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 はじめて お前を抱く。
 
 はじめて 君に抱かれる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ククールは縋るように彼を引き寄せていた。
 エイトの腰に手を回し、ククールは己のベッドに彼を抱えて運ぶ。頼りない古宿のベッドがキシ、と音を立てて二人の重みに沈んだ。
 二人は暫く見詰め合い、お互いの意思を無言で確かめ合った。
 言葉はそこにない。自然と二人が唇を寄せ合って、互いの身を掻き抱いていた。
 唇を唇に。
 自分の想いの全てを注ぐ。伝わるように、伝わりますように。
 ククールが触れた唇はしっとりと柔らかくて、程よい弾力が迎えてくれた。普段はきっちりと結ばれていて、エイトの意志の強さが現れる口角は、今はしどけなく開かれ、彼に任せている。
「ん……
 ククールは舌先を咥内に差し込み、エイトの舌にそっと絡める。
 エイトはそれに驚いて、身体をピクリと震わせた。宥めるように、ククールは絡めた腕をギュッと力を入れる。
 強い腕より与えられる安心感にエイトは四肢を委ね、力を抜いた。
「ん……んっ、」
 エイトはククールを咥内に迎え入れた。怖れながら、戸惑いながら、たどたどしい彼の舌が動く。
 ククールの舌に応えるように、エイトの温かい弾力が柔らかくくねる。唇で舌を挟み、甘く吸う。唾液を絡めて、二人が溶け合う。溶け合って溢れたそれを吸い上げる。
 上擦った甘い声が漏れた。
「ん、クク……
 とても甘い声だった。僅かに残っていた理性の欠片が崩れ落ちる。
 彼の全てを食らいたくて、味わいたくて。額から目蓋、鼻先、頬、耳、首筋……彼の全てに唇を落とし、キスの雨を降らせる。
 全身に疾走する官能に息を荒くさせ、エイトは胸を大きく上下させる。
「はぁ……はぁ、っ……っは」
 眼窩に嬌態を晒すエイトを見つめ、今や官能を求めて昂ぶるククールは、服の上からも判る位に屹立していた。身を寄せ合った腹にそれが当たって、切なさを訴えている。
 途端、ククールはエイトの服を弄り、ベルトを外してエイトを探った。
 纏う服を取り払うと同時に愛撫する掌。
「んんっ、ん!」
 触れられたエイトの身体が、ピクンと跳ねる。
「エイト」
 一瞬、ククールはいつも通りの表情に戻って、からかうようにエイトを見やった。エイトは頬を赤く染めて俯く。
「感じてる?」
 いつもの声とは違う、ゾクリとするような色気を帯びた声。低く甘く、耳元を擽る。
 頭が痺れそう。
 朧ろげに瞳を合わせれば、美しい色香を漂わせた瞳が真っ直ぐに降り注ぐ。流し目に長い睫毛が覗いて、その見事なまでの美貌に眼が眩む。
「俺を感じる?」
 心臓がドクンと脈打った。
 彼の眼差しに、魂が魅了される。
……うん」
 鼓動が早過ぎて、どうにかなってしまうのではないか。
 胸が苦しいと悶えていれば、その胸の突起にいじらしい刺激を与えられ。
「あぁ……やぁっ、……っ」
 声が出てしまう。
 身体が勝手に反応して漏れた、本当の声。
 自分でもこんな声が出るなんて信じられなかった。恥じらいが込みあがる。口に手を当てて耐えていると、ククールは気付いて彼に寄ってきた。
「気持ちいい?」
……
 エイトは無言のまま、コクンと顎で頷いた。
 彼の恥じらいが、経験したことのない刺激を拒んでいる。初めてこの身を包む甘く切ないものが、官能だということを身体の全てに刻まれる。
 エイトは頬を薔薇色に染め、己の胸元で彷徨うククールに顔を背けている。
 ククールは彼の瞳を覗き込んで微笑した。
「もっとしてやるから」
 力ない両膝に手をかけて、脚を割る。手は膝から内腿へと滑り、適当な弾力を与えながらその付け根へと向かった。
「っあぁ、っ」
 エイトの足がガクガクと震えていた。
 ツ、と指が下着に潜り込んで、そり立つエイト自身にそっと触れる。エイトの身体が跳ねた。
「もう苦しい?」
 指が裏筋をツゥッと縦になぞり、エイトの先端を捉える。そこは十分に濡れきっていた。
「う、ぅあ……っ!」
 指先でエイトの先走りを弄び、彼自身に擦りすり付けるように摩る。とめどなく湧き上がる涎を塗りこみ、やがて手の全体で包んでいく。
 エイトは眉を顰めながら、不安げな瞳で下半身の光景を薄めに見やる。荒々しい呼吸はもはや胸や肩をも上下させ、そのもどかしさを主張している。
 身体が熱くなって、声が漏れる。
……っはぁ、」
 ククールの手首が勢いをつけると、エイトは堪らず首を振った。
 火照りだした身体の芯は細かく震えて、ジンと熱くなると、快楽の波を彷徨う声が溢れる。
「力、抜けよ」
 ククールは低い声でそう呟くと、右の二本の指に唾液を塗りつけ、エイトの秘窪へと進入させた。
「あぁっ、はぁっ……っ!」
 驚いたエイトの腰が浮いた。
 初めて肉体に異物が侵入する。全身が震えて恐怖を露わにした。
 それを宥めるようにククールの指が孔を解し、濡らしていく。ゆっくりと、ゆっくりとそれは進んで、押し広げる。にじり寄る不思議な快感に、エイトは身が縛られた。次第にエイトは腰を揺らしてその官能を味わう。
……あぁ……はぁ……っ」
 弱く悶える声は、更なる官能を誘い込む唸りにも聞こえる。大粒の涙を瞳に溜め、懇願するエイトの眼差しは、ククールを高みに昇りつめる。
「エイト」
……んん……
 ククールはエイトの顔を覗き込み、彼の黒髪を梳かしながら言った。
 しなやかなラインを描く柳眉の下の長い睫が驚くほど美しい。
「俺、お前ん中に入りたいよ……
 愛撫を与えていた彼の手が、縋るようにシーツを握り締めていたエイトの手を包む。
「、ん……
 エイトは荒い吐息を漏らしていた唇に笑みを作って、彼を見つめる。
その顔は穏やかだったけれど、握った手は微かに震えていた。
「エイト」
……
「恐いか?」
 返事の代わりに、繋がる手が強く握られた。
 ククールは震える手を包み込むように、更に力強く握り締める。
「入るぞ」
 少しでも苦痛を和らげようと、少しでも快楽を感じるようと、ククールはエイトの不安げな視線から目を離さなかった。
 なるべく自分に集中するように、彼の手を握りながら、ククールは自身を押し沈めていく。
「う、っん……んんん、っ!」
 初めて人を迎え入れたその入り口は、侵入する異物の大きさに驚き、最初は固く閉ざされていたが、次には中に入ったものを確かめるようにうねった。
「エイト……
 苦痛に顔を顰めるエイトの名前を呼ぶ。歪んだ眉の下の目蓋は、痛みによって深く閉ざされていて、漆黒の睫毛が微動していた。
「大丈夫……大丈夫……
 額には、汗がにじり出ている。
 ククールは額に張り付いた黒髪を指で掬って言った。
「嘘つけ。痛いだろ」
 そのまま両手を彼の上気した頬に当てて、宥めるように彼を見つめる。
 エイトは何も言わず、ただ拳を握り締め、震わせながらククールの胸板に押し付けた。
「健気な奴、」
 ククールは、自分の胸に当てられた手を握り締めて言った。こみ上げる愛情のままに、そのまま覆い被さり、エイトをぎゅっと抱きしめる。
 汗で萎えたエイトの髪をクシャクシャと強引に撫でる。額に汗を浮かべたエイトが微笑んだ。
「ククール。好きだよ」
 優しい微笑み。穏やかな眼差し。
 柔和を湛えたエイトの口元を見て、ククールは彼の言わんとする事が理解った。
「俺も。エイトを愛してる」
 互いを気遣いあって、今、繋がった二人には、愛がある。
 そう、今は欲望を満たす蛮行ではなく、快楽を強請る暴力でもない。
 お互いを確かめ合う、いとおしい行為。気持ちを通じ合う、清らかな行為。
「エイト……いくから……
「うん……
 視線を合わせて、ククールは腰を送り出した。 ビクンとのけ反るエイトを押し付けて、想いの全てを注ぎ込む。エイトは与えられる振動と官能に身をよじりながら、必死に彼から注がれるものを受け止めていた。
 やがて昇りつめる最後の頂まで、目を合わせ、手を繋ぎ合い、二人は白濁の官能に達して、迷うことなく共に身を投じる。
 そこでただ何も無い、二人だけの世界に包まれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 たとえ泥の中を泳いでいたって、
 君は汚れちゃいない。
 君の瞳はいつも上を向いて、
 光を見つめていたのだから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【あとがき】
書くのを迷ったんですが、私のククの持つ闇に対する一見解です。
最強美形の影。冒頭から暗くてゴメンナサイ。
 
 
 
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