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 夜の闇に蠢くもの。
 聞こえるは禽獣の嘶き。微かに見えるは溶け合う漆黒の影。そこに在るのは人ではなく、肉欲に飢えた二匹の猛獣。
「あぁっ、ぁあっ、ん……んン」
 思いつく限りの卑猥な罵りを浴びせ、それに反応して羞恥心に昂ぶる柔らかい肉を、獣の武器で突き上げる。湧き上がる欲望のままを吐き出し、燃えるような劣情を注ぎ込む。
「エイト」
「ぁ、クク……クク、ッッッ!」
 それは何処かしら暴力にも似た与え合う行為。入り混じる情欲と愛欲に、心も身体も奪われる。
 全てを曝して貪った後は、魂の咆哮を傍らに聞いて、互いに永久へと溶けていく。
「ぁあ、あぁあっ! もう、イッ……!!」
 
 結局は、野蛮な行為。
 
……
 朝ぼらけに目覚め、月光か陽光かも分からぬまま、ククールは薄く瞼を開く。
「エイト」
 隣には、いまだ安らかな眠りに揺られる愛しい恋人。
 窓より零れる静かな光を反射して、やや癖のある黒髪が艶めいている。穏やかな眠りを妨げぬようそっと前髪を梳いてやると、優しい微笑みで応えてくれた、気がした。
「ん……
 昨日なのか今日のことなのか、とにかく愛しすぎた。睡眠が何よりの健康だと言う可愛らしい彼に、今日くらいは寝坊させてやってもいい。そしてこのまま美しい寝顔を見つめて、朝に微睡ろむのもいい。
 ククールはしなやかに体躯をベッドに預けて、暫しエイトの寝姿を堪能していた。
 
 
 
 
 
爽暁のウリエル  
 
 
 
 
 
 暗雲たちこめる絶望の空に、光明が差したのは、まさに昨日の事。
 気合充分に神鳥レティスの背に乗り、巨大な暗黒神を倒した感触は、今でも生々しくこの掌に残っている。
(エイト)
 今は穏やかな微笑を湛えて隣に眠る、華奢な体躯のエイト。目の前の彼こそが、世界に光芒をもたらした。童顔の無表情が一変して闘志に心を研ぎ澄まし、瞳に炎を宿す姿は、全ての戦いを終えた今は皆目見当たらない。
(本当、凄ェ奴)
 ククールは静かに破顔して、しっとりと閉じられた彼の目蓋に触れた。
 昨日の情交を思い出す。
 幼さの残る佳顔が恍惚に歪み、情痴の限り眉を顰めて喘いでいた。自らもそれに煽られ、見失うほどに欲望を注いでいた。風のように切なく通り過ぎたと思っていた甘い官能は、エイトを眺めればまだ残っている気がした。
 ことエイトに関しては、ククールは激しい独占欲を露にする。他人に対しては狡猾に、エイトに対しては執拗に。自己顕示欲がこんな所で発動するとは本人とて思わなかった。
(思えば馬鹿げた嫉妬だったよ)
 今となっては「くだらない」と失笑が零れるとはいえ、彼が懸命になって守り従うトロデ王やミーティア姫にさえ対抗心をたぎらせていた事もある。時にエイトがはにかみながら思い出話を口にすることにさえ、ククールは明らかな不快感を示した。
(アホか、俺)
 嫉妬心や独占欲に満ちた者の醜さを、ククールはよく知っている。嘗ては多くの女性から、そのような瞳で詰られた記憶がある。結局は、自分も恋に溺れた同属ということか。
(まぁ、でも。)
 そんな想いも、この暁を迎えれば清々しく消えてくれた。
 旅は終わったのだから。
 もう、これからは本当の意味で二人を縛るものなどないし、限りない自由が待っている。
……クク?」
 エイトの柔らかい頬の上で指を遊ばせていたら、気付いた彼が微睡ろみながら名前を読んだ。
「おはよ……
 惚けたような寝起きの顔は、和やかに心を擽る。彼の目覚めに、ククールが静かに答えた。
「まだ寝てろ」
 何せ昨日の今日だ。
 本願を叶え、偉業を成し遂げた次の日くらいは、ゆっくり寝坊しても構わないんだぜ?
 ククールがくったりとした彼の黒髪を梳きながら穏やかに言うと、エイトは再び眼を閉じた。
「じゃ、お言葉に甘えて……
「甘えろ甘えろ」
「うん。でも、もっと甘えて良いなら、」
 エイトはそう言うと、上掛けの中から手を這い出してククールの胸元を引っ張った。
「ククールも寝て欲しい」
「、おう」
 聞いてククールは柔らかく破顔し、エイトを抱き寄せる。
「なぁ、エイト。知ってるか?」
 花さえ溜息の出る美しい微笑が、眩しくエイトに降り注いだ。
「なに?」
「眠りは最後がイチバン“甘い”んだってさ」
 艶を帯びた彼の微笑みは、朝雫をのせた百合のよう。
「頑張った俺たちには最高のご褒美だと思わないか?」
……同感。」
 ベッドの中で、小さな笑いが重なり合った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 君の寝顔に救われる。
 天使のような、安らかな寝顔に。
 
 連れて行ってくれる?
 君の見る穏やかな夢の中へ、俺も。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【あとがき】
目覚めても、お布団の中でゴロゴロ&もそもそ、大好きです!
 
二度寝最高ー(ガッツポーズ)!!!!!
 
 
 
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