HERO
 
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PRINCESS
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王の催促

 
 二人の結婚式が終わった次の日。
 エイトは玉座の間に呼び出された。隣には大臣が控え、赤い絨毯が敷かれた左右では部下である近衛兵が槍を手に立っている。
 トロデ王は彼が入ってくるなり口を開いた。
「昨日はご苦労であったな」
 玉座にちょこんと腰掛けてエイトを見つめるその目からは、あまり感情は読み取れない。エイトは改めて労いの言葉をかける王に、はい、とだけ答えた。
 無愛想、とはいかないが、無表情。
 いつもの事だとは思いながらも、エイトが自分の言葉の意味を把握していないと感じたトロデ王は、少し黙ってはいたが、再び口を開く。
「で、首尾ようやったか?」
「は……?」
 あまりにエイトが鈍感なので、隣で聞き耳を立てていた大臣は、堪りかねてエイトに言う。
「姫君と滞りなく事を運んだかという意味ですぞ」
 滞りなく、事を。
 エイトは何かを思うと、やっと気付いたようだった。みるみるうちに彼の頬が赤くなっていくのを、王と大臣が確認する。
(ようやく理解できたか、この馬鹿者が)
(これ以上の言葉で説明する私の身にもなって欲しいですな)
 エイトは昨日の晩を思い出した。そう、宴の後、自分は姫と結ばれた。恥じらいながらもお互いに肌を触れ合い、慣れない愛の言葉を囁いて、この上ない恍惚を分かち合った。
 昨夜の自分達を思い出したのか、エイトの顔は耳まで真っ赤になっていた。
(これは「はい」と言うべきなのか?)
 エイトは困惑でかき乱された頭で考える。部下の、同僚の近衛兵が居る中で、自分はなんと返事をすれば良いのだろう?
 王家の世継ぎは国家の大事。王と大臣の心配だって分かる。
 しかし昨夜の事を事務的に冷静に答えられるほど、エイトはまだ大人ではない。
「えっと、それは」
 エイトは曖昧な言葉しか出なかった。
 まごつくエイトに痺れをきらし、焦れながらトロデ王が玉座の上で飛び跳ねた。
「孫が見たい! 早く見たい!」
 ピョコピョコと弾んで苛立ちを露にする姿はなんともこの王らしい。今まではエイトを問い詰めることに集中して構えていたらしいが、やっと本音が出たようだ。
「そればっかりは時間が、」
 宥めるようにエイトが言った。
 時間がかかる。そんな言葉が己の口から出てくるとは思わなかった。エイトは心の奥で自分自身に驚く。
「じゃから早うせい!」
 聞き分けのない子供のように急かすトロデ王。しかし催促の内容はあまりに生々しくて。
 頬を染めながら困った顔を見せるエイトに、助け船を出すように大臣が言った。
「まぁ、一日二日で頑張れるものではありますまい。それにエイトは健全な一男子。我々が催促などせずとも、男の性だけで事は運びます」
 これは全く助け舟ではなかった。
(何て事を言うんだろう、この大臣は)
 益々エイトの顔が火を吹いたように赤くなっていく。エイトは仕事仲間の反応が気になったが、左右に侍る近衛兵を見ることなどとても出来ない。
「ふむ。まぁそうかのぅ」
 意外にも大臣のこの言葉でトロデ王は落ち着いてくれたようだ。コロリと感情を変えるのもこの王の特徴。それなら、とトロデ王が別の話を切り出す。
「で、エイトよ」
「はい」
 エイトは真面目に返事をした。
 あぁ良かった、矛を収めてくれたのかと安堵した瞬間。
「ミーティアの器量はどうじゃったかの?」
「は……?」
 まだその話が続いていたのか、エイトは内心ガックリした。しかも先程より具体的だ。
「ゼシカとまでは言わんが、ミーティアもこう、ムチッとしておったかの?」
 そしてトロデ王の手つきは更に具体的で。
「え……はぁ……、まぁ」
(してました、と言えば良いのだろうか)
 エイトは冷や汗が出た。
 大臣や近衛兵がこの会話に己の耳を最大に欹てているのは気配で判る。
 ミーティアは言うまでもない、最高だった。しかし、これはたとえ相手がトロデ王といえども言いたくはない事。彼女の最高は自分だけのものなのだ。
 全身に汗を噴き出し、身体をこらばらせ、質問に戸惑うエイト。俯いたその顔は夕焼けより赤くて。
 トロデ王はそんな彼を眺めながら、ふと口を紡いだ。半分は冗談で、彼をからかいたい気持ちがあったが、いささか彼を苛め過ぎたかと思う。
 しかしもう半分は。
「まぁ、あれじゃ」
 トロデ王はおとなしく玉座に座りなおした。
「あれには母親が居らんからの。女としてちゃんと育ったか心配しておった」
 エイトはその言葉に顔を上げた。
 親は常に子の大事を想うもの。トロデ王はたった一人の愛娘であるミーティアをエイトに預けたが、やはり不安に思う事は沢山ある。特に母親を早くに亡くしているということは、己自身の寂しさと共に、娘に対する申し訳なさもあった。
 普段は一向に見せない親の目。温かくてしっかりとした目。少し老いたかと思わせるようなトロデ王に、彼は自然と微笑んでいた。
「私には勿体無い位の素晴らしい姫です」
 聞いた王は、満足そうにエイトを見た。
「ふむ。なら大事無い」
 事が収まったかと思った瞬間、横槍を挟むように大臣が口を開く。
「いえいえ、王様。これからはエイトが姫君を立派な女にしてくれますぞ!」
 
 
 
 (大臣……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ぐったり。
 
 
 
 玉座の間から出てきたエイトは心底疲れきっていた。その場に居た近衛兵の二人は、交代の時に何も言わずにそっとエイトの肩に触れていった。エイトは余計に悲しくなった。
 
 それからというもの、トロデ王(と主に大臣)の催促はあからさまで。
……これを食べろと仰せらるか)
 
     ・レバニラ炒めの山芋あんかけ
     ・ドジョウのニンニク煮
     ・スッポンの納豆鍋
     ・黄金まむしドリンク
 
……
 ミーティアと食卓を囲み、幸せな夕食の筈が。
 本日の献立の中に、エイトの分は明らかに強精食品が加わっている。
「エイトってやっぱり男の人だから、ミーティアより品数が多いのね」
 身体が大きい分、沢山食べないといけないのだわ、とミーティアは納得している。しかし彼女が食後の楽しみにと考えている「ローヤルゼリープリン」も、エイトは懸念していた。
「たくさん食べないとね」
 天使のような笑顔で言うミーティア。この笑顔さえあれば、これら料理がいかに人智を超えた味だとしても耐えられるかもしれない。
「ええ、そうですね……
 料理長は涙目に料理を口に運ぶエイトを痛々しい瞳で見ながら、トロデ王と大臣の命令に逆らえない自分を密かに懺悔した。
 
 
 
 地獄の夕食を終え、一段落。
 洗いあがりの髪を乾かし梳かし終えたミーティアは、幸せそうに今日という日に感謝し、夜の祈りを捧げていた。
 エイトはといえば、気合を入れないと逆流しそうな夕食と無言で戦っている。精力増進食材はエイトの胃にグラグラとダメージを加え、ややもすれば戻ってきそうになる。
「そういえばエイト、今日はお父様に何を?」
 ミーティアが無垢な表情で振り向いた。
……
 胃の中で暴れるマムシと戦いながら、それでもエイトは笑顔を振り絞った。
「孫が見たいと仰せでした」
 エイトは正直に言っていた。いつもの彼ならば(もっと胃が落ち着いていたならば)こんな事は言わなかっただろう。ミーティアに知られないよう、別の事を言ったに違いない。
「まぁ」
 ミーティアの顔がほころんだ。
「私も見たいわ」
「え?」
 エイトはてっきり彼女は恥ずかしがると思っていた。私達にはまだ早いと、頬を染めながら言うと思っていた。グルグルとまわる胃をなだめながら、なけなしの思考力でエイトはそう思った。
「だって、エイトの赤ちゃんでしょう?」
 ミーティアは瞳を輝かせて言う。
「とっても可愛らしいと思うわ。お庭をトコトコ駆け回って、ご本を一生懸命に読んで」
 穏やかな微笑みを見せて語るミーティアを、エイトは黙って見つめていた。
「大きな鳶色の、クリクリした瞳を輝かせて私を見つめるんだわ。なんて愛らしい」
 彼女は小さい頃のエイトを思い出しているようだ。頬を少し紅潮させて懐かしんでいる。あの日のエイトと、それを見てほのかに恋した自分とを。
「姫、」
 気付けばエイトの胃はおとなしくなっていた。
 回想して笑顔をほころばせるミーティアに、冷静にもエイトは言った。
「それは赤ちゃんというより、だいぶん育っていますよ」
「そうね。おかしかったかしら」
 ミーティアはフフフと笑った。屈託のない笑顔につられて、エイトも笑う。
「でも、僕はまだ、」
 穏やかにエイトが言った。その言葉を不思議に思ったミーティアが彼を見る。
「どうして?」
 ミーティアはエイトの子供を授かりたいと思っていたが、彼はそれを望んでいないのかと感じる。少し不安になる。
 エイトはその小さな翳りに気付いたのか、彼女に近づいて優しく腕に抱き寄せた。
「今は貴女を独り占めしていたいんです」
 エイトの子供を想像するのに、若かりし頃のエイトを重ねたミーティア。それはとても嬉しかったけれど、どこかに感じた嫉妬。子供じみていて、恥ずかしい独占欲。子供の頃の僕よりも、今は貴女に恋焦がれる僕を見て欲しくて。
「エイト」
 驚いたようなミーティアの顔は、たちまち晴れて、一切の不安が取り払われる。
 勿論ミーティアは可愛らしかったあの頃のエイトも大好きだったが、大人になってまともに見られなくなった色気のあるエイトを更に愛している。
 あの頃にはなかった強い腕で、抱き寄せてくれるエイト。厚い胸板で、広い背中で、自分の全てを包んでくれる愛しい人。
 ミーティアは抱き寄せられるままに、自分の身を預けていた。
「あ」
 ミーティアを腕の中に包みながら、はっとしてエイトが呟く。
「エイト?」
 腕の中から不思議そうに見つめるミーティアに、今の自分を説明出来そうにない。
 エイトは明らかに変化している自分の身体の奥を感じていた。
 ポツリと彼女の耳元に囁く。
……今日の献立が、効いてきたかもしれません」
 彼の中で沸きあがる熱。それはとても理性で静められるようなものではなくて。
 全てをこの腕の中の、恋しい貴女に注ぎたくて。
 
 密かに思う。
 「この衝動」に何がしかの理由をつけるか原因を説明して、逃れたかったのかもしれない。彷彿とする欲望を、あくまで理性的に。
 しかしエイトは、この身体の熱りが今日の献立のニラやスッポンのせいだとは思わなかった。
 
 
 
 直接の原因は、この腕の中の魅惑的な姫なのだから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「アボガドにも滋養強壮の効果があると聞きます」
「ふむ、意外じゃの」
「王宮博士の調べでは、異国に伝わる犬肉の汁が最高の行為本能を呼び覚ますとか」
 玉座では夜になっても話し合いが進められた。
 あれから大臣は、この件に関して積極的に調査を開始し、料理長には様々な料理に挑戦させ、近衛兵にはなるべくエイトが夜勤に回らぬよう代わりを申し出ないさいと斡旋していた。
 いつにない働きぶりを見せる大臣に、トロデ王がサラリと言う。
「大臣はこの件に関して、以前より詳しいからの」
「いやいやいやいや!」
 なんと初めて聞きました、という顔をして大臣は慌てている。
「そう言えば、大臣の(自主規制)の効き目はどうじゃの?」
「やややや! そんなものは知りませんぞ!」
 聞こえないフリをしていた左右の近衛兵もさすがに堪りかねて口元が緩んだ。キラリと輝く槍の間から、二人は視線を合わせる。今後もこの災難を振りかぶるであろう隊長のエイトを気の毒に思いながら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 最悪な大臣。最悪な私。  
 
 
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