HERO
 
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PRINCESS
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キスして欲しいの。

 
 エイトがミーティア姫を城に戻した、そう皆々は言った。世界を救った勇者が姫と結婚すればトロデーン国は大繁栄だと。国中の者が二人を祝福した。
 しかし。
 トロデーン城に戻れば二人の勢いは完全に落ち着いてしまって、恥ずかしさだけが残った。国内はおろか世界中の人が知っている二人の愛は、まだ始まったばかり。皆が皆暖かな瞳で二人を見つめているなか、当の本人たちは戸惑いが隠しきれない。
 城に帰ってからは、エイトは今まで通りに近衛隊長として任に当たり、ミーティア姫は再び勉強と外交交渉に身を注いだ。周囲の期待は空振りに終わる。
「王様、エイトをどうしたものでしょう」
「ふーむ。このテに関しては、ヤツはとんと奥手じゃからのう」
 棘に包まれていた頃、こっそり玉座に座っていた大臣。彼とトロデ王は悩んでいた。
 トロデ王は何の進展もない二人を焦れったく思いながらも、このまま彼等に任せておくか、それとも自分が進めてやるべきか迷っていた。サザンビーク城との婚儀を直前に取り消しておいて、すぐさま愛娘の為に式を行うのも忍びない。
「ふむ。どうしたものか」
 
 
 
 
 
 ミーティアはエイトが自分を愛してくれているのだと知って以来、彼への好意を押し留めることができなくなっていた。数日経った今でも、彼と手を取り合って大聖堂を駆けた時の事は鮮明に思い出す。
 しかしこの城に残ってトロデーン王家の血筋を保っていく以上は、今までのように勉強を嫌がっていてはならない。エイトを支える為に自分がせねばならない事は沢山ある。故にミーティアは募る想いを押し留め、昼は勉学に励むことにした。
「本って重くて、戻すのが大変ね」
 ふと窓を見やると、下にエイトが居た。馬を厩舎から出しているのか。
「エイト! ごきげんよう」
 窓から身を乗り出して、ミーティアは大きく手を振った。
「! 姫」
 気付いて上を向いたエイトは、彼女が落ちないか心配しながらも手を振り返す。自分の姿に驚いたような、でも、優しい彼の笑顔。ミーティアは恋焦がれるような眼差しで彼を見送る。
「お庭で待っています」
 確か今日は、彼の仕事は夕方までの筈。夜は、夜くらいは。ミーティアは胸を躍らせながら夜を待った。
 
 
 
 
 
 陽が沈んで、エイトは息を弾ませながらやってきた。ミーティアが待っているからと急いで仕事を片付けたのだろう。ミーティアは晴れやかな笑顔で彼を迎える。
「お仕事、ご苦労様です」
 労いの言葉をかけて気付く。エイトはどこか照れていた。
「ええ……ありがとうございます」
「どうかしました?」
 ミーティアが心配そうに話し掛けると、エイトはもじもじしながら後ろを指差した。何かしら、とミーティアが指の先を見つめる。
「あら、」
 庭を越えて城を見れば、微かに人陰が。隠れているようで丸見えの王と大臣である。別の窓からは、料理長と給仕係。また図書館からも、人がちらほらと。
「皆が見てるんですよ」
 気付いてミーティアの頬が赤くなった。
 皆が二人の様子を見たいのである。誰もが初々しい彼等を見守っている。多少におせっかいなものであるが、トロデーン城の人々はいつもこうである。
「でも、平和になった証拠かもしれませんね」
 ミーティアはエイトを見て笑った。庭木師が懸命に整えた庭を慈しむように周回する。エイトはその姿をぼうっと見ていた。
「今は、本当に皆の笑顔が戻って……嬉しく思います」
 この庭も呪いを受けた時は痛々しかった。棘に覆われ、植物さえ生きる事あたわない。足を運ぶ度に心が締め付けられた。同時に自らの姿にも嘆き……
 輝きを取り戻した庭を見て、ミーティアはエイトに近づいた。
「貴方が救ってくれました」
 エイトの手を取る。今も城を守り続ける大きな手。年齢の割りにゴツゴツしていて、働き者であることが滲み出ている。
 一方のエイトは、白くて柔らかいミーティアの手に触れて、身体まで熱くなった。コップに水が満たされていくように、徐々にエイトの身体が火照らされていく。
「そんな。僕だけの力では敵いませんでした。」
 顔を真っ赤にさせながらも、エイトは真剣に答えた。もう一つの手を添えてミーティアの手を包む。
「僕には仲間が居ました。それにトロデ王や姫にも力を頂きました」
 最後の方は照れて声が小さかった。手を見ながら喋っていたエイトが、一瞬、ミーティアを上目に見た。
「エイト、私も貴方の力になれたかしら?」
 その言葉を聞いて嬉しそうに、しかし不安そうに、ミーティアが聞き返す。彼女も上目にエイトを見る。その愛くるしい姿にエイトの胸は更に昂ぶった。
「はい。……とても」
 耳まで赤くなって頷いたエイトを、ミーティアは一杯の愛を込めて見つめる。
 エイトの言葉はミーティアの心を一杯に満たすに十分なものだった。満面の笑みを見せるミーティアは、この庭のどの花にも勝って美しい。
「嬉しい」
 
 
 
……何を言っているのか分からんのう」
 イライラしながらトロデ王が言った。大臣も耳を欹てているが、こちらも聞こえていない様子。大臣は何故か興奮していた。
「近くまで行きますか?」
「馬鹿者! 気付かれるじゃろうが!」
 
 
 
 二人の周りだけ、恋の果実が完全に熟したかのような甘い雰囲気に包まれている。二人の手は組み合って、視線は真っ直ぐに互いに注がれる。
 いとおしくて、切なくて。
 ミーティアの顔が近づいた。大きな碧色の瞳がエイトを捕らえる。雪のような白い肌に乗る、桜色の唇が誘っている。
「エイト」
「えっ、と」
 エイトは周りを見回した。きょろきょろ辺りを眺めて、再びミーティアを見る。瞳を閉じて彼の唇を待っている。恥ずかしそうに、しかし艶っぽく。
「きっと、皆が見てますよ?」
「構いません」
 
 
 
「何をしているんじゃ、エイト! ミーティアを待たせるでない!」
 トロデ王はキリキリと怒って、遠くのエイトをせかした。しかし彼にそんな親の思いは伝わらない。苛々する王の隅で、大臣は頬を赤らめて次を待っていた。
「だ、大胆ですな。姫君は」
 何処から持ってきたのか、双眼鏡まで用意して。
 
 
 
 皆が見ているかもしれない。いや、絶対に見ている。エイトだってミーティアにキスしたい。彼女を抱きしめてあらん限りの愛を注ぎたいと思っている。もどかしい葛藤。
 でも。
 彼女は僕のもの。僕も彼女のもの。今だけは何者にも囚われずに心を示したい。そう、大聖堂でのあの時のように。
「姫」
 エイトの唇がそっとミーティアの唇に触れる。繋いだ手は更に二人を繋げる為に、一度は離れて互いの身体に巻きつく。ミーティアはエイトの逞しくて温かい背中を切なそうに撫でて、エイトはミーティアの細い背中とたおやかな黒髪をいとおしく抱きしめた。
 薄暗い夜の庭で、一つになる影。
 お互いの唇を確かめ合うように甘噛みする、長いキス。
 
 
 
 明日が来なければいいのに。
 
 
 
「よくやった! エイト!」
 トロデ王は嬉々としてピョンピョン飛び跳ねた。ドルマゲスを倒した時や、暗黒神を倒した時よりも彼を誉めている。
「おぉ、ようやくエイトも男を見せましたな」
 双眼鏡を覗きなが、興奮気味に大臣が言った。トロデ王は鼻息荒い大臣から双眼鏡を取り上げ、二人を見る。
「よっしゃよっしゃ……
 
 
 
 
 
 次の日、エイトは多くの者に冷やかしを浴びた。その数だけ観覧者が居たのかと思うと背筋が凍る。でも、恥ずかしさはともかく、不思議と後悔はしていなかった。
 ミーティアが晴れやかな顔で「おはよう」と言ってくれたから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 ラブラブ全開な初々しさを!
二人には清らかであって欲しいけど、それ以上も……ぐふへへ(チャゴス!)
 
 
 
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