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貴女は無邪気な小悪魔。 天真爛漫な微笑みで、私を恋の深みにつき堕とす。 堕ちた神官を、貴女はいかにして喰らうおつもりか。
小悪魔と堕天使
「何かあるな? とは思っていたけど、お姫様と神官様がそういう関係だったなんてね」 揺れる船室のベッドに胡坐をかき、マーニャは爪の手入れをしていた。些か天井が低いのが気になるが、ここのベッドはこれまで経験してきたどの安宿のそれよりも数倍の弾力があり、深みもある。マーニャは潮風に髪が痛むことを除けば、船での旅は好きな方だった。 「つい最近だよー。色々と変化が起きたのは」 「私達と合流したくらいから?」 「そう」 今、隣のベッドに横になっているのは、妹のミネアではない。ミネアは「西に運命の光を見た」と言ったきり、甲板から星を眺めて降りてこない。アリーナが「風邪を引くよ」と彼女を船室に促したものの、ミネアは夜空を仰いだまま返事もしなかった。マーニャは心配するアリーナに「妙な所で融通がきかない性格なの」と笑いかけ、妹の代わりに彼女を自室に迎えたところだった。 「でさ、どこまでいったの?」 「どこまでって?」 両手の爪の手入れを終えたマーニャは、その出来栄えを確認しながら話しかけた。 「アリーナ達ってさぁ、セックスはしたの?」 普通に質問したつもりだった。照れて恥じる年頃でもないと、マーニャはそう思っていた。しかし。 「セックスって、何?」 「え」 驚愕の返事がマーニャを強張らせた。 「ねぇ、何?」 「あんた、知らないの?」 照れて恥じる年頃どころか、この年齢で知らないとは。 無垢な表情で小首を傾げて横たわるアリーナの顔をまじまじと見ても、やはりそうだ。彼女は本当に知らないらしい。 (サントハイムって王宮は何を考えているわけ? お姫様の大事なコトっていったら、コレしかないでしょ!) マーニャは暫くアリーナの無表情を真剣に見つめていた。あまりの衝撃に手を震わせ、丹念に塗った折角のマニキュアで指を汚していた。 「マーニャ姐様、指……」 アリーナが気付いてムクリと半身を起こしたが、どうやら彼女は滲んだ爪の事などはどうでもいいらしい。 瞬間、マーニャは考える。 これまで彼女の嘲笑い相手だったミネアはもう成長して、やや面白みに欠けていた。玩具にするつもりが、反撃に痛烈な皮肉や小言を言われ、最近は防戦一方だった感がある。それが今、ミネアに代わり得る「玩具」が、マーニャの眼前に居ることに気付く。 マーニャの口端が奇麗に上がった。 「セックスは、愛し合う二人がする、とってもイイコトよ」 「どんな事?」 アリーナが身を乗り出してきた。 「前戯から後戯までイチから説明するのも陳腐で億劫ね」 「?」 マーニャは豊かな紫の髪をクシャクシャと掻きあげて、面倒臭そうに言う。 「でもね、」 キョトンとした丸い瞳で自分を見つめるアリーナを見て、マーニャは極上の笑みを作った。凄艶の魔道士に、ひときわ華やかな色が挿す。 「兎に角、愛していたら欲しいもの。求めるもの。セックスってそんなものよ」 彼女は続けた。 「純愛は恋愛じゃないわ。クリフトだってアリーナと恋愛してるなら、セックスしたい筈よ」 男ならね、とマーニャは笑った。 言葉を重ねる毎に、アリーナの顔が難しくなっていく。 「うー。結局何だかわかんないよ」 「そうねぇ……っあ!」 マーニャは足をバタつかせてニヤリと笑った。 「あとはクリフトに教えて貰いなさいよ!」 「クリフトに?」 勘の鋭いマーニャは、今の会話で二人の関係を大方理解できた。 多分にクリフトは知っている。知らないアリーナの方がおかしいとマーニャは思った。クリフトは恋する彼女と想いを通じ合わせていながら、手を出していないらしい。それはきっと、アリーナが件に関する知識を持っていないからであって。 なんという不毛。 無知なる姫君の成長に合わせて、彼は何も言わずに待っているのだ。彼女の身体が、彼を受け容れられる成熟を迎えていることはマーニャでなくとも判る。アリーナは十分に雄を誘惑できる魅力を備えていた。 しかし、物悲しく隠された彼の葛藤に同情するほどマーニャはお人好しではない。寧ろそんないたいけな神官をも自らの玩具にしてしまう狡猾さを持っている。 「そう。あの神官さんなら分かりやすーく教えてくれると思うわ」 噴き出しそうになるのを堪えて、マーニャはアリーナを見送った。 「ミネアによれば、西にもう一人、運命に導かれた戦士が居るらしくて」 ミントスで入手した世界地図をテーブルに広げ、勇者ソロは老魔道士ブライと顔を付き合わせていた。 「それは占いの結果ですかな?」 「いや、占いとか、そういうんじゃなくって、感じるみたいで……」 「ふむ」 ブライの鋭い眼光は、少々ソロを萎縮させているようだ。 風呂を終えたトルネコとクリフトが二人に割って入ると、ソロがやっと安堵の表情を見せる。クリフトは苦笑した。 「西と言っても、具体的には何処か判りませぬか」 唸るようにブライが言葉を発すると、トルネコが湯上りの頬を扇ぎながら、やや緩慢に言った。 「西の大陸には、劇場と歓楽街の賑うモンバーバラと、奇怪な噂の犇めくキングレオ城がありますな。はて、」 「行くしかない」 ソロは間髪入れず言った。 「手当たり次第に話を聞いて進むしか――」 「やみくもに進んでも結果が出る訳ではありませぬ」 ブライが彼の言葉を制するようにピシャリと言い放った。 老魔道士の経験上、年端のいかない若者のソロに素直に従えないのは理解できるが、これでは仲間をまとめるソロに不満が蓄積されるのも無理はない。両者の立場や思いが分かる分、クリフトは何も言えなかった。 言葉の不得手な自分が安易に仲裁には入れない。クリフトはそう思って、今や張り詰めた雰囲気に同じく身を投じるトルネコを見やった。すると、彼もまたクリフトの心情を理解したのか、彼の視線に気付くと、隠れて苦笑して見せた。 「まぁ、船が西へと進まねば話も進みませんよ。ここはまず装備の確認をして、大地を踏むまでゆっくり構えましょうよ」 トルネコがそう言ってにっこりと微笑むと、場の空気は一変して朗らかなものになった。それは彼にしか出来ない不思議な芸当。クリフトは密かに彼に礼を言うと、調理場へ向かい、紅茶を入れた。 温かい紅茶をすすり、皆が一息ついた時、 「クリフト!」 軽やかな高音と共に、踊るような足取りで階段を下りてくるアリーナが現れた。 「姫様」 彼がアリーナの声にそう返事をしようと思った瞬間、 「クリフト! セックスしようよ!」 彼女の大きな声は、甲板のミネアや船室のマーニャにも聞こえただろう。 瞳を爛々と輝かせ舞い降りた少女には、一片の恥じらいもない。天使のような無垢の笑顔で、期待に胸を膨らませて、クリフトを見つめている。 「……ッッッ!!!!!」 ブライ、トルネコ、ソロ、クリフト。 この場に居合わせた全員が、口に含んでいた紅茶を勢いよく噴き出した。 「はっ……は、はぁっ!?」 彼女の爆弾発言に、クリフトは漸く抜けたような返事が出来たが、後のメンバーは吃驚と困惑、狼狽に言葉を失っている。 「な、ななな何を仰って――」 「クリフトとセックスするの」 「!」 淀みなく流れ出る言葉はあまりにもダイレクトで。 何か悪いものでも食されたか、彼女にどんな最悪の事態が生じたのだろうと、クリフトは紅茶にむせながらも椅子から立ち上がって、恐々とアリーナの様子を窺おうとした。 しかし、背後から凍えるほどの戦慄が疾走り、クリフトを射止める。 「クリフト……おぬし……」 白い髭を紅茶で濡らしたブライが、あまりの怒りに打ち震えているようだ。 「しっ、してませんよ! してませんったら!」 慌てて振り向いたクリフトは、懸命に顔と両手を振った。 痛々しいほどの無実の証明、潔白の主張。ミントスで臥せっていた頃以上に顔を真っ青にさせている。 「まだ何もしてませんよっ!」 混乱するクリフトが口を滑らせた。 「“まだ”、じゃと……」 その言葉にピクリと反応したブライが、凄みを増して眼光を鋭くさせる。今にも最強の冷気呪文が船内を襲いそうな雰囲気だ。 「あっ、い、いえっ!」 背筋も魂も凍らせられるのではとクリフトが後ずさりすると、彼の背後からアリーナが言葉を投げてくる。 「クリフト、どうしたの?」 不思議そうに顔を見つめる愛らしい顔は、今はただ恐怖をそそらせる。 「セックス、しようよ」 アリーナの口から再びその言葉が出た瞬間、ブライはクリフト目掛けて杖を構えていた。 「クリフトォォォッッッ!! このたわけがァッッッ!!!」 「わっ、ちょっ、待っ……!」 「ラ、ラリホーマ!」 その時、ソロの呪文がブライにかかった。 あまりに眼前のクリフトに怒涛の限りを注いでいたのだろう、ブライは横槍に投げかけられた催眠魔法に気付かなかったらしい。 「俺のレベルで爺さんに効くとは思わなかったが……良かった」 「本当に良かった……。ブライ殿がマヒャドを唱えてしまえば、この安定した海路で危うく難破するところでした」 トルネコはやっと口を開くと、今や寝息を立てるブライを担いで彼の船室へと運んだ。ソロはその背中を見送ると、今しがた起きた状況にさえ驚き戸惑っているクリフトの肩をポンポンと叩く。 「マーニャの仕業だ。間違いない」 「え……」 「俺もお前達と合流するまでは格好の餌食になっていた。今はその矛先がアリーナになったんだと思う」 「マーニャさんが?」 サントハイム一行と旅を共にするまでは、ソロがマーニャの「玩具」だった。ことある毎に卑猥な話題を振り掛けられ、頭を悩ませていたのを思い出す。 アリーナに入れ知恵をしたのも、クリフトに彼女を差し向けたのも、マーニャの悪戯であろう。きっと今の状況も、船室で聞き耳を立てていて、ケラケラと腹を抱えて笑っているに違いない。 「マーニャに言ってきてやるよ」 ソロはそう言ってマーニャの船室へ行った。 内心ではアリーナの無知に正直に驚いていたが、そんな彼女の恋人をしているクリフトに思わず同情してしまう。加えて、今もアリーナとブライに板ばさみになった彼の不運を考えると、何ともいえない苦笑いが隠せなかった。しかし、今の同情と哀悼に満ちた自分の顔を、クリフトに見せるのはどうも忍びない。これ以上クリフトを追い詰めてはと思った彼は、手早くその場を後にした。 「……ねぇ、」 ポカンと状況を眺め見ていたアリーナが、口を開いた。 「何だか慌しかったね」 今やこの部屋には二人きり。 静かになった空間に、アリーナの声が響く。 「えぇ……」 すっかり脱力したクリフトは、疲れたように言葉を吐いた。 「ブライ、物凄く怒ってた」 「えぇ……」 目を覚まされた時が恐ろしい。クリフトは困憊した思考でそう思った。 「ねぇ、クリフト」 「はい」 「セックスって、何?」 「……」 この方は、セックスの意味も知らずに、大声で、しかも何回も仰っておられたのか。 クリフトは頭が痛くなった。その発言の威力は、古より伝え聞く極大爆発呪文よりも破壊力があっただろうと、先程の動乱を思い起こす。 「いけない事なの?」 「……」 いけない事、ではないだろう。セックスを否定しようとは思わない。しかし、この場で元気良く言い放つものでもなかった。いけなくはないが、不味かった。 「マーニャ姐様は“とっても良い事”だって、言ってたよ」 「……」 マーニャの言う「イイコト」と、アリーナの考えている「良い事」は意味が違う。クリフトはそう思った。 「愛し合う二人がする、って」 「……」 「だからクリフトの所へ来たんだよ」 本当のところは、マーニャに「クリフトに教えて貰いなさい」と唆されたのだが、愛する二人がするという良い事は、よく判らないが、とりあえずは大好きなクリフトとしたいと思った。単純な心からだった。 「ねぇ、セックスって何?」 クリフトは頭を抱えた。 「……知らないものを、知らずにしようとなさらないで下さい」 アリーナの悪い癖だとは判っていた。以前も、コナンベリーの港で「いい所に行こう」と大男に手を引かれていったことがある。慌ててクリフトが「姫様のご想像なさるような所(闘技場)ではありません」と連れ戻していた。 相手を疑わない、未知なる物への素直な好奇心は、彼女の魅力なのであるが。クリフトは溜息をついた。 「クリフトは知ってる?」 「!」 どういう意味でアリーナはこの問いを投げかけるのだろう。クリフトは息を飲んだ。 勿論、そこには深い意味も何もない。純真な問いではあるが、クリフトは返答に困った。知っていると答えれば、教えない訳にはいかない。説明を一歩間違えれば、セクハラになる。こんな事で「クリフトのエッチ!」などと嫌われては、ようやく実を結んだ恋が虚空に散ってしまうだろう。しかし、知らないとシラを切ることも出来ない。それは、男という性を持って生まれたクリフトの沽券にかかわるからだ。 「えっと、ですね」 額に汗がにじみ出た。 「クリフト、知ってるのね?」 「えっ、と。えー」 アリーナとてクリフトの感情は一見して理解できる。彼は隠している。 「知ってるのね!」 「……はい」 問い詰められて、彼女に敵うわけがない。クリフトは覚悟を決めた。 ふう、と一息ついて自分自身の動揺と興奮を抑えると、クリフトは静かに口を開いた。 「セックスは、確かに愛し合う男女がするものです。二人の愛が結ばれる行為です」 「結婚と違うの?」 「私は大いに関係があると思いますよ」 クリフトは微笑んだ。 「御父のご計画の通り、世界が愛で満たされ平和の道が完成されるには、ちいさな人々のちいさな愛の花が咲かねばならないと思います。男女が出会い、互いに惹かれあって恋に落ち、御父の愛に導かれて結ばれた証には、愛に満たされた豊かな家庭が築かれます」 クリフトは、今や照れることなく優しくアリーナに語っていた。 「愛で結ばれた二人ならば、やがては魂も肉体も繋ぎ合いたいと思うでしょう。そうした想いによって、愛の証が象られるのです。証しされた時には、二人はより強く、固く結ばれていることでしょう。このような愛の道、平和の完成は、御父が私達をお創りになった時から決まっていたことなのです」 「ふぅん」 アリーナはキョトンとした愛らしい顔で、クリフトの声を聞いていた。 「じゃあ、クリフトは私にセックスした?」 「だっ、だ、断じてしていませんっ!」 聞いてクリフトは、心臓が飛び出そうになった。ここで強く否定しておかねば、いつ誘発して二次災害が起きるか分からない。 「あのですね」 ごほんごほんと咳をして、クリフトは真面目な顔を作った。 「私は神官、貴女はサントハイムの姫君。私は私のお仕えする王宮を取り戻し、信仰を貫く為に。姫様は宿敵デスピサロと戦い、父王様と家臣の皆さんを救う為に。色んな想いと目標を持って旅をしています」 「うん」 「愛を契り、その証を産み育てる道を歩むのは、まだまだ先の事です」 そう、それはまだ先の事。 クリフトは、サントハイム城に人が戻ったときには、アリーナに思いの全てを打ち明け、捧げる覚悟でいた。長かった片思いが成就し、アリーナもまた己を好いてくれているならば、全身全霊で彼女を守り、幸せにしたいと思っている。今は未熟ゆえに叶わぬ夢ではあるが、いつかはこの手で幸せを掴み、二人で愛の道を踏みしめたい。 溜めていた想いが心に過ると、自ずと見つめる瞳が真摯に輝き出す。 「だから私と貴女がする事ではありませんよ」 今は、まだ。 クリフトは彼女に対する痛烈な想いを胸に秘めて、努めて優しく微笑んだ。 「……」 アリーナは、大きな瞳でただひたすらに彼を見つめている。 「ご理解頂けましたでしょうか」 「むー。理解らない」 アリーナは唸って首を左右に振った。 「そうですか」 クリフトは苦笑した。 当然こんな説明では分からないだろう。クリフトもそれはよく分かっていた。こんな抽象的な説明で納得できるという方がおかしい。具体的な行為の仕方や内容については一切触れていないのだ。 「よく理解らないけど、クリフトとセックスしたい」 「なっ、だ、駄目です」 聞いてクリフトは、頬を一気に紅潮させた。 「どうしてダメなの?」 「ど、どうしてって」 そこまで仰るなら、私は構いませんよ? 貴女さえお許しくださるならば。 危うくそんな言葉が出そうになって、クリフトは慌てて口を噤んだ。 「私はクリフトの事、大好きだよー?」 「わ、私だって姫様の事は大好きですよ」 「うん」 「愛しています」 「じゃあ、なんで駄目なの?」 「なんででも、です」 「うー」 駄々をこねる子供のようだ。クリフトは困惑しながらも彼女の愛くるしさに心が騒ぐ。今すぐでも抱き締め、その唇を塞ぎたくなる衝動に駆られる。 「クリフト」 アリーナはクリフトの胸元の服を掴んで、詰るように顔を覗いてきた。 「い、いけません」 不意に見惚れそうになって、慌てて離れる。一歩下がってクリフトが苦笑すると、アリーナは頬を膨らませて彼を追った。 「クリフト」 アリーナは彼ににじり寄って距離を狭めるが、その度にクリフトは後ずさりして逃げてしまう。溜まりかねたアリーナは、思い切って踏み込み、彼を壁に追いやってその懐に忍び込むように間合いを詰めた。 「っ、」 クリフトは咄嗟の行動にたじろぎ、何か言おうとしたが、アリーナの瞳に釘付けにされて黙ってしまう。 「私は何も知らないけれど、」 アリーナは続けた。 「私、貴方が好きなのは判ってる。貴方を愛してる」 「姫様」 「私は、クリフトに永遠を誓えるよ」 「、姫様」 永遠を誓うなど。 それはもはやプロポーズの言葉。彼女が意識してかしないでか、しかしクリフトはその言葉に息を飲んだ。 「私、クリフトと結ばれたいよ」 思いつめた瞳は、もはや少女のものではない。 「愛し合う二人がすること、私もクリフトとしたい。私が貴方を愛していて、貴方も私を愛してくれているなら。その証が欲しい」 「姫様」 しばし見詰め合う。 音もなく、言葉もなく、ただ視線を繋ぎ合って。 「大好き。クリフト」 「……」 ふう、と一息つくと、クリフトは柔らかく笑った。穏やかな風に当てられたような、長閑で優しい微笑。 アリーナもニッコリと微笑む。 「ね、クリフト」 うふふ、とアリーナは笑って、彼の胸に飛び込んだ。 「セックス! しようよ!」 曇りない大空のように晴れた、爽やかな声。太陽のように眩しい満面の笑顔。小さな口元が愛らしく緩んでクリフトに想いのままを伝える。 我が身の魂を掴んで放さない貴方は、天使か悪魔か。クリフトは己の胸元に埋まる少女を見つめて苦笑いした。いずれにせよ、恋に狂った己は永遠に彼女に抗えない。 「……参りました」 クリフトは膝を屈めてアリーナの視線になると、彼女の唇に軽い口付けを落とした。 突然のキスに瞳を閉じたアリーナが、次に目蓋を開けた瞬間に見えたものは。 「クリ、フト?」 これまでに見たこともない、クリフトの熱を帯びた妖艶な眼差し。柔和に見える口元に挿した、目を瞠るほどの色気。彼女の胸がドクンと高鳴る。恋に身が切り締められる。頬が薔薇色に染まり出す。 「セックス、しましょう」 掠れ出る低い声は驚くほど甘く、アリーナの心を攫った。 小悪魔の吐息が漏れて、今しがた堕ちた天使が甘い囁きをひとつ。 どこまでも深みに嵌って、どこまでも濡れていく。 甘い官能の波に抱かれて、永久(とこしえ)の恋に揺られる。
小悪魔と堕天使
貴女は無邪気な小悪魔。 神官を堕として、どうなさるおつもりか? |
【あとがき】 可愛らしい小悪魔アリーナと、恋に狂う堕天使クリフト。 リクエストしてくださったののさん☆ありがとうございましたっ♪ 書いてて物凄く楽しかったですっ! どうぞご査証ください(笑)★ |