を梳いた。湯上がりの髪で濡れていたのか、今しがたの行為で汗ばんだのか、髪はくったりとしている。
「私ばっかりじゃ、ダメでしょ?」
 顔を見合わせて、二人がクスリと笑い合った。
 ゼシカは、あどけない顔をしているエイトに微笑すると、彼の鼻頭に軽いキスをした。次に、啄ばむようなキスを顔じゅうに浴びせると、耳から首筋、鎖骨へと唇を下らせる。
 微睡む瞳はこの上ない色気を帯びて、エイトを誘っている。ゼシカは詰るようにエイトの四肢を見つめると、平たいが厚みのある胸に唇を触れ、尖らせた舌で突起を弄んだ。
「…んっ」
 ふいにエイトから甘い溜息のような声が漏れると、ゼシカは微笑を秘めてそこを攻め続けた。
 切なげに呼気を漏らし続けるエイトを覗き込みながら、ゼシカの右手は下へとゆっくり伸びていった。
「…あっ…」
 エイトは一瞬、躊躇したが、ゼシカは構わずそれを捕らえた。今や快楽を求めて反りあがるそれを、ゼシカの白い手が握っている。彷徨い求めて熱く膨らんだエイト自身を、静かに擦る。次第に強弱をつけて、速く、深く。
「…っ」
 溢れてきた先走りがゼシカの細い指を濡らしていく。ゼシカの指とエイトの液体が絡まる。
ゼシカは自分の手がエイトの愛液によって滑り良くなると、その四肢の全てをエイト自身に預けた。
「あっ…」
 形良いゼシカの両唇が、エイトを挟み込む。小さな手は、唇で覆ったそれを補うように添えられ、全てを飲み込もうとしている。
 ぷっくりとした桃色の両唇で、ゼシカはいとおしそうにエイトを飲み込んだ。口の中では彼自身を圧迫するように舌が這う。うち震えるエイト自身を、ゼシカはその小さな口内の弾力と唾液で愛し続けた。
 手と口、指と舌。
 エイトは下半身よりジワジワと伝わる快感に眉を顰め、肩を上下させて大きく息を漏らした。薄く瞳を閉じて、眼下でなされるゼシカの行為を見つめている。
「あぁ…ゼシカ…」
 ゼシカは上目にエイトを見た。左右に首を振り、シーツに頭を擦り付けて、快楽に身悶えるエイトが見える。上気して赤らむ頬が愛らしい。
(エイト、かわいい)
 そう思っていると、ふと、押さえつけられた頭が撫でられる。自らが受けた甘く痺れるような刺激を伝えようとしているのか、エイトの手がゼシカの髪に触れた。髪を愛しそうに梳かれて、ゼシカは嬉しくなった。
「エイト、気持ち良いの…?」
 唇を離して、顔を上げると、唾液と愛液の交じり合った糸が引いた。名残惜しそうに繋がる糸。
 乱れた吐息から、微かにエイトは「うん…」と言った。悩ましい伏し目と荒い呼吸。ゼシカは暫し見惚れてしまった。
 
 君は、美しい。
 
 自然と唇が重なった。何度口付けても、求めてしまう。輪郭から歯列の全てを確かめても、なお満たされない欲求。
「ね。ゼシカも気持ち良くなって」
 触れ合う唇から、すりぬけるように掠れた声で、エイトが言った。
 今度はエイトがゼシカをゆっくりと押し倒して正常位にする。己の足を潜らせて彼女の足を割る。膝の裏側を抱え上げると、ゼシカ自身が大胆に覗いた。
「やっ…ぁ…」
 不意にゼシカから戸惑いの声が漏れた。
 茂みの中から熟れた蕾が顔を出している。十分に濡れて光るそこは、ひときわその桃色を輝かせ、淫靡にエイトを誘い込む。
 エイトがゼシカの両脚に蹲った。
「んん…んっ」
 小さな蕾に無心に喰らいつく、それは雄。獣のように音を立てて、吸うように舐めあげるエイト。零れる蜜の全てを飲み込んで、しかし己の涎は擦るようにそこにつけていく。
 ゼシカは彼の舌の感触にピクンと身体を跳ね上げた。疼いていた官能のさざ波が、一気に大波となって押し寄せる。それは更に大きな津波を待っているようで。
「あっ…エイト…んっ」
 ゼシカの太股の柔らかさを堪能していた指が、茂みに入り込む。蜜壷を掻き出すように指先でいじると、更にトロリとした涙が溢れ出た。
「ゼシカ…すごい…」
 湧水のようにゼシカの愛液は溢れていて、エイトに指が動く度にその音が出た。
「やだ、エイト…」
 エイトは脚の間から、チラリとゼシカを見た。薄い笑みを見せたゼシカはやはり恥かしそうで、熱らせた頬で伏し目にエイトを見つめていた。エイトは彼女に微笑すると、濡れそぼつ密壷に指を浸入させた。
「…っあ」
 最初は浅く指を動かして、次第に深く、深く。ゼシカの中は震えながらもエイトの指を飲み込んで、しっとりとした心地よい圧力を与えた。中指の全てが埋まると、エイトは指を増やしていく。
「…痛くない?」
 ゼシカの表情が、恍惚から苦痛に変わらぬように、エイトは確かめる。
 理性の彼方に居るこんな時でさえ、彼の細やかな優しさは確実にあって、ゼシカは少し驚いてしまう。そして、そんな彼に更に魅かれていく。
「ん…平気…っ」
 ゼシカがなまめかしい笑顔でそう言うと、エイトも笑顔で受け止め、その指をゆっくりと動かし始めた。
「あっ…あっ…あっ…ぁ」
 お互いに伏し目で見つめ合う。ゼシカは心のままに声を出し、雫を溜めた瞳で己の愛を訴える。エイトはそんな彼女を受け止めて、指で想いを吐きだしている。
「あっ…もっと…」
 もっと掻き回して。掻き乱して。
 ゼシカは泣くような声で訴えた。乱れた呼吸を掻き分けながら、彼を求める声を発する。朦朧とする意識にしがみ付いて、エイトを懇願している。
 細い眉をひそめ、柔らかい四肢をくねらせ、身悶える。豊かな亜麻色の髪を振り乱し、快楽の海に今にも呑まれる。僅かに残る理性を辿って、存在を確かめるように、縋るようにエイトに触れている。
「ぁ…、もう、エイト、もう…」
 すがるような瞳で言うゼシカの耳元で、囁くようにエイトは言った。
「…イッていいよ…?」
 その擽るような声に、それでもゼシカは首を左右に振った。
「あ…ダメ…ダメだよ…」
「…どうして?」
 エイトの瞳は子供のような、反面、意地悪な男のような。ゼシカはリズムのとれない激しい呼吸をしながら、弱い声を発する。
「ダメ…エイトと一緒がいいの…」
 切ない吐息で、甘えるように言うゼシカに、エイトは胸が詰まる。
「ゼシカ…僕のが欲しい…?」
「…うん…」
 確かに、ゼシカはもう無理そうだ。脚が震えているし、彼女自身の締め付けが強くなっている。コクリと頷くゼシカに、エイトは優しくキスを浴びせた。
「…入るよ」
 エイトはゼシカをうつ伏せにさせて、彼女の力ない腰を持ち上げると、背後より反りあがる自身を挿入した。
「あぁっ…」
 裂け目を割り、抉るように浸入したエイト自身を受け止め、ゼシカが喘いだ。背中が仰け反り、力ない両腕がベッドに沈む。
「あぁ…ゼシカの中…」
 うめくように呟くエイトの声と吐息は震えていた。
「すごく良い…」
 彼はゼシカの中で、想像以上に心地良い抵抗と圧迫を受けている。
「動くよ…」
 エイトは我慢していた欲望を吐き出すように、更に自分自身を深く押し込んだ。
「あっ…ぁ…」
 今までにない角度から感じるエイトと、それを迎えいれる自分の体勢。突き上げる感触が、ゼシカに得たことのない快感を走らせる。触れ合う度に、互いの肌と汗のぶつかる音がして。
「ゼシカ…ゼシカ…ッ」
 全てが混ざり合う。身体から流れ出る汗と、溢れ出る愛液と、唇から漏れる吐息と。
「エイト…ッ!」
 魂を包んでいた肌もぶつかり合って、溶け出しそう。名前を呼び合って、二人は押し寄せる官能の波の向こうへと踏み出す。
 ベッドの脚が時々浮いている。こんなにも激しい行為。微かに残る冷静な思考はその聴覚に応えた。
 エイトはゼシカの滑らかな背中を擦り、吸い付くようにきめ細やかな肌を何度も撫でていた。やがてその指はゼシカの腹側へ這い出し、豊満な膨らみを堪能すると、更には秘部へと浸入した。
「あっ…エイトッ…あぁぁっ…」
 ゼシカの嬌声がシーツに埋まる。
 唇と手、肌と爪、声と音。
 繋がりあう四肢と魂は、互いの全てを求め、貪り喰らう。
「…ぁ…っ!」
「…ッッッ…!」
 一晩中繋がりあって、その果ての世界に二人、踏み込む。
 全てを振り絞って、注ぎ込んで。ただ、寄り添う。
 
 君は、美しい。
 そう、それは、とても。とても。
 
 
 
 
 
 先刻までは、忘れていた。此処が誰の屋敷かということを。どんな状況で二人が臥所を共にしているのかを。
 蓋し。ベッドの中で微睡みながら交わす他愛ない会話も、今はただ。
「…やっぱりさ、一番目指しちゃおうよ」
「グリンガムのムチの事?」
 互いの甘い視線を受け止めながら、くすぐったい言葉のやりとりをする。欲望の全てを分かち合った、乱暴なひと時を終えての、優しい空間。
「私、頑張っちゃうよ!」
 己の胸元でニコニコと笑うゼシカ。
 確かに、彼女が着飾ってフロアに立っているだけで、コインは向こうからやってくる。今日のゼシカを思い出して、エイトは苦笑した。
「…僕が頑張るよ」
 美しいゼシカは悪くない。しかし正直な心で言えば、男としてゼシカが他の男に目を止められるのは少々面白くない。
「僕がゼシカにプレゼントするから」
 目を丸くしたゼシカを見つめる。少し頬を赤らめて、今の言葉に照れているようだ。
「…身ぐるみ失わないようにねっ」
 晴れやかな笑みを作った端正な顔が、エイトに胸に埋まった。エイトの背中に手を回して、力強く抱きしめる。
 エイトは優しくその抱擁を受け止めながら、口元に穏やかな笑みを溜めていた。

 君は、美しい。
 この美しい君は、限りなく、僕のもの。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【あとがき】
ゼシカにはムチが一番似合います。
彼女に最強のムチを与えて、エイトをピシーリピシリとゲフゲフ。
 
 
 
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