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その背中を見つめて
ひとつの敵を倒すと、また次の敵が現れる。 最終的に何を倒せば自分たちの旅が終わるのか、時々絶望に襲われる。 本当に次の敵で全てが終わるのか? それは新たな強大な敵への第一歩なのではないのか? それは自分たちに成し得ることなのか? そんなことを疑問に思えば、もはや旅そのものが無意味に思え、歩いていくことができない。 それでも、自分たちは歩いている。 今日も寄り道をしたり、笑いあったりしながら。 そう、それは、エイトのおかげ。 あなたのおおらかな微笑が、皆の心を穏やかにする。 あなたの背中を見つめながら、皆の心はひとつになっている。 エイト・・・私、あなたが好きかも。 ううん。 本当は大好きなの。あなたがいるから、私は旅を続けている。 ------------------------------------- 「なに?」 そう言ってエイトが振り向くと、ゼシカはどきりとして顔を赤らめた。 「ううん、なんでもない。・・・私たち、随分長い旅をしてきたなあって思って。」 そうだね、と言ってエイトが少し神妙に頷いた。 今日は長いこと歩いて、ようやく小さな町に辿り着いた。 ククールもヤンガスもエイトも流石に疲れたのか、いつもの質素な食事に久々に赤いワインを注文して、ちょっぴり心を解放している。ゼシカもその様子が嬉しくなり、一緒に杯を重ねて夕食を楽しんだ。 ククールとヤンガスはまだ上機嫌で、夜という時間を楽しんでいる。 一方、慣れないお酒のせいで、ゼシカとエイトは席を外し、夜風に当たっていた。 魔物の心配をしなくてもいい夜は、風が木の葉を揺らす音すら心地よく、二人はただ肩を並べ、<何事もない幸せ>を味わっていた。 「こんなふうに時間を感じられるのって素敵ね。」 「うん、そうだね。」 時間が穏やかすぎて、自分が何をしなくちゃいけないのか忘れそうだよ、と言って、エイトが笑った。 (あ、今、心から笑った。) ゼシカはエイトの様子を見て、ちょっぴり嬉しくなった。 エイトはいつも、王や姫のことを気遣っている。 (今はそれからも解放されているのかしら・・・?) ゼシカはそう思うと、自然と顔がほころぶ自分に驚き、少しだけ自分を責めた。 「ねえ、エイト」 「え?」 「今日の姫様のお世話はもう終わったの?」 「ああ・・・僕たちの夕食をする前にやっておいたよ。もうゆっくりお休みになっているんじゃないかな?」 「・・・そう。」 姫様の話をしたとき、エイトの表情が一瞬曇るのをゼシカは見逃さなかった。 「エイト・・・ちょっとイジワルな質問をしてもいいかな?」 「いやだ、と言ってもゼシカはするんだろう?」 と言って微笑むエイトに、ゼシカの心はゆっくりと和む。 「うふふ。ずっと聞いてみたかったのよ。」 「なに?」 「エイトにとって、姫様のお世話は義務?それとも、愛情?」 なるべく冗談めいて言ったつもりだったが、エイトの表情はとたんに沈み、目には見えないカーテンがエイトの心を覆ったかのように硬い空気が襲った。 「ご、ごめんなさい。そんなに深い意味じゃないのよ。」 「・・・・・・オレ・・・・・」 「え?」 「オレ・・・自分がよく分からないんだ。」 「ちょっと、なによ、どういう意味?」 「・・・もう、義務かもしれない。」 ------------------------------------- そんな深刻な話をするつもりなどなかった。 苦しそうなエイトを見つめながら、ゼシカは返事を失っていた。 そして、その表情を見つめながら、苦悩するエイトの横顔に色香を感じてしまったゼシカの心臓が速度を上げ、ゼシカはそんな自分を恥ずかしく思った。 「やだ、エイトったら!そんなに深刻に考えないで。ちょっと羨ましいなー、なんて思ってたから質問してみただけよ!ほら、私ってば、サーベルト兄さんにべったりで、他の男の子のことを見てみるなんてことなかったから。ククールは問題外だし、ヤンガスは、ほら、ええーっと、なんだろ・・・」 (私ってば何をこんなに取り乱しているの!変だわよ!うわーエイトが唖然としてこっちを見ているわ!) 一人百面相のようにくるくると表情を変えて慌てているゼシカを見ていたエイトは、次の瞬間、ぷーっと噴出して、声を出して笑い始めた。 (はー、良かった、笑ってくれて・・・!) ゼシカはほっとしつつ、顔を真っ赤にしてうつむいた。 「・・・僕もなんだ。」 「え?」 「僕も周りの女の子を見ることが、ほとんどなかったんだ。」 真っ直ぐなエイトの視線にゼシカの瞳が捕らえられた。 真意が分からず、ゼシカもエイトを見つめた。 ゼシカの心拍数がみるみる上がる。 「あのさ。・・・・・ゼシカって・・・強烈だよね。」 「なっ、何よ!!それっ!?」 エイトの深くて黒い瞳に飲み込まれていたゼシカは、予期せぬエイトの言葉にかあっと赤くなって、思わず手を上げた。 その時。 咄嗟にエイトはゼシカの細い腕を掴み、難なくその悪戯な手を阻止した。 ククールやヤンガスに比べれば、細身のエイト。 しかし、掴まれた腕に感じるエイトの掌の大きさと力強さは予想しなかったほどに男の人のもので、ゼシカの身体は動けなくなった。 エイトもまた動けずに、その手を離せないでいた。 「エ・・・イト・・・離して。」 エイトは自分のしていることに驚いたような表情でゼシカを見つめている。 「ちょっと、エイト!」 「ゼシカって本当に」 「な、なに」 「・・・・・女の子なんだね。」 ゼシカの心臓がどくりと鳴り、体温がわっと上がる。 瞳を離せない二人の間に、甘美な夜風がふわりと通り過ぎた。 「・・・エイト、離して・・・」 ・・・いや、だ・・・ そう言うエイトの声が聞こえたような気がして、ゼシカは慌てて声を立てた。 「エイト、お願いだから-----」 そう言い終えるか否か、ゼシカの唇はエイトによって塞がれていた。 柔らかい肉の感触が二人の体を走り抜けた。 二人の血液がどくどくと流れ始める。 あまりに突然で、あまりに自然に思える唇の重なりに、まだ二人とも、頭の中では今起こっていることを把握できていなかった。 しかし、手と手、唇と唇、そして微かに触れている体の部位全てが、痛いほどに相手を感じ始めている。 エイトはこの次に何をすればよいのか分からなかった。 しかし、息苦しくなった呼吸を取り戻そうと、そして、体は本能的により相手に近づこうと、エイトの唇が自然に少し開いて相手を更に飲み込もうとした。 「エイト・・・待って」 「え・・・」 エイトが我に返ると、潤んだ瞳でゼシカが見つめた。 「これってなんなの・・・?」 「・・・」 「私・・・エイトが何を考えているのか、よく分からない」 「ゼシ・・・」 ゼシカの瞳から、大粒の涙がぼろりと零れ落ちた。 「ご、ごめん・・・」 「いや、謝らないでよ。」 「ごめ、」 「だから、謝らないで。私のことが、好き、なら。」 --------私、あなたのことが、好きなんだから。 ------------------------------------- 二人はなるべく暗い場所を求めて彷徨った。 そして、こっそり忍び込んだ武器屋の家。店主は無用心にも鍵を掛け忘れ、帰ってしまったようだった。 部屋に差し込むのは月明かりだけ。 その光が飾っている甲冑や剣を照らし、滑らかで、冷たい光を放っている。 「無用心なのね。この町はそれだけ平和ってことかしら?」 「とりあえず、夜に忍び込んだのが僕たちで良かったよ。」 緊張のせいなのか、いつもとらしからぬ冗談を言ってエイトが微笑んだ。 「綺麗・・・」 「月明かりに照らされた武器が?」 「ううん、あなたが。エイト、とっても色っぽい。」 やだな、と照れた後、エイトは深呼吸をして言った。 --------ゼシカ、君だって綺麗だよ。 --------オレはいつの間にか君の事を考えていて、君の存在に癒されていたんだ。 エイトはゼシカのふっくらと形の良い唇に指を触れ、そして、むき出しになっている白い肩を撫で下ろした。 「エイト、震えてる。」 「当たり前だよ。」 --------好キナ女ノ子が、目ノ前ニ居ルノダカラ・・・ エイトはゼシカに、今日マデアリガトウ、と一言いうと、優しいキスをゼシカの唇に落とした。 そして、二人は本能の欲するままに、神経を相手に投じていった。 優しくささやくような口付けは、いつしか深い口付けに変わっていた。 ありったけ舌を送り込み、唇という唇を吸い、相手の造形を確かめ合い、体の感覚を痺れさせていた。時折押し出される吐息は、どちらのものか分からなかった。 もはや急ぐ自分の感情に手持ち無沙汰になったエイトの手は、ゼシカを求めて髪を梳き、あごの輪郭を縁取り、首筋を撫でていた。 もっと、もっと、と互いの体が悲鳴を上げて、時折震えが二人を襲う。 堪らなくなって、ゼシカが言葉を発した。 「エイト、もっと私を触って。お願い。我慢できない。」 ゼシカの瞳も、エイトの黒い瞳も、もはや愛情という名の快楽で潤んでいる。 エイトは唇を離すと、今度はゼシカの桜貝のような耳たぶを口に含み、その手は彼女の豊満な膨らみへと落としていった。 ゼシカのあまりの繊細な柔らかさに、エイトは驚いた。そして、押し寄せてくる愛おしさをゼシカの吐息に変えるように、彼女の反応を求め、膨らんできた部分に指を動かした。 「うんっ・・・」 ゼシカは耐えるように声を押し殺し、眉を寄せた。 「ゼシカ・・・好きだ」 「私もよ、エイト・・・」 ゼシカは、はぁっと息を押し出しながら、甘く応えた。 みるみる大きく変化したそれは窮屈そうで、エイトは彼女の服に手を掛け、そっと剥いだ。 露わになった白い膨らみの美しさに、エイトは釘付けになった。 そして、心のままに口に含み、舌で指で、柔らかさと硬さと、流れてくるゼシカの吐息を味わう。 「あぁっ、エイト・・・」 エイトにとってそれは全く未知のもので、執拗に求めても求めても頼りなく、満たされない。 息の上がっていくゼシカとは裏腹に、エイトの満たされない思いは、更に彼女を求め、エイトの手は下へと降り、ゼシカのスカートの下に潜り込んだ。 布の上からしっとりと感じる、ゼシカという女性の心の高まり。 これが濡れている、ということだろうか。 エイトの指先はそれを確かめようと、布地の間を縫って、入り込んだ。 「いやっ、エイトったら・・・っ」 ゼシカはどきりとして思わず声を上げた。 しかし、体はエイトを求めている。勇気を出してゼシカもエイトに手を伸ばし、彼自身の膨らみにそっと触れた。 エイトの顔が甘美な思いで歪み、声が微かに洩れた。 ゼシカはその様子に心打たれ、更に指を繊細に這わす。 --------お互いの体に触れると、何故こんなにも恥ずかしく、そして、何故こんなにも大胆になれるのか。 エイトとゼシカは時折降りてくる理性の狭間で、自然に相手を求め、相手の為に自分の限りを尽くそうとする人間たちの営みを不思議に思った。 (愚かしくも愛おしい・・・) 常に魔物との戦闘で命の危険を感じている二人にとって、もはや相手を愛おしむ行為に臆することなどひとつもなかった。 エイトはゼシカの繁みに指を這わせ、確実に彼女を捉えて、濡らし、ゼシカもエイト自身を慈しむ様に掌で優しく包み込んでいた。 その繰り返しの中で、夜の空気には甘く濃厚な香りが広がっていく。 エイトは更にゼシカの白くて柔らかな腿を押し開いた。 「いやっ・・・」 エイトは濡れて光るゼシカ自身を瞳で確かめ、ぷっくりと膨れて誘う部分に口を近づけた。 「私、凄く濡れているでしょう・・・?、無理をしないで、エイト・・」 ゼシカは恥ずかしさで、顔を掌で覆ってみせる。 エイトは臆せず、甘い菓子を口にするかのように含み、舌に乗せ、すすりあげた。 「あぁ・・・はぁっ・・・エイト・・・」 幾度も幾度も流れてくるゼシカの愛液に、エイトは溺れ、受け止める。 「ね、エイトが欲しい、すっごく・・・」 「ゼシカ・・・オレも・・・君が・・・」 ゼシカの密やかな部分とエイト自身の猛々しさに、エイトは一瞬躊躇し、言った。 「ゼシカ、痛かったら、すぐに言って。」 エイトは己よりも先に指をゼシカにそっと送り込んでみた。 そこは驚くほど温かく、優しい。 (ゼシカみたいだ) そんなことを思いながら指を這わせると、ざらざらとした感触が伝わる。 エイトの下腹部がそこを求めて敏感に反応した。 「ダメ、ダメ、エイト・・・指ではだめ・・・」 ゼシカの瞳はもはや懇願の深みを増し、エイトを見つめた。 エイトは更に指を増やして泉に分け入った。と同時に、ゼシカの美しい腰が浮き上がった。 エイトは指全体を包むように感じるゼシカの顫動に心を奪われ、ゆっくりと抜き取ると、自身に手をかけた。 「ゼシカ、入るよ・・・」 「う・・ん」 ゼシカのそれはもう十二分に濡れていると思っていたものの、エイト自身が入り込もうとすると、そう簡単にはいかなかった。 ぬめりとした感触と、一人の女に押し入っていく興奮と、ゼシカの動きと、襲ってくる波。 エイトは全ての感覚が脊髄に走る感覚に耐えながら、少しずつ少しずつ自身を深く送り込んでいった。 ゼシカが声を小さく立て、エイトも堪らず声を漏らす。 「ね・・・私たち、今、ひとつになってる」 「うん・・・ゼシカにも、分かるの・・・?」 「もちろん、エイトのこと、感じてるわ」 「・・・ゼシカ、本当に愛してる。」 「私もよ。」 すでにゼシカの愛撫によって落ちてしまったバンダナは、二人の視界には入らない。 ゼシカに見えるのは、美しいエイトの顔、自分を求める行為でしっとりと濡れた妖艶な黒髪、月明かりに光る逞しく美しい肢体。 「今のエイト、凄く素敵よ」 「ゼシカだって・・・」 そう言ってエイトはゼシカに口付けると、腰を動かし、ゼシカに愛情を注ぎ始めた。 それはゆっくりで、優しくて、時に激しく、ゼシカを悦ばせ、その結果襲ってくる緊張と弛緩の波はエイトを捕らえて離さなかった。 「ああ・・・エイト、凄いっ・・・」 「ゼシカ、もっと、もっと・・・」 時折二人の戯れに同期して、店に飾られている武器がかちゃかちゃと冷たい音を立てている。 それすら、二人の理性には届かない。 「あ、だめ、そこは・・私・・」 エイトはゼシカの苦しげな表情を捕らえ、自分も果てる決心をした。 エイトは自分という男の全てをゼシカに送り込んだ。 乱れていた息が落ち着きを見せる。 二人は壁に背をもたれ、そっと寄り添っていた。 ゼシカの肩にはエイトの手が置かれ、その体にはエイトの黄色い上着がゼシカを優しく包むようにかけられている。 「寒くない・・・?」 「ううん、大丈夫。エイトは?」 「大丈夫、」 きみがいるから、と言おうとして、急に恥ずかしくなり、口をつぐんだ。 「やあね、なによ?」 「なんでもないよ。」 先程まで体の熱さが嘘のように、二人の心は穏やかだった。 「ねえ、エイト」 「?」 「これからの旅も、宜しくね。」 「もちろんだよ。」 「私ね・・・始めはエイトのこと、少し頼りないなあって思ってたんだ。」 知ってるよ、と言ってエイトが笑った。 「それから・・・私、エイトの戦う背中を見ながら、サーベルト兄さんを思い出していたの。でも、私が呪われて、再びパーティに戻ったときに思ったのよ。エイトはエイトだって。そして、ずっと一緒に旅をしていたいって心底思ったの。」 ゼシカは一旦言葉を区切り、エイトを見つめた。 「エイトの強さや、優しさや、辛さを、私も共にしたい。」 エイトの心に愛おしさが溢れ、エイトはゼシカの肩に置いていた手に力を込めた。 そして、思いを込めて、ゼシカにそっと口付けた。 ------------------------------------- 「そろそろオレ・・・僕たち戻らないと。」 そう言って、エイトが立ち上がり、ゼシカに手を伸ばした。 「オレ、たち。」 「え?」 「私と一緒にいるときは、オレでいいのよ。今夜はエイト、時々オレって言ってた。」 そう言うと、ゼシカは悪戯に微笑んで立ち上がった。意図して「オレ」と言うのを避けていたエイトは、参ったなあと照れくさそうに頭を掻いた。 そして、次の瞬間、口をきゅっと引き締め、バンダナを結んだ。瞳がいつものエイトに戻る。 ゼシカは少し寂しいような、でも誇らしいような、そんな気分でエイトの姿を見つめた。 (エイト、私、あなたについていくからね。) 密やかに指が触れ合った、ぴんと背筋の伸びた二つの影。 月明かりに青く照らし出されたその姿は、勇者と女神のように神々しく、美しかった。 (2006.2.21) |
【あとがき】 エイトが「僕」と言ったり、「オレ」と言ったり。 このもどかしさに胸が締められます。 少年と男。大好きなゼシカの前で変わる姿がカワイイですっ! 恋するオンナの子ゼシカは、これからステキな女性になって、 エイトを守って守られていくのかな?と思いました。 ステキな小説をどうもありがとうございましたっ!!! |