7階まで来ました。
続・氷結クリフト
その七 「おそろいの服」
「あら、あの人たちペアルックね。ステキ」
「恥ずかしくないかしら」
街並みを歩く恋人達をオープンカフェから眺めていたアリーナ姫は、手を繋いで微笑み合うカップルに羨望の眼差しを注ぎましたが、これを聞いた隣のマーニャは眉を顰めて苦笑いしました。
「姉さん、素直に羨ましいとか妬ましいとか言いなさいよ」
「そうよぅ」
「妬いてなんかないわよ!」
ミネアの言葉に相槌を打つアリーナ姫。
同じ柄のTシャツを着て過ぎていく目の前の二人とまではいかなくとも、お揃いのアクセサリなど、恋人と何か共通した持ち物を身につけることは、アリーナ姫にとって憧れです。
美人姉妹が口喧嘩を始めたところで、彼女はクリフトと何か同じものを装備できないかしらと考え出したその時。
「姫様! 私が姫様と同じものを身につけて差し上げます!」
「ク、クリフト! なにその格好!」
「ペアルックです!」(鼻息)
突然姿を現したクリフトは、彼女と同じ三角帽子と青色のマント、そしてその下に黄色いワンピースという怪しげな風貌。短いスカートからは細くも男らしい脚が伸びていて、キツめのタイツが異様さを増していました。
なんかもう、むっちむち。
「キャー!」
ミネアの悲鳴が天を裂き、隣のマーニャからも「ギャッ」という声。
彼の姿に気付いた周囲の客からは口々に「変態!」と叫ばれています。
「僭越ながらこのクリフト、姫様と同じになりました!」
「こ、これじゃただのキモいコスプレだよ!」
賢明に己の愛情を説明するクリフトを前にアリーナ姫はなんとか説得を試みますが、末期的な盲目状態の彼に対し、周囲の大騒動を見ろとは言えません。
「クリフト、しっかりして」
「姫様と同じものを身に纏うことで、より一層の愛が深まる思いです!」
「ちょ、クリフト」(話を聞いて)
クリフトはアリーナ姫の服を着たことで興奮しているのか、目の前の彼女の手を握り、ハァハァと息を荒くして続けました。
「しかし本音を言えば、姫様と格好を同じにするだけでなく、この身をひとつにしとうございます!」
クリフトが鼻血を噴き出しながら叫んだその時、身も心も凍えそうな冷気が店全体に漂いました。
「こんの腐れド淫蕩がァァッッッ! 逝ってよし!」
「捨てていきましょう」
そう言って老魔導師が女性陣を連れ去った後には、輝くばかりの氷の塊に女装した神官(しに)が納められていました。
哀れ、氷結クリフト。
この神官、もはや公害。
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