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 お前を手に入れる事が道に反するならば、
 人を辞めたって良い。
 今の俺なら、神にだって逆らえる。
 
 
 
Love is Blindness / 恋は盲目
 
 
 
「マイハニー。決戦前で気が張るのは分かる」
 自分ですらこんなにも嘘がスラスラと言えるなんて思わなかった。
「これで最期かもしれないんだから、アローザさんに顔だけでも見せてこいよ」
 俺は純真なゼシカを欺いている。
 本当はゼシカには居て欲しくないんだと、言えよ、自分。エイトと二人で過ごしたいから、邪魔なんだと。
 決して正直にはなれない自分。なったところで、解決する話でもないが。
 仲間にさえも、偽り繕う。仮面を被った醜い俺。
「兄さんの仇を討てるなら、死んでもいいわ」
「アローザさんはどうするんだよ」
……
 気の強ぇ女。美人だけど、この歳で敵討ちなんて所が唯一の欠点。可愛いんだけど、そこは可愛くねぇ。
 それでも時折みせる今のような不安顔は、俺は好きだけど。
「俺が送ってやるから。今夜だけは素直になっとけ」
 ゼシカの肩を抱いて軽く揺すると、ゼシカは不満そうにもコクンと頷いた。反感は覚えていても、アローザざんの事は気になるらしい。俺だってゼシカが死ぬとは全く考えていないけど、子供を2人も失うことになってみろ。俺達、アローザさんに殺されるぞ。
「ヤンガスも、さ」
「えっ? アッシでがすか?」
 急に話をふられたヤンガスは戸惑っていた。多分、ヤンガスは今、考えていた。
「あの人に挨拶してこいよ」
「なっ、何でゲルダなんかにっ!」
 ほら、図星。俺は名前を言わなかったぞ。
「行ってこいって」
 正直なお前が羨ましいよ。
 ヤンガスもブツブツ文句は言ってるが、本当は行きたかったんだ。俺がエイトにルーラを頼もうとしたら、キメラの翼を貸してくれだと。兄貴でも踏み込めない領域なのか?
 俺とゼシカがリーザス村へルーラした後に、ヤンガスは彼女の屋敷へ行ったらしい。ゼシカを送り届けて戻ると、一人になったエイトが俺にそう言った。
 
 
 
 
 
「しっかし、ドルマゲスを倒すっていうのに鋭気を養うのが此処とはなぁ」
「闇の遺跡には、此処が一番近いからね」
 海辺の教会の粗末なベッドで、エイトは苦笑しながら俺の悪態に付き合った。
 ポツリ、ポツリと巡礼者が祈りに来るが、北西の孤島より流れ出る邪悪な空気を感じるためか、彼らは足を留めようとしない。
 もしかしたら、既にここを宿にと構えている俺達の空気も張り詰めていたりして。
「どうせならベルガラックで一晩中カジノをしてても良かった。あそこも近いよな」
「寝不足で身体がもたないよ」
 此処でお前を一晩中抱くよりはもつだろう、とは言わなかった。隣のベッドでゴロリとふて寝する俺を見ずに、エイトは笑っている。
 さっきから道具の確認をしてばかり。お前、実はそれが趣味だろ?
 大切な人の所へ戻った2人の装備品を確認している。エイトは抜け目がない。あいつらにゆっくりと時間をあげたいんだろ。ゼシカ、ヤンガス、お前ら本当に幸せだよ。
 でさ、エイト。俺も見ろよ。
 恥も外聞も捨てて、お前だけを欲しがっている、哀れな獣を。見てくれよ。
 そう思いながら、そうとは言わずにエイトを眺める。暫しの沈黙。
「ククールは行きたい所、なかったの?」
「あぁ、俺?」
 2人の装備品を並べながら、エイトは言った。俺との会話が「ながら」なのは気に食わないが、それでも嬉しい。
 少々の嫉妬と、声を掛けられて踊る心を悟られないよう平静を装う。俺ってば単純なのに素直じゃないから。
 前髪を掻きあげて、キザったらしく言って見せる。
「修道院を追われた根無し草の俺に、帰る所なんてねぇよ」
 エイトが微笑した。お前は知っている。こんな時の俺は格好つけているんじゃなくて、自嘲的になっていることを。仮面を被って強情を見せて、その内では寂しがっていることを。
「お払い箱の僧侶だからなぁ」
「また、そう言って」
 俺が自虐的に言うと、エイトは優しい顔を上げてくれた。
「居場所がない人なんて、居ないよ」
 のほほんな顔して、それでいて深い洞察力を持つお前に、最初は驚いて、脱帽して、恐怖した。自分が見透かされていくようで。心の闇を見つけられそうで。
 笑えよ、って次は思った。笑って俺を貶めてくれと。でも、お前は俺の闇を見ても、引かないんだ。
「行く所がないのは、きっと、ククールの居場所が此処だからだよ」
……
 お前が俺の、この全ての不安と弱さを包んでくれると気付いた時には、もう最期。俺の全部がお前にはまっていた。この容姿で手に入れられないモノは無かった俺が、初めて感じた所有欲。
 自分自身に笑いが込み上げてきて、冗談を言ってしまう。
「此処って、呪われた王様と馬姫様と、その兵士の所か?」
「うーん、そうだね。今はメンバーが減ってるから」
 呪われ王国の一部かよ、と言うと、エイトは苦笑いして頭を掻いた。
 大丈夫だって。こんな事言ってるけど、俺、今の言葉で少し救われたから。
 でもな、一つだけ訂正させてくれ。
「違うだろ」
 俺は起き上がってエイトのベッドに腰掛けた。並んでる道具なんて気にしない。
「え? 何が?」
 ヤンガスの分の薬草を俺が下敷きにしたらしい。慌ててエイトがそれを見ている。でも、その慌てぶりが薬草の事だけじゃない事は分かる。
 今、俺達、すっげぇ近いもんな。
「俺の居場所は此処だって」
 エイトの胸をトントンと指で叩いた。
 俺はお前のもの。この中に閉じ込められているんだぜ?
「ちょ、ククール……
 あ、今の俺ってば格好良かった? エイトの頬がだんだん赤く染まってきた。
 俺が真っ直ぐにその黒い瞳を見つめると、お前は俺を映した後でそっと瞳を伏せる。
 それが「OK」の合図だと、俺は思ってる。
 散らばり放題の道具類に囲まれながら、俺はエイトを抱き寄せて、何の弾力も無い埃っぽいベッドにその身体を寝かせる。
「ダメだよ、」
 そんな顔で「駄目」って。誘ってるようにしか見えないだろ。
「何で」
「靴、脱いでよ……
「、意外にも冷静だな」
 おう、靴でも何でも脱いでやるよ。お前を土足で汚そうとは思わない。
 
 
 
 
 
 やっぱり、巡礼者が居ないのはドルマゲスのせいだ。海は見たこともない位に荒れているし、大地には立っていられない程の風が吹き荒んでいる。シスターは恐る恐る修道院へ戻り、神父はこの天候を「神の怒り」だとして礼拝堂で一心に祈りを捧げている。
 この天候が「神の怒り」によるものなら、その原因は俺だ。今、俺はこともあろうか教会の宿で神を冒涜しているのだから。
「人が見てたら――
 息荒いエイトが呟くように言った。
 遠くから、吹き荒ぶ風のゴウゴウという音が聞こえる。荒れ狂う波のザアザアという音も重なって、教会は音という音で揺すられていた。
「カーテン、閉まってる、だろ、っ」
 途切れ途切れに声が出る。俺も息が上がってた。
 馬鹿だな、エイト。そもそもこんな天候で今から来る奴なんか居るかよ。此処には、お前と俺しか居ないんだ。
「でも、音がっ、聞こえるよ……
 音って。
 お前、この周りの音は聞こえてない訳? 集中してくれてるのは嬉しいけど。
「それは、お前次第」
「もう、っ」
 ふて腐れる余裕があるんだな。今にそれも出来ないよう、喘がせてやるよ。
「あっ、クク……
 波も、風も怒ればいい。神よ、俺を裁けばいい。
 こいつを手に入れられれば、俺はお前に逆らうことさえ出来るんだ。
 
 
 
 
 
 夜の全てを使って愛したと思ったのに、清々しい朝が俺達を迎えた。絶対、寝不足でお互いに不機嫌になってると思ったのに。
 身支度を整えて、装備品を次々とつけていく。今日は、ドルマゲスを倒す日だ。
 乱れた髪を梳いて、一つに結ぶ。途中で解けないようにと集中して、瞳を閉じて結う。
「ククールってさぁ、」
 槍を背にしたエイトが普通の声で話してきた。昨日のお前は欠片も残っていない。
「なに」
 伏した目でチラとだけエイトを見やった。エイトはまじまじと俺の顔を見つめている。
「いや、睫毛まで銀色なんだなぁって……
 何を馬鹿な事を言ってるんだ。当然だろ。
 驚いたように見つめるエイトが愛しくて、からかってやる。
「下もだぜ」
 ニヤリと笑うと、エイトは顔を赤らめた。今更照れるか?
「そっ、そんな事聞いてないよ!」
「え? 何なに? 見たい? てか見る?」
「いいよっ! いらないよ!」
 ズボンをゴソゴソしだした俺を突き飛ばすようにして、エイトは部屋を出ようとした。つれねえなぁと俺が呟いた瞬間、エイトの背中からポツリと聞こえてきた。
「もう、知ってるし……
 あぁ。本当、お前ってかわいいよな。お前へのいとおしさで、俺、死ねそう。俺を殺せるのは、ドルマゲスでも神でもなくて、そう、お前の笑顔だったりして。
 もう放せない。離れられない。
 絶対生きて帰って来よう。もう一度お前を抱けるように。これから何度も愛せるように。
 全てが終わったら、俺はお前に「永遠」を誓ってやる。
 誰に笑われようとも、誹られようとも。俺の全てをお前に晒してやる。
 
 ドルマゲスでも何でも来やがれ!
 
 
 
 
 
 なんて、恋は盲目。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【あとがき】
歌いながら書いたのが逆効果だったかもしれません。
折角の名曲を冒涜してしまうほどの稚拙さですが、どうぞよっしーさんへ!
ポッフィーのいっぱいいっぱいですっ
リクありがとうございましたっ☆
 
 
 
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