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世界は仮面舞踏会。 皆が皆、仮面を被って踊ってる。 本当の自分は絶対に見せずに、言葉のやりとりを愉しんで。 相手を読みあう駆け引きをしている。 世界の全てが虚構の舞台。 毎日が、仮面舞踏会。
Masquerade
−マスカレイド/仮面舞踏会− ベルガラックに来てからというもの、ククールの機嫌は常に良い。 それもそうだ。滞在の理由はカジノの景品を手に入れることで、いまや正当にギャンブルを楽しむことが出来たし、休憩にと酒場に足を運べば、彼の姿を捉える度に周囲の女性からは黄色い声が挙がる。ククールにとっては、此処は旅の合間の息抜きとして何ひとつ申し分ない。 今も彼は、フロアの向こうでショーバニーと歓談している。 ククールは見事なまでの麗しさを湛えて微笑み、誘うように妖艶な瞳で彼女を射止めている。彼の形よい唇からは心を融かすような台詞が紡がれ、その前に佇む彼女は、頬を少々に染めながら満面の笑顔で応えている。 「あんな見え透いた、歯の浮くような言葉を言われて、何が楽しいのかしら?」 酒場のカウンターに腰掛けたゼシカが、遠方での二人の様子を苦い顔で見ていた。 ククールが上機嫌な時は、どうもゼシカはそれとは対照的にイライラしている。憤然と腕を組みながら「馬鹿みたい」という彼女に、エイトは苦笑した。 ふと、ククールの視線がフロアを周回した。渋顔のままに勢いよくグラスを傾けるゼシカと、オレンジジュースを飲んでいるエイトを見つける。するとククールは、恍惚の表情を浮かべるショーバニーに軽い挨拶をして颯爽とすり抜け、カウンターの二人に近付いてきた。 「よう。ヤンガスは?」 「今、絶好調だからずっと回してる。ここで合流することになってるんだ」 そう言ったエイトの隣に腰掛けて、ククールはカウンター越しに注文をとる。 机に両肘をついたゼシカは、彼の姿を横目に見やって、冷たく言い放った。 「嘘は良くないわね」 隣で彼女の低い声を聞いたエイトは、言葉の意味を図りかねてゼシカを見た。 ククールは理解しているのか、彼女の突き刺すような言葉には笑顔で応えている。 「嘘じゃないさ。本当の事だよ」 「本心じゃないわ」 皮肉めいた、ぶつけるようなゼシカの言葉と視線。それを体よく交わそうとするククールの笑み。両者に挟まれたエイトは、何処かしら張り詰めた空気を肌で感じて緊張し、身を小さくした。 「同じ女性として、気に食わないわ」 ゼシカは更に続けた。 「彼女は嬉しそうだったけど」 ククールは満足気にグラスを傾けると、「美味いな、これ」と既に話を逸らせようとしていた。乾いたような彼の笑い声を聞いて、ゼシカが言い放つ。 「あんたなんか、一回フラれちゃえばいいのよ」 大きく椅子を鳴らし、ゼシカは怒気を露にして酒場を去っていった。 エイトは彼女の憮然とした態度に少々驚き怯えつつ、そのような事態にも余裕の表情を浮かべてワインを堪能しているククールにも戸惑っていた。 「怒らせちまった」 くっくっ、とかみ締めるような笑いを零して、ククールは身を屈めた。 「ゼシカの中での俺の好感度、またもやマイナスか?」 「ねぇ、ククール」 ゼシカが置き去りにした、この何ともいえない気まずい雰囲気が漸く消えるのを感じると、エイトはワインを味わっている隣のククールに問うた。 「どうして女の子を見つけたら、すぐ口説くの?」 「語弊のある言い方だな」 まるで病気みたいな言い方だと、彼の言葉にククールは不意に失笑して、掌でグラスを回した。真紅の海がグラスで波打つ様子を眺めながら、ククールは続けた。 「女の子を口説くのは、駆け引きを楽しむためだよ。勿論、俺を蕩けるような瞳で見てくれる娘がかわいいなっていうのもある」 「駆け引き?」 「そう。カードと一緒。奥底の心理を読みあって、探り合って」 ククールは、ただグラスの中で踊る紅のアルコールを見やるばかりだった。 「心を掴めれば、射止めることが出来たら、俺の勝ち?」 人の心を読んで、自分の言葉を選んで。そう、それはゲームみたいなもの。 そうやって心地よい緊張と刺激から手に入れたものは、他のものより幾分かは楽しませてくれる。虚無感に満ちる乾いた心を、少しは潤してくれる。 「勝つとか、負けるとか、そういう駆け引きが好きなの?」 いまいち意味を理解しかねるエイトは、キョトンと首を傾げて尋ねた。 「あー。好きだな」 「カジノでも口説きでもギャンブラーなんだね」 「口には気をつけたまえよ」 睨むように笑って、ククールはエイトの髪をクシャクシャと撫でた。 やめてよ、と頭に手をやるエイトを揶揄って、背の高いククールが彼の更に高い所より指を滑らせて髪を掻く。「もー!」と溜まりかねたエイトは、彼の興味を逸らせようと話題を変えた。 「でもさ、本当なのに、本心じゃないの?」 エイトは、先刻の二人の会話を持ち出した。ククールは本当の世辞をショーバニーに言ったと答えたが、ゼシカは本心ではない事を言うなと怒っていた。 不思議そうに首を傾げ、エイトはオレンジジュースのグラスの氷を鳴らし尋ねる。 「本当と本心って、違うのかな」 聞いたククールの手が止まった。 「、まぁな」 ククールには、彼女の言いたい事が理解出来る。 ゼシカは世辞や煽てを言う男を嫌う。そして、それに踊らされる女の方も好きではない。世辞を世辞として許容できない彼女が「かたい」と言えばそうかもしれない。更にこれが彼女の神経を尖らせるのは、あからさまなご機嫌取りの言葉が、心から放たれたものではないからか。確かに気の良い言葉は、彼女の望む誠実ではないだろう。 「……」 ショーバニーに対して「美しい」だの「綺麗」だの、賛美の言葉を述べている自分は、確かに彼女を美しく、綺麗だと思っている。この心に嘘はない。 しかし、本来ならば「美しい」とか「綺麗」だとかいう言葉に乗せられるであろう彼女に対する愛情などは、そこにはない。そう、ただ自分は彼女の気を良くする言葉を言って彼女を上機嫌にさせ、彼女の心を得たいだけだ。振り向く彼女を勝ち取って、優位になりたいだけなのだ。これは彼女の心と自分の力とを試しているに過ぎない。彼女と想いを通じ合わせて、睦み合って、……そこからどう、とは思っていない。 結局は彼女を宙吊りにして玩んでいる。 この行為に善悪が存在するならば、これは「悪」だろうと、ククールも自覚している。故にゼシカが怒る理由も理解できる。 「……」 「ククール?」 どうもゼシカは俺のあさましい部分だけを敏感に感じ取るらしい。ククールはそう思って、奥底で苦笑いした。 「まぁ、な。確かにあれは本心じゃない」 ククールが脱力したように一息ついて微笑む。 ほんの一瞬、彼の微笑に翳りが見えた。エイトは気付いただろうか。それは直ぐに隠されて、普段の彼らしい微笑に象られる。 「ほら、本心はお前だけだから」 ワインに注がれていた伏し目の瞳が、流れるようにエイトにふられて、ゆったりとした妖艶な笑みが少年の無垢な視線を射抜く。 「……」 それは、なんと美しく耽美に輝く表情か。 不意にエイトは魅了されて頬を赤らめ、きょとんとした顔をしていた。 「戻ろうぜ、部屋」 惚けたようなエイトの横顔に近付いて、ククールはその耳に優しく囁いた。 「俺、お前になら騙されててもいいかも」 「何それ」 風呂上がりのエイトの濡れ髪を、ククールは丁寧にタオルで拭く。 今はベッドの上で、二人は他愛ない会話を愉しんでいた。 「てか、騙されたいのかも」 ククールがにやにやと笑う姿をタオルの隙間から覗いていたエイトは、訝しげに上目で彼を見つめている。 「何で」 僕が君を騙すワケがない。 エイトはあらぬ疑いをかけられている気になってやや不満気味に言った。ククールは彼の詰るような視線を柔らかく受け止めて、優しい微笑を彼に見せる。 「メロメロに愛しちゃってるから」 「何それ」 エイトの膨れた頬に、ククールが啄ばむような軽いキスをした。 「ハマッてんの、お前に」 夜のしんみりとした空間に、唇の音がチュッとだけ聞こえる。エイトは擽られたように照れてもどかしい表情を見せたが、不満の色が消えた訳ではない。 口付けられた頬を少々に上気させながら、しかしエイトは真剣に言った。 「僕は君を騙したりなんかしないよ」 聞いてククールがニコリと微笑む。それはまるで子供をあやすような、冗談じみた余裕の微笑。 「正直者のエイト君ですからね」 「そうじゃなくて、」 真面目に聞いてよと、エイトが微笑を受け止める。 真剣な表情は変わらない。 「本当に君の事が好きだよ。本心でも君が好きだ」 「……」 「大好きだ」 「エイト」 理解る? と彼の真直ぐな瞳は念を押してくる。 言葉足らずのエイトは、不器用な自分の気持ちが伝わるか心配しているのだろう。見つめた瞳の奥の、心の深遠を貫くような真摯な瞳に、ククールは返す言葉を失った。 「……」 お前の口から囁かれる甘い言葉。 たとえそれが偽りであっても 騙されていたとしても 君と踊りたい。踊っていたい。 ククールは自然と、エイトの視線を交わすように苦笑していた。 「嘘でも俺、幸せだ」 彼の笑みが、何処かしら哀しげに映る。それは寂しさか。 「嘘じゃないったら、」 儚げなククールの心の翳りに、畳み掛けるようにエイトが続ける。 彼の胸元の服に手をかけて、お願いだから理解って、と懇願する。 「僕の本当に怯えないで」 僕には。ここには。 勝ち負けもない。騙し合いも探り合いもない。「僕」という全てで、洗いざらいの心で、君を愛しているから。 だから。 「君の本当を恐れないで」 真っ直ぐに向けられたエイトの視線は、有無を言わせないような固いもので。 君は、心の底から愛されることを怖れている。 裏のない深さや温かさを疑うあまり、怯えている。 だからいつもすり抜けて、身を任せないようにしているんだ。 穏やかな苦笑の一息を吐いて、ククールはエイトの真剣な眼差しを受け止めた。 「酒場でオレンジジュース君が、健気にも言ってくれるね」 「お酒が飲めないのは関係ないよ」 エイトが再び頬を膨らまして可愛らしくふてくされる。 「ごめん、ごめん」 それを見たククールは噴き出しそうになるのを堪えて彼を宥めた。 「俺、今さ、お前にノックアウトされそうだったから」 ついついはぐらしてしまったんだ。 図星を突かれたから。本音を読まれたから。 「もう」 今や真面目な空気の薄れたエイトは、やや不満そうにククールの胸を掴んでいる。ククールは胸元のエイトの髪を撫でて、彼を己に引き寄せた。 「でも、やっぱり嬉しいものだね」 「ククール」 相手に握られるのはスキじゃない。 自分が常に上で、勝っていたい。 でも、お前だけは。 お前にだけは。 俺の弱みを掴まれて、その手の内に掌握されたい。 「エイト。今日、眠れなくてもいい?」 抱き寄せて近付いたエイトの耳元に甘い声で囁いて、ククールはエイトを己の中で抱き締めた。 「夜更かしは苦手だよ、僕」 「知ってる」 ククールの体躯に絡むようにエイトの腕が滑り込む。擦れるシーツの音が部屋に融けて、長い夜の始まりを告げた。 どちらからともなく掌は相手の肌を滑り、唇は体躯のラインを辿り、切なげな吐息を絡めていた。簡易な寝間着は既に肌蹴て、煌びやかに上気した肌を覗かせている。 部屋のまだるい薄闇に、荒ぶる呼吸は波のように溶けだしていたが、折り重なる二つの影は、それとは逆らうように浮き立ち、物憂げな空間で甘く蠢いていた。 「ん……んっ、」 仄暗い闇が官能のさざめきを昂ぶらせる。シーツの布擦れの音が行為の深まりを耳に伝えている。 「ぁ……あ……あぁ」 甘い吐息に満たされた濃厚な空気が肌に絡み付いている。 「っは……ぁぁ……、ククール、」 他愛ない肉体が欲情を掻き毟る。湧き上がる強欲のままに唇を重ね合う。 「エイト」 ククールの細く長い指がしなやかに窪に忍び込み、揉むようにゆっくりとそこを慰めながら、奥へ奥へと進んでいく。 「う……ぁあっ、ぁ……」 濡れたエイトの秘窪が、彼の指に応えるようにうねる。 求めていた官能に悦び、そこは本能のままに彼を迎え容れた。 「気持ちいい?」 艶やかで、どこか嘲笑うようなククールの美しい微笑。それはどこかエイトを挑発するようで、彼の耽美なる笑みを一際に輝かせる。エイトは彼の視線に、戦慄に似た寒気を疾走らせる。 「う、んっ」 悦楽に歪めたエイトの表情が、誠に耽美に、ククールの熱を帯びた瞳に映る。 「俺は、まだ愛し足りない」 節ばった指が更にエイトの深くへと侵入する。 「っ、あぁぁァ……ッ!」 痛覚か快楽か判別らないまま刺激に昂ぶり、反りあがるエイト自身を唇に挟み込む。 「う……っんっ……ぁん!」 「もっと、お前を愛したい」 「……はっ、は……ぁ……ぁ、っああぁっ!」 唇は抱き寄せるようにエイト自身を慈しむのに、秘孔には激しい愛撫で訴えている。柔らかな咽喉に絡み合う唾液は、融けるようにエイトを抱いているのに、迎え入れる己の奥窪では、固い指が襞壁を遊んでいる。 身を捻っても執拗に追いかけてくる官能。逃げ切れない愉悦の波に容易く攫われてしまう理性。 「……はぁ……はぁ、ぁ……っはぁ、」 震えるくらいに心地よい。 「っ……クク、」 駆け抜けるような悦楽が、今にも脳天を貫こうとしたとき、エイトはギュッとククールの銀糸に縋った。 「あぁ、俺もいくから」 「……っう、ん」 エイトの下肢に蹲っていたククールが顔を上げて、艶かしく微笑んだ。瞳一杯に涙を溜めたエイトの瞼にキスを落とすと、ククールは彼の足を持ち上げた。 「エイト」 「ん……」 腰を深く落として、ククールがエイトに侵入した。 「……ぁぁ」 「エイト、凄ェ気持ちいい……」 解れた蕾は食い入るようにククールを圧迫し、貪るように吸い付いた。ククールは、自身を鷲掴みにされそうなほどの窮屈な抱擁を奥深くまで味わうと、引き抜いて再び己を押し付ける。 「あぁああぁっ!」 火照った肉体よりにじみ出る、甲高い淫らな声に急かされるように、ククールは抽送を繰り返す。煽られるままに自身を注ぎ込む。 「あ……っ、あっ、あっあっっ、」 エイトの秘孔はまるでこれを待ち望んでいたかのようだ。ククールに貫かれれば、強く抱きしめるように収縮し、引き抜かれると誘うように名残を残して切ない未練を与えていく。 「あぁ、凄くいいよ、お前ん中」 「……ぁぁっ……んっ、んっ、んっ」 乱れた吐息の合間に漏れ出る嬌声を追うように、行為の激しさが増していく。 熱い官能が全身を飲み込んでいく。 激しく腰を打ちつけて、温い体温と汗で触れ合う。淫らに湿った音と乾いた咽喉の呼吸音で部屋を満たし、嬌声を響かせる。 やがて二人は自我の狭間に至り、思考が昇華する極限まで、互いを求める動きを加速させていった。 「ぁあぁ! クク……!」 「……ッ」 艶めいた闇夜の中、淫らな月光の差し込む部屋。 エイトとククールは、愛しい人の熱い躰に強く絡みついたまま、昇りつめた高みに溶けていった。 ……ドンドン、ドンドン……
ドアを叩く音が、微かに聞こえる。 気付けばそれは次第に耳に大きく伝わり、煩わしいほど眠気を取り払ってくる。 ……ドンドン、ドンドン…… 「何時になったら降りてくるのよ! おいていくからね!」 ……ドンドン、ドンドン…… 「やっべぇ! 寝坊した!」 「うわっ! 今、何時?」 ククールとエイトは、それがゼシカの声とノックの音だと判別すると、一気にベッドより跳ね起きた。 「ど、どうしよう。まだ何も準備できてないよ!」 「こ、殺されるっ! MP満タンで殺されるぞ!」 二人は飛び降りるように、勢いよくベッドから出る。エイトは慌てて服を探し出し、ククールは急いで寝癖を直し始めた。 「ちょっと! まさか今起きたの!?」 漸く動き出した二人の雰囲気を感じ取ったのか、ゼシカの声色が変わった。 「すまん、ゼシカ。少し待て」 ドアごしに隙間から顔を覗かせて、ククールがゼシカに謝ろうとしたのが誤算だった。 上半身を肌蹴させた無防備な彼の姿が彼女の瞳に映った瞬間、ゼシカの怒りは最高潮に達していた。 「なっ! 何て格好で出てくるのよっ!」 「うわっ!」 汚い! という言葉と同時に、ドアの隙間から杖が襲ってきた。危うく頭部を直撃するところ、ククールは咄嗟に身を引いてドアを閉める。 「怖ェ……! 次にここを開けた時が怖ェ……!」 「ククール、その時間をなるべく短縮しよう」 この間に急いで用意を済ませたエイトが、ククールの装備品を整え始めている。 振り向いたククールは、慌てて服を着始めた。 「ドアを開けた瞬間、マダンテだぜ、ありゃ」 「だ、大丈夫だよ……」 大袈裟に身を震わせたククールを見て、エイトは笑う。 「か弱い美少年、ククール君を守ってくださいよ」 「任せて」 冗談で言った台詞を、エイトはすんなりと受け容れた。 「……本当?」 「本当」 エイトが彼の武器を差し出し、ゆったりと微笑む。 「だから甘えていいよ」 「……おう」 微笑みあった二人には、(一瞬だけではあったが)もはや恐怖はなかった。 お前を手にした俺には、仮面も皮も何もない。 素顔で笑って、喜べる。 あぁ、俺。 今、すっげぇ心地良い。 |
【あとがき】 言うなればククールは、 「羊の皮を被った狼」ではなく、「狼の皮を被ったヒツジちゃん」。 寂しくて弱っちくて、エイト君に助けて欲しくてメイメイ泣いているのです。 ● ● ● |
【番外編 気になるアノ人は】 「兄貴―! こんなに出やしたよー!!」 ヒラヒラとコイン領り証を舞わせて、ヤンガスがいそいそと酒場に来た時には、エイトもゼシカも居なかった。見渡せばここの常連である筈のククールすら姿がない。 「待ち合わせはここじゃ……?」 酒とショーの喧騒の中、うんうんと首を捻らせるヤンガスに、周囲の者は誰も答えてはくれなかった…… (ううぅ、可哀相だよう) |