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 あなたが教えてくれた。
 「愛する」ということ。
 「生きる」ということ。
 深く想うと心が震える。涙が出る。
 
 そう、この感情は、あなたが身をもって教えてくれたんだ。
 
 
 
 
 
 
 
「アリーナ様」
 クリフトの低い声が、月夜に染みた。
 ぼんやりと仄かに照る三日月が闇夜から浮き出るように覗いている。静かな夜だった。
「…お許しくださるのですか?」
 清雅な彼の顔が、少々迷いの色を挿す。
 その上でここまで二人で来た筈だったのに、クリフトは改めて隣のアリーナに意思を確認していた。
 パタン、と扉を閉めたアリーナは、やや照れながら「許すだなんて」と頬を膨らませる。
「私とクリフトは一緒なんだよ? お許しも何も、」
 今日、クリフトとアリーナは神の御前で永遠の愛を誓い合った。
 夫婦となった二人には、主君も家臣も何もない。
「…すみません」
「もう、謝るのも駄目!」
 クリフトの狼狽を見て、アリーナが柔らかく笑うと、自然と二人に笑みが零れる。
「少しずつお願いします」
 そう言ってクリフトは屈んでアリーナの目線に近付くと、額をコツンと当てて微笑んだ。
「…うん、」
 長閑な眼差しに照れて、伏し目にアリーナが頷く。
 彼女の桃色に染まった頬を愛しいと感じながら、クリフトは軽々とアリーナを抱えて寝室へと足を運んだ。
 小さな部屋に、テーブルと椅子と、鏡台とベッドがひとつずつ。この他にあるのは、愛し合う男と女。それ以外の何者も存在はしない。
 
 
 
 
 
 今宵、ここで。
 愛し合う二人が結ばれる。
 
 
 
教会の鐘が鳴る 
 
 
 
 
 
 思えば色んな事があった。
 アリーナがクリフトの気持ちに気付くまで、そして自分の気持ちに気付くまで、長い時間がかかった。互いの気持ちを確かめ合ってからも、様々な出来事があった。
 すれ違いもしたし、喧嘩もした。笑い合うことも、涙を流すこともあった。
 そうして二人で大きな壁を乗り越えて、打ち破って、今、ここに居る。
「…愛しています」
 アリーナを優しく丁寧にベッドへと運んだクリフトは、彼女の前に跪いて言った。
 聞いてアリーナが思い出す。彼がはじめてこの言葉を言ったのは、決戦前夜のことだった。
 明日は死ぬかもしれないと彼の前で言ったら、「代わりに私が死にます」と言われた。そんなのイヤだと言うと、結局は「どちらが死ぬか」という言い合いになっていた。あなたの為に死ぬとか、あなたが死ぬなら私も死ぬとか。そんな堂々巡りをしていると、ふいにクリフトが心の内を曝したのである。
 
   “愛しているから、共に生きてください” と。
 
 その時ばかりは不敗の最強武闘家は少女になって、突き刺さりそうな恋の苦しみに胸を鳴らせていた。
「この時を待っていたと言えば、不謹慎ですか」
 アリーナが彼の言葉を思い出と共に反芻していると、目の前のクリフトがやや恥ずかしそうに尋ねてきた。
 気付いてアリーナは首を何回も振って笑う。
 誠実で真面目な彼は相変わらずだ。いつかは自分を対等に愛してくれるだろうが、これでは時間がかかるに違いない。
 可笑しそうに微笑んで、アリーナは正面に跪くクリフトの手を取って立ち上がらせた。
「待ってたのは、私もだよ。クリフト」
「…アリーナ様」
 彼の手を引っ張って己とベッドの中に誘い込むと、クリフトは少し緊張してアリーナの上に倒れ込んだ。
「これから、よろしくね」
 
 
 
 
 
ドキドキして、もどかしくて、苦しくて、切なくて。
嬉しくって、悲しくって、胸が熱くて、いっぱいで。
 
 
 
 
 
 そうしてクリフトはアリーナの上に乗り、優しい愛撫を加えながら彼女の服を脱がせていった。アリーナの滑らかな柔肌にクリフトの硬質な指が滑って、火照りゆく四肢を宥めている。
「あ…クリフト…」
 もどかしい刺激に合わせて、小さく声がはねる。ピクンとくねる身体から漏れ出るようなアリーナの嬌声。そのなんとも可愛らしい声に、クリフトは昂ぶった。
「アリーナ様」
 疼く本能のやり場を求めるように、彼はアリーナの唇を彷徨う。
「んん…ん…」
 可憐なその唇は瑞々しく、そしてとても柔らかい。己の唇を押し当てれば、戸惑いながらも懸命に弾力を返してくれる。湿った呼吸を漏らしながら、精一杯に口付ける様子が何ともいじらしい。
 柔らかな二つの唇は、交互に重なって互いの唇を吸い続け、吐息を絡めあい、咥内に温い唾液を溢れさせる。
「ん…っはぁ…」
 自分との口吸いに思いの丈を注ぎ込んでいらっしゃるようだ、とクリフトは感じた。
 激しい交わりに身を震わせながらも、アリーナは己の肩にしがみ付いてこれに応えている。伏した瞳に見える長い睫毛はしっとりと濡れていて、行為に没入していく自分自身に困惑しつつも、身を投じていくようで。
 その姿の何と美しいことか。
「…アリーナ様、」
 これに焦がれたクリフトは、彼女の小さな両唇に割り入って、舌を突き出して差し込んできた。
「ん…ぁ…っ、」
 歯列を確かめ、緊張する彼女の舌を絡めとり、味わうように咥内を這う。
 彼を迎え入れたアリーナの顎が小刻みに震えて、頬が紅潮してきた。激しく口を犯され、痺れるような甘い官能を送り出された身体は次第に熱を帯びはじめる。彼女の細い身体は、喘ぎ声に合わせてしなやかにくねり、クリフトを求めた。
 クリフトはそうして身悶えるアリーナの身体を確りと腕に抱き、己の胸に包んで温める。髪を梳き、頬を撫で、背中を擦って宥める。
 優しい、優しい抱擁。
「ぁ…ん、クリフト…」
 乱れる吐息の合間に呼ばれて、クリフトがふと行為を止めて彼女を見つめた。赤く濡れた唇から卑猥な銀糸が引いて、離れる二人を繋いでいる。
「好きだよ。大好きだよ」
 苦しそうに、切なげにアリーナは言った。
 温い吐息を不規則に漏らし、瞳を潤ませて懸命にそう訴える彼女の姿に、クリフトは胸が熱くなって身が切り締められる。
「…私もアリーナ様が大好きです。愛しています」
「うん。愛してる」
 照れも恥じらいもなく、真っ直ぐ瞳を見て言える。正直な心で、確りと伝えられる。
「大好き。大好き。クリフト」
 愛の言葉を交し合うと、二人の唇は再び重なった。
 
 
 
 
 
「大好き」と「愛してる」
あなたが居たから理解った。
 
…あなたが教えてくれたんだよ?

 
 
 
 
 
 全てを取り払ったアリーナは、一糸纏わぬ姿に最初は恥ずかしがって緊張していたものの、彼の愛撫を肌に刻まれる度に身体は弛緩し、己もまた求めるようにクリフトの服に手をかけていた。
 ベッド下に落とされていく服を見ては次第に露になる彼の肉体に頬を染め、アリーナは彼に釘付けになっていく。今や裸を見せあうこの状況を、惚けるように眺めて佇んでいる彼女は何ともいじらしかった。
 クリフトはそんな彼女を調べるように、優しく肌をなぞる。
「あ、」
 掌で、指で、唇で、舌で。
「やぁっ、…ぁん」
 ヒクヒクと身震いして官能に身をくねらすアリーナが愛おしい。己の痴態と嬌声に戸惑って、伏し目に構える姿さえ恋焦がれてしまう。
「…クリ、フ、ト…ッ」
 滑るような白い肌をほのかに上気させ、ふうふうと甘い吐息を零しては詰るようにクリフトを見つめている。少女でありながらも、熱を帯びた色気ある眼差しを注ぐ姿は成熟した女のもので、クリフトはこれに興奮した。
「アリーナ様」
 彼女の柔らかい膨らみに手を添えて、持ち上げるように揉みしだく。ツンと上向く突起を指で挟み、弱い刺激を与えては揺らす。クリフトの指が食い込み、乳房は淫靡に形を変えた。
「あんっ、ゃぁん…っ」
 アリーナは鳴くような甘い声を漏らす。
 堪らずクリフトは鎖骨を伝って唇を這わせ、己の玩ぶ突起を口に含んだ。
「ぁ…っ!」
 尖らせた舌で転がし、舐め上げる。温かくじっとりと涎を垂らした唇が乳房を覆うと、アリーナの細い四肢はビクンとくねった。クリフトは、彼女の例えようもなく柔らかいその膨らみの谷間に顔を押し当てると、手と唇で愛し続けた。
「あ…ん…クリフト…ッ」
 彼の前髪と、熱い吐息が胸にかかって擽ったい。
 それだというのに、アリーナは胸に埋まるクリフトが狂おしいまでに恋しくなって、己の胸に抱え込むように彼の頭を抱きしめた。
「…アリーナ様…っ、」
 くぐもった声がして、アリーナは彼の強い腕に抱かれる。
 愛しい人。
 彼は己の胸元で彷徨い、まるで子供のように乳房を吸っては玩んではいるが、麗しい柳眉の下の伏し目や睫毛、すらりと通った鼻筋などは蠱惑的な男の色香を漂わせている。普段であれば流麗清涼な言葉を紡ぐ知的な唇と細い顎は、今や淫らな唾液で濡れている。本能に立ち返った雄の彼の、なんと淫らで綺麗な。
 アリーナがクリフトに見惚れていると、クリフトの片方の手指は腹を這って彼女の茂みへと分け入っていた。
「あっ…っ」
 恥毛をかき分けて双丘を割り、蕾を探る。
「ゃぁ…そこは…っ」
 クリフトがそこに指を沈めると、淫音がした。
「…恥ずかしいよ…」
 既に蜜で溢れかえっていた秘園は、クリフトの指を迎えてとめどない涎を垂らしていた。
「恥ずかしくありませんよ」
 クリフトは恥辱に頬を染めて俯くアリーナの髪を撫でて宥めながら、ゆっくりと縦の裂け目を愛撫する。蜜を絡めて踊る指は、滑らかに動いては膨れる蕾と震える花弁を探った。
「…とても可愛らしい…」
「や…ぁんっ!」
 淫らな水音を立てて蠢く指は、執拗に窪の周囲で戯れ「彼女」の形をなぞっていく。焦らされる感覚にアリーナは腰をくゆらし、弱々しく足を動かした。
「あ…ぅん、あぁん…」
 彼女は恥じらいに呼吸を荒ぶらせつつも、「彼」と彼に齎されるものを期待して待ち焦がれているかのよう。
 クリフトは今すぐにでも己の怒張を求めるそこに自身を挿入したいと思ったが、彼女と自分を焦らしたくもなり、半ば導かれるままに顔を近づけていた。
「あぁ…こんなに濡れて…」
 クリフトは無心にそう呟いて、アリーナの秘園へと舌を突き出していた。
「あっ…やぁ…っっっ!」
 突然の刺激にアリーナは大きな声でその驚きを表した。
「だめっ…だめっ、汚いよぅ…っ!」
 もはやクリフトは貪るように顔を埋め、咽喉を鳴らして蜜を飲んでいた。唇を寄せて蕾に吸い付き、花弁を押し割って蜜をかき出す。甘い香りと湿り気を漂わせるそこに、クリフトは執拗く唾液をすりつけた。
「あぁ…こんな…っ、や…だ…ぁ」
 アリーナはクリフトの指と唇から逃げるように腰をくねらせたが、与えられる刺激に強く抵抗できない。
「汚くありませんよ、凄く美味しいですよ…」
 クリフトは閉じようとする彼女の脚を掴み、両手で勢いよくこじ開ける。
「あんっ! や…ぁ…!」
 あられもない痴態を曝されたアリーナは、首を左右に振って懇願した。瞳を潤ませ、目尻には雫を溜めて淫戯に耐え、クリフトを見つめている。
「…イヤですか?」
 クリフトが微笑した。
 困惑とも苦笑とも揶揄とも言えない、不思議な微笑み。
「ううん。…恥ずかしいけど、イヤじゃないよ」
 アリーナもまた似たような表情で微笑み返す。
「クリフトになら、何をされてもイヤじゃない」
「…アリーナ様…」
 
 
 
 
 少女が恥じらいを脱ぎ捨て、女になろうとしている。
 
 
 
 
 クリフトは時間という時間をかけてアリーナを愛した。
 彼女の髪も、足先も、背中も瞳も何もかも。
「あぁ、ぁ、あ…ぁん、」
 その度に震える彼女を強く抱きしめ、口付けを落とし、愛の言葉を耳に囁く。愛撫の度に掠れる声で名前を呼び、「愛している」と見つめ合う。身体を重ねて肌を触れ合い、全てを交ぜ合わせる。シーツの上で本能のままに猛り、乱れる。
「あぁ…ん、んっ、んん…」
「…はぁ…ぁぁ…」
 クリフトは己の指を飲み込んだ彼女自身を見ながら、抽挿を繰り返していた。
「…クリフト…クリフト…」
 恍惚に幼顔を歪め、身体を桃色に上気させ。しどけなく開かれた唇からアリーナが喘ぐ。
 甘く切ない声がクリフトの胸をかき毟る。淫らな嬌声が彼を駆り立てる。泣きそうな吐息を漏らすその唇を吸いながら、クリフトは下半身の彼女の秘唇にも丹念に愛した。
「…気持ちいいですか…」
「…うん…」
 悦びに涎を垂らすアリーナの淫窪は彼の手指を濡らし、滝のように溢れていた。じっとりと濡れた蜜壷をかき回し、クリフトは二本の指を深く沈める。
「あ…っん!」
 彼女の中は温かく彼を迎え、膣道は愛液を絡めながら抱きしめるように圧迫する。内襞はぎゅっと収縮してクリフトの指を吸い、大きくうねって吸い尽くそうと集まってくる。
「あぁ…この中に…、」
 節ばった長い指を奥深くまで突き挿しながら、クリフトは深い息を吐いて言った。
「うん…」
 アリーナは彼の指の刺激に顎を諤々と震わせながらも、クリフトの髪を梳いて強請った。
「…クリフトにきて欲しい…」
 淫らで、神々しいほど美しい微笑が注がれて。
 クリフトはまるで聖母のような笑みを湛えるアリーナの瞳を見て、静かに口を開く。
「…いきますよ」
「うん」
 
 
 
 
 
あなたが教えてくれた。
「美しい」って、どういうことか。
「悲しい」って、どういうことか。
 
あなたの全てに優しく包まれて、涙が出る。
そう、この涙は、あなたが居てくれたから流れるんだ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…愛しています。アリーナ様」
 
 
 
 
 
「愛してる。クリフト」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 朝がきて、教会の鐘が鳴る。
 
 天を突き指さんばかりに聳える聖堂の高台から、朝を告げる鐘が鳴り響く。
 白みはじまたばかりの空に響く鐘の音。カラン、カランと透明な天蓋いっぱいに広がる神聖な音色。
 鳥篭より放たれた白い鳩が、明けたばかりの空を悠然と泳ぐ。豊かに広げた翼が朝日を浴びて輝く空気を切り裂き、清々しい羽ばたきの音をさせて街を飛んでいく。
 遠くに鳴り響く教会の鐘の荘厳な音と、窓より聞こえた翼の音を耳にして、アリーナが目覚めた。
 美しい朝。
 カーテンの隙間より漏れ出でる光に目を細め、アリーナは半身を起こす。
 隣には、真っ白いシーツに身を包めて寝返りを打つクリフトが居る。安らかな寝顔を無防備に見せて、枕にしっとりと顔を埋めていた。
 子供のような、無垢な表情。陽光を浴びてうっすらと髪が煌いている。
 天使みたい。
 愛らしい彼の寝姿にそう思ったアリーナは柔らかく微笑むと、彼に耳元に寄り添って啄むようなキスをひとつ、落とした。
「おはよう、クリフト」
 
 
 
 
 
 今日から始まる新しい朝に。
 あなたに。
 
 
 
教会の鐘が鳴る 

 
 
 
「これからも、よろしくね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【あとがき】
   結婚した日の夜のお話のつもりで書いていますが、
   二人の経験は以前にあってもなくても良いと思っています。
   ここで大事なのは、神の前で誓って「本当の夫婦」になった朝であって、
   クリフトに手練のニオイがするとか、
   クリフトが遂に本腰を入れてエロ神官になったとか、そこじゃないです(笑)。
 
 
 
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