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PRINCESS
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恋のオールセブン☆

 
 海岸沿いの小高い丘に建てられた、美しい街並みの広がるベルガラック。白壁の建物と木々の緑が潮風に撫でられている。整然と敷き詰められた石畳は雍容とした陽に照らされ、眩い光を輝かせている。
「エイト、はやく!」
「ちょ、待っ――」
 ミーティアはその豊かな黒髪を艶やかに靡かせ、空色の外套を軽やかに翻して、石畳の上を颯爽と駆け抜けていく。手を繋いでいたエイトは、引っ張られるようにその後を追った。彼女が心の赴くままにエイトを引き連れるのは、昔と変わらない。
「一度入ってみたかったのですっ」
 端正な顔を目一杯に綻ばせながら、ミーティアは言った。
 まだ呪われた馬の姿だった頃は、彼女は街の外からこの白い建物を眺めていた。昼は萌える緑が光を溜め、夜はネオンの輝くこの街を、彼女の瞳はどう映していたのだろう。
 旅の頃は、辛い思いを沢山させた。身分にそぐわない苦労も沢山かけた。
 それでも人間の姿に戻って自分と話すときは、何事もなかったかのように笑顔を見せてくれた。心の奥はどんな闇に怯えていただろうに。
「エイト、走ってくださいっ、もう!」
 膨れた顔も久しぶりに見る。彼女が素直に不服を言うのが、今は何とも嬉しい。
「あっ、はい!」
 子供のようにはしゃぐミーティアを見ながら、エイトは苦笑いした。
 
 
 
 
 
 サヴェッラ大聖堂での一騒動以来、二人は公認の仲となった。
 婚約を破棄したサザンビークに気兼ねしてか、二人が早々に婚約することはなかったが、それを不憫に思ったトロデ王が気を利かしてくれた。二人に明日の昼までの休暇を言い渡し、こうして外出の許可まで出したのである。
 ミーティアがベルガラックに行きたいと言ったのは、エイトには意外であった。
「ゼシカさんがね、」
 何処へ行こうかと世界地図を広げた時、彼女は恥ずかしそうに切り出した。
 旅をしていた頃、不思議な泉の水を飲んでゼシカと話した際に、ゼシカからベルガラックの事を聞いたらしい。「ハネムーンに行くならベルガラックよね」という何気ない一言をミーティアは覚えていた。
 ミーティアは頬を朱に染めて、俯きながら小さな声で言った。
「まだ私とエイトは婚約さえしていないのに、ハネムーンなんて……まだ……
 彼女がそれに憧れているのはエイトでも分かる。愛する人と、二人きりで遠い地に出かけるというものは、誰だってときめくものであるに違いない。
 恥ずかしそうに言葉を濁しながら言うミーティアに、エイトは微笑みながら答えた。
「ベルガラックに行きましょうか」
 
 
 
 
 
 ここに来るまでの経緯を思い出す。
 エイトのこの言葉を聴いた瞬間、ミーティアの顔が忽ちにして綻んだ。赤く染めた頬でにっこりと「はい」と言ったその笑顔を思い出すと、今でも胸が温かく弾む。
 今は解き放たれた小鳥のようだ。籠の中から大空を見つめていた青い小鳥は、弾けるように美しい街並みを飛び回る。
 彼女にとっては、瞳に映る光景の全てが新鮮で。大きな深緑の瞳をキョロキョロと遊ばせながら、足は軽やかに未知の世界へと駆けていく。危ない、と思いながらエイトは手を離さぬようその背中を追いかけた。
「エイト、あちらにカフェテラスがありますっ」
 ミーティアは振り返ってエイトに微笑んだ。
 呼ばれたエイトは、その姿に目を細めて微笑んだ。彼女が眩しいのは、白壁が陽を反射しているからではないだろう。
 木漏れ日の中を、好奇心の赴くままに駆けていくその姿は、まるで無邪気な子猫のよう。広がる世界に一抹の警戒心すらなく、その無防備な姿がまたエイトの心を捉えて離さない。
 こんな所でさえ、この女性を我が腕にかき抱きたくなる衝動は、不謹慎であろうか。
 明日の昼になれば、再び二人はトロデーン王国の姫君と近衛隊長に戻る。いくら愛し合ってはいても、婚約も終えていない二人の関係はまだ「主君と臣下」。
 今は、今だけは。
 ありふれた恋人達のように、街並みに溶け込んで二人の時間を楽しみたい。周囲に佇む恋人達より、有限の時間が何より惜しい。
 
 
 
 
 
 ミーティアはテラスの傍に掛ける少女が口にしていたパフェを指差し、自分も食べたいと言った。
 店員より差し出されたそれを興味深く眺め、一口。満足そうにほおばる表情を眺めながら、エイトは言った。
「カジノに行ってみますか?」
「カジノ?」
 ミーティアは知っている。エイト達がこの街を取り仕切るギャリング一家の相続問題に関係したことを。その後もカジノで相当な時間を費やしたことを。
 彼女はずっと外で待っているだけだったのだが、それがどんな所か知りたいだろう。
「ギャンブルをする所、ですよね?」
「はい。僕達が物凄くお世話になった所ですよ」
 苦笑して言うエイトの顔は、照れながらも楽しそうだった。
 以前はとても言えなかった。いくら旅に必要な武器防具の為とはいえ、ギャンブルに身を投じているなど、外で戻りを待つ主君に対しては口が裂けても言えなかった。
 でも今は、全てを言えそうな気がした。ベルガラックの事だけではなく、他の町で過ごした様々な思い出さえも、笑って吐露できそうだ。
 出来ることならば、己が旅した全ての街を彼女に見せてやりたい。街で感じた全ての思いを、彼女に伝えたい。もはや終わった旅ならば、互いの感じた苦労さえ、今は共有できるくすぐったい思い出になる。
 彼女を世界中に連れて行きたい。彼女の立場と己のこの身分が、許されるならば。
「はいっ」
 はにかんだような笑顔を見せるエイトに、ミーティアは笑って答えた。
 
 
 
 
 
 先程まで先導していたミーティアは、カジノへ入った途端、エイトの裾を握りながら、背中に隠れるように付いてきた。エイトは背中の彼女に優しい笑みを送りながら、コイン交換所へと足を運ぶ。
 ミーティアは大きな瞳を動かして、辺りを見回した。昼夜を感じさせない白と黒のフロア。真紅の絨毯の上には派手な装いのプレイヤーが集まっている。人々の眼は常に一点に集まり、繰り広げられる展開に一喜一憂。
 不思議な世界。
 そう思ってキョトンと眺めていると、歩いているバニーガールと目が合った。ニッコリと微笑まれて、ミーティアは少し驚いて照れてしまう。
「どうしました?」
 振り返ったエイトがミーティアの顔を覗き込んだ。はっとしてミーティアはエイトの服の胸の辺りを掴んで、向こうに見える人だかりを指差した。
「エイト、あれは?」
「ルーレットの事ですか」
 キングスライムの回転盤がクルクルと回っている。ベルベットの触りよい緑色の賭け盤には、山のようにコインが積まれている。ディーラーが球を投入した。
「あれはククールが得意でしたよ。あれは回転盤の目ではなく、ディーラーとの駆け引きを読むとか」
 説明をするエイトの隣で、ミーティアの瞳は回転盤と一緒にクルクル動いていた。それを見たエイトは笑みがこぼれてしまう。
「少し周ってみましょうか」
 エイトに手を引かれて、ミーティアはフロアを歩いた。
 それからミーティアは次第にカジノの雰囲気に慣れ、見知らぬ物を見れば瞳を爛々と輝かせ、その周囲の人だかりに近づくようになった。
「まぁ、あちらにホイミスライムが居ますっ」
 ビンゴゲームのフロアまで、ミーティアは駆け出した。急にエイトは手を引っ張られ、体勢を崩してしまう。ミーティアは気付いて振り返った。
……走ってはいけませんでしたね、ごめんなさい、エイト」
 急に大人しくなって、照れたように反省する。
 エイトはその姿を堪らなく愛しいと感じた。
 しばらくフロアをまわるうちに、ミーティアの足が再び止まる。
「、これは?」
「スロットマシンですか」
 フロアの縁に並ぶスロットマシンを、ミーティアは見つめていた。
 回る3つのリールの絵柄を揃えて、役に応じた配当でコインを稼ぐんです、とエイトは説明した。
 説明を耳にミーティアはリールを指差して、「かわいい」と言った。ドラキーを見て微笑んでいるので、エイトは「あぁ、絵柄のことですか」と納得した。
「以前、ヤンガスがスリーセブンを出した時は、大変な思いをしました」
 赤い100コインスロットの前でエイトの足が止まる。
 かつて此処はヤンガスの特等席だった。あの時は、何故か機械が壊れてコインの出が止まらなくなり、店員に不審がられ、ギャリング兄弟の所へ連れられてしまった。思い出して、エイトは苦笑いした。
「まぁ」
 ミーティアも、必死の形相で街を出てきたメンバーの事を思い出した。状況は聞いていたが、その現場を今、彼女は見つめている。
「やってみますか?」
 エイトはミーティアをマシンに促した。
 コインを投入して、賭ける列をこのボタンで選びます。こちらのレバーを引いて……。ミーティアは好奇心いっぱいに胸を膨らませてエイトの説明を聞いた。やってみます、と気合十分にミーティアはレバーを引いた。
「えい」
 3つのリールが回りだす。最初は全ての絵柄が混ざる位の速さで回っていたものが、次第に弱くなり、太陽や月、星などの絵柄が次第に眼に映るようになる。
「え」
 エイトは弱い声を漏らした。
 最初に止まった左端のリールの絵柄は全て赤い7。
「あら」
 中央のリールも止まる。これも絵柄は全て7。エイトは瞬間、「まずい」と感じた。
 エイトは不安げな顔で、ミーティアは無邪気な笑顔で、最後のリールを見つめる。
 リールが止まった。
……全部…………
 9つの絵柄は全て「7」。
 笑顔で見つめるミーティアの隣で、エイトは驚愕していた。
 突然、マシンは大きな音を出して高らかにこの奇跡を知らしめた。途端にコインが吐き出される。溢れるコインの鈍い金属音と、マシンの鳴らす音と光に、たちまち観客が集まってきた。当然の如く、その人だかりを掻き分けるように店員もやってきた。
「まぁ、たくさん」
 ミーティアは溢れるコインを驚異の目で見ながら、それでも事態の大きさを知らずに微笑んでいた。エイトは踝までコインに浸かりながら、またギャリング兄弟のお世話になるのかと項垂れていた。
 
 
 
 
 
……オールセブンは、カジノの開業以来、初めての快挙だとか」
「まぁ、そうでしたの」
 今は地下の酒場に居る。ステージショーを背に、カウンターで二人はグラスを傾けていた。
 スロットマシンはあまりに大量のコインを吐き出した為、最後の方はガタガタ唸っていた。限界に近かったのだろう、マシンの出す音も光も鈍くなっていて、痛々しかった。エイトはマシンに同情した。
 騒ぎに駆けつけた店員に、エイトはただ「何も要らないから此処から出して欲しい」と言った。困り果てている彼を不憫に思った店員は、ギャリング兄弟の下へ送検するのは思い留めた。その隣で無垢に笑うミーティアを見て、「強運の持ち主さまには」と、黒いスパンコールドレスを差し出した。
 今はそのドレスに合わせて、豊かな黒髪を結い上げている。
 いつもは隠れている首筋が、露になってその細さを見せていた。黒いドレスは雪のように白いミーティアの肌を一層際立たせ、大胆に開いた背中が背骨のラインを美しく見せている。
 不意に視線が下に落ちる。光を集めて煌々と輝く漆黒には、深いスリットが入っていて、腰掛けるミーティアの白い太腿が覗いていた。絞られた細い腰からの瑞々しい脚。エイトは慌てて視線を逸らした。
「エイト?」
「あっ、いえ」
 こんな姿は、ミーティアには合わないと思っていた。清純で純真な彼女が、黒々と輝く色香を纏ったドレスに身を包み、艶やかな白肌を見せるなんて。普段からは想像できないほどの色っぽさ。
 しかし、外見はこんなにも魅惑的なのに、ミーティア自身は全くその変貌には気付いていない。いつも通りにワインをコクコクと飲んでいる。かもし出す雰囲気のミスマッチが更にエイトの胸を擽った。
「エイト、疲れているのね」
「いえ、そんなことは」
 動揺を隠してエイトは自分のグラスを見た。先ほどから全くすすんでいないカクテルを回す。
「ミーティア、エイトを連れまわしましたから」
「慣れていますよ」
「もう、エイトったら!」
 冗談を言って紛らわせると、心が少し落ち着いた。
 でも、身体は本当に疲れているかもしれない。特に此処へ来てからは、心が騒ぎ放しだ。
「、そうですね。もう休みましょうか」
 エイトがそう言うと、ミーティアは何事もなく微笑んだ。
「えぇ。大臣が宿を用意してくれたそうですわ」
 エイトは聞きなおした。
…………大臣が?」
「えぇ、大臣が」
…………
 ミーティアはエイトの表情が曇ったことを不思議に思ったが、さして気に留めるとこもなくワインを飲み干して、更にもう一杯を酒場のマスターにお願いしていた。
 
 
 
 
 
……
「まぁ、かわいい」
……
 エイトの悪い予感は的中した。
 ベルガラックの街並みを真似たかのような白い部屋。
 白壁の出窓からは美しい夜のベルガラックのネオン光が届いている。足元に掬われるほどの弾力を感じて下を見れば、白い草原のように毛の深い絨毯が敷き詰められていた。
 それはいい。
 その出窓は過剰なほどに豪奢なレースで飾られ、重たそうにまとめられている。上を見ればドーム型の天井に、ところ狭しと天使が舞っていた。中央から吊られたシャンデリアからは、桃色をした何とも誘淫的な灯が漏れている。
 奥に目をやれば、天蓋付きのベッドが、これもまた過剰に装飾されたカーテンに覆われていた。
(ここに泊まれと?)
 エイトは頭を抱えた。
 ベルガラックの宿屋には何泊か泊まったことはあったが、エイトはこのような部屋があるとは思わなかった。何故、大臣はこのような部屋をご存知なのか。
「妖精さんが眠りそうね」
 できることなら、そうであって欲しい。しかし今夜ここで眠るのは、紛れもない自分たちであって。無邪気に微笑むミーティアに、エイトは何も言えなかった。
 ミーティアは楽しそうに部屋をひととおり見回ると、ベッドに腰掛けた。
「姫、お風呂に入ってきてください」
「あら、エイトこそ疲れているんですから先に……
「いえ。周囲を見回してまいります」
 世話好きの大臣が覗いているかもしれない、エイトはそう思って出窓から身を乗り出していた。
 
 
 
 
 
 婚約、結婚までは彼女には触れない。エイトはそう心に決めている。
 永遠を誓ったあの時から、彼女の心が離れるとは考えられなかったので、そう焦るものでもないと抑制してきた。そうでもしなければ、抑えていた欲求はふとした瞬間いつ爆発するか分からない。
 しかし自らが立てた信条を、揺さぶろうとする悪魔が居る。
 大臣を恨んではいけない、エイトはそう思うことにした。揺さぶりをかける悪魔は、この部屋でこの姫を前にした、まさに自分自身の中にいるのだから。
「一緒に寝るなんて、とっても久しぶり」
「えぇ……本当に久しぶりです」
 何時の頃を思い出しているのだろう、ミーティアは昔のままの笑顔でエイトを見つめていた。男も女もなかった頃は、二人で太陽の下のお昼寝をしたものだ。
 しかし今は違う。
 エイトの悶々とした心を晴らす陽の光などはいっこうにないし、無垢に微笑むミーティアの微笑も、男となった今の自分には誘う雌にしか見えない。
「ねぇ、エイト」
……はい」
 かすかな桃色に照らされた、薄闇に紛れるミーティアは、どこまでも魅力に溢れていた。
 風呂上がりのミーティアは、とても芳しい香りがする。黒髪を束ねて枕に埋まるその姿に心が乱される。
 エイトはうっかり何か変な事を口走らないかと緊張していた。
「エイトって、不思議ね」
「?」
 時々ミーティアは、突然と分からないことを言う。少々に胸をドキドキさせながら、不思議に思ったエイトはミーティアの言葉を待った。
「エイトは世界を救ったのに、勇者さまなのに」
「勇者なんかじゃありませんよ」
 ベッドの中での何気ない会話。こんなにもドキドキしている自分。
 自分の胸元で片言に語るミーティアが堪らなくいとおしい。このまま溢れる思いのままに彼女を胸に抱きたい。
「でも、ミーティアの幼馴染で、お友達で、大好きな人なの。……不思議」
 ミーティアは、エイトという世界を救った勇者と自分との距離を測りかねている。身近なのか遠いのか、判らないでいる。互いに想いを寄せ合う点では二人はずっと近いのに、彼がひとたび近衛隊長となると、姫である自分は何処かしら距離を隔て、更に彼が勇者となると、遥か遠くに感じてしまうのだ。
 上掛けの中から小さな声でミーティアは言った。エイトは驚きながらも聞いていた。
 愛する貴女の前では、こんなにも「ただの男」。それなのに、貴女の方が距離を感じていたなんて。
「そうなると、僕も不思議ですよ」
「?」
 エイトの胸を見つめていたミーティアの視線が上がった。瞳が合うと、エイトはミーティアの頬に手を触れる。
「僕は小間使いから兵士になって、近衛になったのに、貴女はずっとそのままだ。ずっと僕の中に居続ける。ずっと僕の勇気になってくださる」
「エイト」
「ずっと貴女が好きでした。ずっと前から」
 昔のままの無垢なミーティア。一時は恐ろしい呪いにその清らかな心を痛めただろうけど、今は乗り越えて、更に美しくなった。
 このまま、ずっと傍に居て欲しい。その笑顔が己と共にあるように。
「エイト……
 暗がりの中でもミーティアの碧色の瞳は大きくエイトを見つめていた。その瞳が少し揺れているのは、想いが伝わったと感じていいのだろうか。
 エイトはゆったりとミーティアを見つめていた。
「ねぇエイト」
「はい」
……もうちょっとそちらへ行っても良いかしら?」
「えっ!……はい」
 一瞬、心臓が飛び出たかと思った。
 エイトは戸惑いながらも、腕を差し出すと、ミーティアはその上に頭を寄せて近付いた。
……
 この暗さなら、自分がそんなに顔を真っ赤にさせているか、きっと判らないだろう。ランプの桃色も今は助かる。
 シーツの掠れた音がして、ミーティアの柔らかい香りが更に近付いた。エイトは思い切ってミーティアの背中に手を回し、彼女を自分の胸に誘い込む。
……
 心臓の音が聞こえるかもしれない。
 エイトはそう思いながらも、胸に埋まるミーティアを見つめていた。
 しばしの沈黙。
 ミーティアが胸の中から小さな声で言った。
「先に寝ちゃイヤよ、エイト」
「姫が眠るまでは、起きていますよ」
 クスクスと二人が笑った。互いの緊張が解ける。
「おやすみなさい、エイト」
……おやすみなさい」
 ミーティアはその笑いで安心したのか、大きな瞳は次第にトロンと微睡んでいく。
 暫くすると静かな寝息を立てていた。
 エイトは自分の胸の中で昏々と眠るミーティアを見ながら、眠れぬ夜との格闘に入っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 そういうコトにはならないだろうけど、二人で寝る。
私的にドキドキ☆シチュエーションです。
ベッドの中でモソモソ動く相手が気になる気になる。
 
 
 
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