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逆襲
「・・・愛しています」 そう呟く自らの吐息は熱を帯びていた。「・・・アリーナ様」 不意に名を呼ばれた姫は、恥ずかしそうに身をよじった。 薔薇色に紅潮した肌には、それよりも紅い花びらが幾つも散っていて。 赤らんだ頬と潤んだ瞳。 「・・・さっきから、頭がぼーっとしてるの。変な感じ」 ぼんやり、とアリーナは呟く。 「・・・私もです」クリフトはそう言って苦笑いした。「ソロさんに責任を取ってもらわないといけませんね」 「・・・うん」 今日の夕刻、ソロがシンシアを伴ってサントハイムを訪れていた。 「ピサロが珍しくワインをくれたんだ。シンシアと二人で飲むよりも、お前を潰す方が面白いと思ってな」と告げて。 彼は何かと理由をつけては、度々サントハイムに来てくれる。 その上、いつもブライが不在の時を狙ったかのようにやってくるのは流石、としか言いようがない。 この日の夜は、四人で和やかに会話を楽しみながらワインを傾けることになり。 「お子様は止めとけって」ソロに茶化されたアリーナが、「子供じゃないもん!」と言って、グラスをぐいっと傾けた。 そんなアリーナを窘めたのはいいものの。 飲みやすい品のせいか、自分もよく飲んだかと思う。 結局。一番初めに潰れたのはソロだった。 「もう・・・ソロったら」元天空の勇者を介抱しながら、シンシアはため息をつく。 「ソロさんは、大丈夫かと思いますが・・・このままでは風邪を召されますね・・・客室を用意しましょう」ソロを診ていたクリフトが言い、 「せっかくだから、シンシアも泊まっていったら?」とアリーナ。 「二人がそう言ってくれるのは、とても嬉しいけど」とシンシアはにっこりと笑う。「二人の夜をこれ以上邪魔したらダメかな、って思うの」 「・・・っ!!」 「シンシア!!」 途端に顔を赤らめる二人を見て、シンシアはくすくすと笑いだした。 「ソロが言った通りの反応ね。・・・だから、わたし達は帰るわ。今日はありがとう。とても楽しかった」 ソロを抱えたまま、キメラの翼を放り投げて帰って行ったシンシア。 「ソロさんに責任を取ってもらう、ということで。・・・今宵は、私の持てる力全てで貴女に触れさせていただきます」 「やだ・・・ちょっと待って・・・ソロは関係な」 言いたいことはたくさんあるが、文字通り、その口を塞がれることとなった。 ねっとりとした口付けは、やはりあのワインの香りがした。 「・・・嫌、ですか?」 そんな怜悧な・・・だが、熱を持った眼差しで見つめられると、断れない。 それを知っていて、あえて尋ねているのだからたちが悪い。 アリーナはふるふると首を振り、潤んだ瞳でこちらを窺う。 「・・・や、じゃない」 耳を澄まさないと聞き取れないほどの小さな声で言ってから、頬を赤らめる。 そのような仕草が男の心に火をつけてしまうことを、この方はご存じなのだろうか。 弓なりにしなった身体をきつく抱きしめて・・・自らの思いを解き放つ。 「・・・愛しています」 本当はこの思いをもっと強く伝えたいのに。 ただ、言葉を覚え始めた幼子のように、同じ言葉しか口に出来ない自分がもどかしい。 どんなに抱きしめても足りない。 汗ばんだ額に、澄んだ瞳に、白桃の頬に、薔薇の唇に、際限なく口づけたいと思う。 強大な魔物にも恐れず立ち向かう勇猛な姫は、あまりにも華奢で小さく、軽い。 ・・・そんな姫を、欲のままに抱きすくめる自分は・・・何とも酷い男か。 ゆったりとまどろむ眼差し。やがて訪れるであろう夢の世界にも、自分はいてくれるのだろうか・・・そこまで考えてクリフトは苦笑した。 ソロが聞いたら『のろけてんじゃねぇよ』とでも言われるか。それとも、ただただ呆れられるか。 ・・・そんな時、アリーナがゆっくりと身を起こした。 「起こしてしまいましたか・・・すみま」 クリフトの言葉はそこで停止した。 仰向けでいた自分を跨り、そのまま顔を近づけたのだから。 微笑する唇。背後の大窓からは見事な満月がうかがえる。 その光は薔薇色の肌を、乱れた亜麻色の巻き髪を、整った鼻梁を・・・表情を妖艶に照らす。 「・・・クリフト」可愛らしい唇が、最も心を震わす言の葉を紡ぐ。 このひとは、こんな表情も出来るのか。 思わず息を飲む。 「・・・だい、す・・・き」 少女のような笑みを浮かべた後、そのままクリフトの胸に身を預け・・・ くぅ・・・くぅ・・・そのまま寝息を発した。 小さな少女のような、無垢な寝顔。その首筋、胸元に散った花びらのなんともアンバランスなことか。 「・・・私もアリーナ様が・・・その・・・大好き、です」 そう呟いたクリフトは耳まで真っ赤だ。 アリーナを乗せた、そのままの体勢で苦労しながら、傍らのシーツを手繰り寄せる。 そして、その小さな肩にシーツをかけてから。 「・・・私は、一生貴女にはかないませんね」ただ、呟いた。 |
【あとがき】 メロメロしすぎて死んじゃう。メロ死する! (不覚にもクネクネ) 悪戯なソロとシンシアといい、ラブラブな神官と姫様といい、 キュートな愛に満たされててうっとり。 素敵なお話をありがとうございましたっ(礼)☆ |