HERO
 
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PRINCESS
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「ミーティア、怖いわ」
「大丈夫、大丈夫だよ」
 真っ白のウェディングドレスを着たミーティア姫が、皺のない純白のシーツの上で身を縮めています。弾力のある天蓋付きの豪勢なキングベッドに、彼女は頼りなげに座っていました。
「優しくするから……
 チャゴス王子は彼女の待つベッドにゆっくりと足を踏み入れます。初夜に緊張しつつも、愛する夫を上目に恥らいながら迎える新妻は、何とも美しく妖艶な輝きを放っていました。
「さ、ミーティア。僕とひとつに……
「チャゴス様」
 ミーティア。僕は今日の夜をかけて、君を愛に悶える僕だけの娼婦にしてあげるから。
 ぐふへへ。
 彼の手が麗しい愛妻の雪のような肌に触れそうになったとき、
「あぁ、ミーティア姫。こちらでしたか」
 ベッド脇のカーテンから、ひょっこりと童顔無垢の青年が現れます。
「まぁエイト!」
 身を締めるような切ない瞳で己を見つめていたと思えば、彼女は一気に彼のほうを向いて、爛漫と笑顔を綻ばせます。
「待っていたのよ」
「えぇ。僕も貴女に会いたかったんです」
 エイトはにこやかにそう言うと、さっさとベッドへと入り込み、はばかることなく彼女を抱き寄せました。
「エイト、今日は一晩かけて愛してくださるかしら」
「勿論ですよ」
 ミーティア姫は嬉しそうに彼の胸に頬を当てます。
「ミーティア、エイトに(自主規制)」
 なにー!!!
 清らかな僕だけの天使が、こんな事を言うなんてー!(しかもエイトに)
「今夜は寝かしませんよ」
 チャゴス王子が衝撃を受けている間に、エイトはにっこりとその言葉を受けとめて、美しい彼女の手を取っていました。
 そうして二人は(自主規制)
 
「あ、悪夢だ……
 
 チャゴス王子は、サヴェッラ大聖堂での結婚式を境に、このような悪夢を毎晩見てはうなされるようになりました。
 
 
 
 
 
 
 
アルゴンリングの輝く場所

 
 
 
 
 
 
 世界を救った勇者様は、過去の記憶を失ってはいましたが、どうやらサザンビーク王家の第一王子・エルトリオ王子の忘れ形見だったということです。由緒正しい血統を引いた王子様で、歴史が間違わなければ彼はサザンビークの玉座に座るべき人物だったのです。
 しかも、流れる半分の血は竜人族の血統を継いでおり、最強勇者の名に申し分ない系譜を持っています。
 そういった背景もあってか、それとも人徳の成せる技か。彼はクラビウス王に認められ、トロデーン王室とサザンビーク王室の古い盟約を果たす役となり、見事ミーティア姫と結ばれることになりました。
 めでたし、めでたし。
 完璧な勇者のシナリオに誰もが祝福を、という所ですが、灰を被ったシンデレラは何処にでも居るというもの。
「く〜や〜し〜い〜ぃぃっ!!!」
 チャゴス王子はサヴェッラ大聖堂での事件以来、毎日のように悶絶絶倒していました。
 本来ならば自分こそ、それは絵に描いたように美しいミーティア姫と結婚できる筈が、横槍が入ったように他の男に奪われていきました。彼にとっては、今や従兄弟で勇者で王子なエイトは、ただの「ドロボウ猫」でしかありません。
「ミーティア姫だって、あんなっ、あーんなワケのわからないノホホン野郎なんかより、ずっと僕の方が、僕の方が良かったに決まってるんだっ!!!」
 限りないプラス思考、理解し得ない前向き思想なチャゴス王子です。
「ぼ、僕が奪い返してやる……ッッッ!!!」
 そうして彼が考えたのは、ミーティア姫の前でカッコイイ自分を披露することと、エイトの前で堂々と彼女を奪っていくことと、みんなの前で二人の熱烈ラブラブぶりを見せつけることでした。
 要するに、自分が味わった苦痛を、従兄弟で勇者で王子であるエイトにも味わわせてやれ! ということです。
 
 
 
 
 
 このような理由でサザンビーク城に招待されたエイトとミーティア姫は、今、こうして正装に身をかため、宴の広間でチャゴス王子の登場を待っているのでした。
 周囲は豪奢に着飾った貴族が料理と美酒を堪能しています。他愛ない歓談は美しい音楽に交じって、この空間をみっちりと満たしています。
 どうにも華やいだ空気に馴染めないエイトを見ながら、ミーティア姫が話しかけます。
「それにしても、“チャゴス像”と、“チャゴス像の村”の設立だなんて」
「常人の思考を凌駕というか……逸脱してますよね」
 二人は数週間前に届いた招待状を思い出して唸りました。
 そうです。チャゴス王子は世界平和の祈念と未来への希望を託し、世界の名工の集うリブルアーチの芸術家たちに「チャゴス像」なるものを作らせていました。そして、世界に名高いリーザス像に対抗して、ゼシカの故郷・リーザス村を真似たように、チャゴス像のもとに集まる「チャゴス村」の設立を目論んでいたのです。
 今日はそのチャゴス像のお披露目パーティーと、チャゴス村に居住する「村人集め計画」の発表の日ということでした。
 秘密裏に進めていたこの計画は、昨日、クラビウス王の耳に伝わり、聞いたクラビウス王はあまりの衝撃に言葉を失い、老後の幸せを叶えようと「願いの丘」へと旅立ったということでした。
「クラビウス様、お可哀相に」
「えぇ、本当に」
 二人は今や不在の城主に代わって、チャゴス王子のはっちゃけぶりを何とか出来ないものかと悩みました。
 お互いに重苦しい溜息しか出なくなったころ、背後から勢いよく声がかけられました。
「ちょっと! どういうこと!!!」
「あれ? ゼシカ」
「兄貴! 聞いてくだせぇよぉぉぉ(涙)」
「ヤ、ヤンガスさんも?」
「エイト! こりゃどういうことだ!!!」
「ククールまで、」
 懐かしい旅の顔ぶれです。
 暗黒神を倒した後、各々はそれぞれの場所で暮らしており、互いに会うことは殆んどありませんでしたが、こうして再び全員が揃ったのは近衛隊長の初仕事、つまりはサヴェッラ大聖堂での事件以来のことです。
 しかし、どうして彼等が揃いも揃ってここで喚いているのかと思うと、
「私達3人に、こんな手紙が届いたのよ!」
 ゼシカがそう言うと、それに合わせてヤンガスとククールが一斉に懐から手紙を出しました。
 キョトンとした顔で、エイトは3人の差し出す手紙を覗き込みます。
「指令……?」
 そこには、チャゴス村の住民として適した人を世界中から見つけて「チャゴス村に来るように」勧誘するべし、という移民探索と斡旋の指令が書かれていました。
「い、移民さがし」
 エイトがポカンとした顔で3人の顔を順に眺めました。
「チャゴスの奴! いつまで俺達を下僕扱いしやがる!」
 ククールがはき捨てるように言いました。
「そうよ! しかもリーザス村を真似してチャゴス村なんてあんまりだわ!」
「移民さがしなんて、これじゃドラクエ4でがすよ!!!」
 それぞれが大声で訴えるので、エイトはたじたじになって聞いています。
「お、落ち着いてください。皆さん」
 ミーティア姫が慌てて輪の中に割って入ると、一同は怒りをおさめます。
 彼女は客人ながら彼らに料理をすすめ、彼らの大声に驚きおののいていた給仕達をやんわりとなだめ、「ワインをお願いします」と何気に指示まで出していました。
「で、お前達はチャゴス像のお披露目式典に招待されて、一方の俺達は次のチャゴス村設立計画の為のスタッフとして呼ばれたというわけか」
 ムカつくぜ、と言ってククールは髪をかきあげました。
「聞けばサザンビーク大臣は、将来をはかなんで出家したとかしないとか」
「えぇっ!!!」
 エイトとミーティア姫には初耳でした。
 そういえば大臣の姿も見当たりません。
「こりゃあ、どうにかしないと色々とマズイでがすよ」
 既にテーブルの料理を始末したヤンガスが、モグモグと口を動かしながら天を仰ぎました。
「うん……
 確かに。こうなると大国サザンビークも世紀末です。
 エイトとて自分が育った覚えがないとはいえ、そして父親が国を捨てたとはいえ、実家(?)の危機を客観視することはできません。何より、旅の頃に関わったクラビウス王と大臣が、ここまで病んでしまったのは哀しすぎます。
「エイト。ヤツを止められるのはお前だけだ」
 ククールがワインを飲みながら言いました。
「お披露目の瞬間にチャゴス像を破壊して、この式典をブチこわせ」
「えぇっ!」
 できるかなぁ、という驚きの顔を見せたエイトに、ゼシカが叱咤します。
「結婚相手の権利を奪ったんだから、これくらい平気よ!」
「え、えっと、」
 そういう言い方って……とエイトは心の中で思いました。
「アッシらは忘れていたでげす。暗黒神の前に、ヤツを殺っておくべきだったと……
 再び3人がエキサイトしだしたので、どう落ち着かせようかと二人がまごまごしていると、扉が開きました。
 曲が変わり、重厚な扉の音に気付いて、この場にいる全員の視線が集まります。そのうち“ある3人”の目は、殺意のある凝視でした。
「皆さん、パーティーにようこそ」
 出ました。チャゴス王子です。
……って、何でお前達までがここに居るのだっ!」
 周囲への挨拶として、辺りとグルリと見渡したチャゴス王子の瞳は「移民勧誘スタッフ」の前で止まりました。
「お前達は後から出てくるのであって、ここで料理をのんびり食べてていいワケじゃないんだぞっ!」
 悲しいことに、本能では「お前達」という言葉の中にエイトも含まれているような気がします。
「いちゃ悪いのかよ」
 ククールが皮肉な笑いで彼の大声をかわしました。美形騎士の氷の微笑みは、チャゴス王子の自尊心を傷つけるに十分です。
「ふ、ふーんだ!」
 チャゴス王子はこれにヘソを曲げながらも、その隣のミーティア姫の姿をとらえればコロリと態度が変わります。
「おぉ、これはミーティア姫。相変わらずお美しい!」
 チャゴス王子は下品なエロ目に目尻を緩ませて歩み寄ってきました。
 彼はヤンガスに負けないくらいの愛嬌ある体型を更に丸め、膝を折ってミーティア姫の前に屈み、挨拶のキスをしようと白い手を取りました。
「花も嫉妬するほど美し――」
 雪のように白い手の可愛らしい指に、ふと、目がとまります。
……
 憎きエイトの渡したアルゴンリングが真っ赤に輝いています。
 細く白いミーティア姫の手で、指輪はつつましやかに光を放ち、結ばれた絆の強さが彼女の美しさを際立たせているようでもあります。
「こ、こんな小さなアルゴンリング……、」
 チャゴス王子は湧き上がる怒りに震えながらゆっくりと立ち上がり、高慢に笑ってみせます。
「ミーティア姫! 僕はもっと、もーっと大きなアルゴンハートで、それはそれは美しい指輪を作ることができますよ!」
 そうしてチャゴス王子はビシリと振り返り、後ろ背にエイトを捕らえて睨みをきかせました。
「それに、これはエルトリオおじさんが王者の儀式で得たアルゴンハートから作られたもの。お前自身は宝石ひとつ持ってやしないのに」
 ふふん、と鼻をならして、チャゴス王子は先ほどのククールを模したように冷たく笑いました。
「、そんなことありませんわ」
 これを聞いて誰よりも早く反論したのは、ミーティア姫でした。
「エイトは何度もアルゴリザードをやっつけました。それに王者の儀式では、貴方が頑張ったのではなくて、エイト達が全てお手伝いしていたではありませんか!」
 一生懸命にミーティア姫が言いました。これにはチャゴス王子よりも、聞いていたエイト達が驚きました。
 それは穏やかで柔和なミーティア姫がキッパリと言い切ったことにもですが、それよりも。
「な、なぜ……なぜ姫は王家の山での事をご存知で?」
 チャゴス王子はギクリとして後ずさりました。
 呪いをかけられ、トロデーン城に囚われていたと思っていたミーティア姫が、まるでその場で見てきたかのように言う不思議さには気付いていない様子です。
 一行の胸が飛び上がりました。
「え、えっと、それは、」
 ミーティア姫は、まさか自分が馬の姿に身をやつして旅の一行に加わっていたとは言えませんでした。そんな事を言えば、彼の人格も合わせて儀式の始終を見たことや、王家の山で彼に尻をムチ打たれたことまでがバレてしまいます。
 そうして彼女が返答に困っていたところ、
 
 
  ……どどーん……どどーん……
 
 
     ……ざわざわ、ざわざわ……
 
 
 なにやら外から呻るような音がこだましてきました。
 遠くから地響きのような轟音が、この大きなサザンビーク城を揺らしているのが分かります。
……?」
 それはどんどん大きくなって、色々な音や声が折り重なって聞こえてくるようです。
「ねぇ、なにこれ……
「なんか……やばくね?」
「兄貴、こりゃあ――」
 どこかしら感じるうそ寒い重圧に、三人の顔が一変しました。
 それは昔、旅を共にした頃の戦闘時の顔つきです。
……
 エイトもまた同じく、この緊張を肌で感じ取っていました。
 何が起きたのかと不安な顔を見せるミーティア姫を守ろうと、エイトが彼女に近寄った、そのときです。
「きゃあ!」
 布を切り裂くような甲高い声が、窓際から聞こえました。
「魔物がっ! 魔物が外にっ!」
「モンスターの大群だっ!」
 見れば空にはメイジキメラやキラーモスの集団が空を覆い尽くしています。
 次第に近付いてくるそれを見て、窓際の来賓が一斉に逃げ出しました。
「なにこれ!」
「こりゃあ凄ェ数だ、」
 一方でエイト達は大きな窓へと走り寄り、奇怪に集まったモンスターの群れを緊張した面持ちで見つめました。
「あ、兄貴っ!」
 ヤンガスが下を指差しました。
「!」
 ダンビラムーチョやアークバッファロー、ドルイド……。地上には、空に負けない数のモンスター達がひしめきあって城へと向かって来ます。
「あぁっ! 僕の村がっ!!!」
 彼らは今日がお披露目だったチャゴス村の敷地内に侵入し、大きなアーチ型の門や立派なレンガの家々を壊しはじめました。モンスター達は狂ったように暴れまわり、折角の村の建物を破壊しつくします。
「おいっ! 何をしている、やめろっ!!」
 城の高みから彼らの様子を見ていたチャゴス王子は驚き怒りました。
 しかし王子の声などモンスターに届くはずもなく、村はどんどん壊されていきます。
 そう、彼らは「チャゴス村」の建設によって棲み処を失ったモンスター達でした。彼らは自分達のナワバリが奪われた報復をしに来たのです。
「うわぁ!」
 今日のお披露目式典を前に準備をしていた建築作業員が、魔物に襲われる! というとき、
「!」
 エイトは咄嗟にテラスを駆け抜けて、ルーラを唱えていました。
 バーサーカーの振り下ろした斧が、まさに作業員の脳天を砕こうとしたとき、鈍い音がして攻撃が止まります。
 魔物の集団に飛び込んできたエイトの姿を見て、彼らは一瞬、緊張しました。
……
 正装用の儀式的な剣とはいえ、それを盾に斧の攻撃を食い止めたエイトの眼光が全てを射すくめます。それはまるで蒼天閃く白い稲妻。普段の彼からは想像できない顔つきに、モンスター達は背筋が凍るほどの戦慄を覚えました。
 獣は、自然と自分より強い相手が分かるものです。
 目の前に剣を構える一人の青年が、見た目は如何に小さな人間とはいえ、自分達より遥かに強い力を持っているかは、尻尾のぶるぶるが教えてくれました。魔物は、強者には抗えないことを本能的に知っています。
……
 モンスターの集団が、彼の闘志に驚きおののきました。
 エイトはその様子を見て、このまま「わぁっ!」と驚かせば、彼らはクモの子を散らすように逃げていくだろうと、そう思って両手を振り上げたとき。
……話をしたい」
 彼らのなかでも特に小さな小さな体をしたおおきづちが、ひょっこりと出てきました。
 滝の洞窟で会った、あのおおきづちです。
「、一体どうしたの?」
 彼に気付いたエイトが理由を尋ねました。
「我らモンスターの居住区が荒らされていると聞いて加勢にきたのだが、貴殿が相手となれば我らも降参するしかあるまい」
「森が壊されて、怒る気持ちは理解るよ」
「うむ……
 おおきづちは魔物を代表してエイトに願い出ました。
「我らは貴殿が暗黒神を倒してからは、人を襲ったり悪戯をしたり、道をとおせんぼをしたりはしなかった。しかし人間が我らの棲み処を奪い、そこにヘンテコな像を建てるというならば、黙ってはいられない」
 おおきづちの言葉に、周囲のモンスター達はうんうんと頷いています。
「我らはこの像を壊せば、これ以上人間に迷惑をかけないと誓おう」
 おおきづちはその大きな木槌の先で不敵に笑うチャゴス像を指します。
「う、うん」
 エイトは苦い相槌を打ちました。
「村は十分壊した。あとはこの像のみ!」
 そう言っておおきづちは、可愛らしい体と木槌をぶるんぶるんと振り回し、チャゴス像を粉々に叩き潰しました。
 
 
 
 滅。
 
 
 
「これで我らの気は晴れた」
 ふう、と満足気におおきづちが言います。
「ではエイト殿。さらば」
 モンスター達は、今や粉砕されたチャゴス像を見て喝采のおたけびを挙げると、それぞれ納得したように引き上げていきました。
 エイトもひとまずは、と胸を撫で下ろします。
 彼は建築作業員の無事を確認し、サザンビーク城に送りました。
 
「ああああああああああぁぁぁ……っっっ!!!」
 
 上からその様子を見ていたチャゴス王子は、張り裂けそうな声で叫びました。
 金に糸目はつけまいと、世界の名工を揃え、壮大な日数をかけて作った自分の像が、完成とお披露目を直前にして崩れ去りました。建造されたチャゴス村も壊滅し、見るにいたたまれない光景が眼下に広がっています。
 
「ぬおおおおおおぉぉぉぉぉ…………
 
 ただ今は、ニッコリと笑った像の顔の破片がゴロリと荒れ果てた大地に転がり、何とも言えない哀愁を漂わせるばかり。
 ふと振り返れば。
「エイト、お帰り」
「てか足速ェよ。俺達の出番なしか?」
「流石! 兄貴でがす!」
 彼の仲間をはじめ、周囲は帰ってきたエイトを労い、褒め称え、尊敬の眼差しを注いでいます。
「エイト、とってもカッコ良かったですわ」
 ミーティア姫が駆け寄って、エイトに極上の微笑みを注ぎます。
「ありがとうございます」
 彼女の笑顔が最大の褒美でもあるかのように、エイトは照れながらも嬉しそうに笑いました。
「〜〜〜〜〜っっっっ!!!」
 最悪の事態です。
 像を作ったのも、村の立案をしたのも、貴族を集めてパーティーを開いたのも。全てはミーティア姫に自分の男前な部分や器の大きさを見せたいが一心からでした。そこには、エイトという男より身分も経歴も申し分ない自分に振り向いて欲しいという気持ちしかありません。
 それが、こんなことになるなんて。
 自分の株が上がらないだけならまだしも、エイトの株を上げてしまうなんて。
「くぅ〜っ!」
 怒りや悔しさが爆発しそうになるのを、やっとのことで堪えます。
……ふ、ふふふ、」
 チャゴス王子は俯きながら、不気味な声で小さく笑うと、拳を固めて呟いていました。
(こうなったら、こうなったら……っ!!!)
 
 
 【ケース・その壱】
   正々堂々としているならば、
   「こうなったら、男らしくエイトに決闘を申し込もう!」
   と思うかもしれません。
 
 
 【ケース・その弐】
   卑怯な場合でも、
   「こうなったら、どんな手を使ってでもエイトを暗殺してやろう!」
   と考えるかもしれません。
 
 
 しかしチャゴス王子が考えたのは、「エイトをどうにかしよう」というものではありませんでした。
 彼は暗黒神ラプソーンという「神」を倒した時点で、神かそれ以上の力を持っています。彼に正々堂々と戦いと挑んだり、暗殺を謀ったりするのはムダだと知っていました。
「ミーティア姫を奪うしかないっ!」
 夜這いです。
 思考が本能と直結しているのがいかにも彼らしい判断で、チャゴス王子は早速その準備を始めました。
 
 
「まず、」
 エイトには、「また魔物がやってくるかもしれないから、夜間の警備を是非にもお願いしたい」と言い、サザンビーク近衛兵の指揮を彼に委ねました。何も知らない彼は快く頷き、自国トロデーン城でのようにせっせと働きました。
「次に、」
 他の来客にはカジノのコイン数百枚を渡し、「お帰りには是非ベルガラックへ」と誘導しました。効果あってか、今晩サザンビーク城の客室で宿泊するのはトロデーン城の一行のみとなりました。
「そしてっ!」
 ミーティア姫には「王族専用」と銘打った別室に案内させ、従者から引き離すことに成功しました。
 これで準備は万全です。
 全てがぶち壊しになって気まずかったお披露目パーティーを早々と切り上げ、チャゴス王子は気分を入れ替えて夜這いの支度に取り掛かります。
 といっても、ミーティア姫を誘導した部屋はここから数メートルも離れてはおらず、夜間の警邏にあたる筈の近衛兵も、今夜は崩壊した旧チャゴス村へ派遣しています。彼のすることと言えば、丹念に入浴を済ませることと、部屋に忍び込んでから行動をイメトレするくらいのものです。
 
 
 
 
 
(イメトレ中)
「きゃっ! チャゴス様っ……どうしてここに?」
「ミーティア姫、お会いしとうございました」
 チャゴス王子は、緊張して怯えるミーティア姫を宥めて、
「僕はエイトよりも経験豊富で、きっと貴女に満足していただけると思いますよ」
……エイトより?」
「ばっちりです!」
「そ(自主規制)」
 以下、自主規制。
 
 
 
 
 
 ぐふへへ。
 完璧だとばかりに支度を整え、いざ!と自室の扉を開けば。
「っ、んな!?」
 どどんと仁王立ちに構えるヤンガス、ゼシカの姿が。
「王子のご指示通り、あとから仕事をさせていただきやす」
 ヤンガスが背の大鎌をギラリと光らせて揺すりました。
「今夜は近衛兵の警備が手薄になっているようで、僭越ながら私達もこちらの警備に協力しようと思いまして」
 腕組みをしたゼシカが鋭い視線でチャゴス王子を睨みすえました。
「それでは、中に」
 二人はずずい、と強面のまま部屋に押し寄せました。
 自室に引き戻されたチャゴス王子は、ヤンガスの襟締めにムセながらも慌てて言います。
「何で中まで入る必要があるっ!」
「危険なのは貴方だけだからですよ」
 射すくめるような瞳でゼシカが言い放ちます。
「安心してください。もう少ししたらククールも揃いますから」
「えええええぇぇぇぇぇぇ!?」
 
 
 
 
 
 その頃エイトは、旧チャゴス村の警備とともに、壊れた家々の瓦礫を片付けていました。客人がする仕事でもないのにと、サザンビーク近衛兵が申し訳なさそうに言うので、エイトは勧められるまま簡易テーブルでお茶を飲んで、小休憩を取ろうとしました。
「おい、エイト」
 耳に馴染みのある声に振り向くと、暗闇からククールがやってきます。
「お前、何やってんの」
「え? モンスターが来ないかって、警備だけど」
 キョトンとした顔で答えるエイトに、ククールは頭を抱えます。
「代わるから、お姫様の所へ行ってやれって。旅先の一人寝は淋しいだろ?」
 これは罠だから、お前は戻って彼女を守れ、とは言いませんでした。
「でも、まだここ――」
「後片付けはこんくらいでいいだろ、後は本当の作業員に任せて、聖水でも撒いとけ」
「ククールは?」
「ここの収集がついたら、やらなきゃいけない仕事があってね」
 だから早く代わって行ってくれ、とククールはエイトの背中を押しました。
「?」
 何が何だか分からないまま、エイトはルーラを唱えてサザンビーク城へと戻りました。
 
 
 
 
 
「エイトッ、待っていました」
 ミーティア姫は、入口の出迎えフロアで彼の帰りを待っていました。彼の姿を捉えた途端、ミーティア姫の不安な顔は消え去り、花の咲くようにパッと明るく綻びます。
「遅くなりました」
 ククールの言うとおりだ、とエイトが思った瞬間、ふわりと彼女が胸に飛び込んできます。
「エイト、」
「どうしました?」
 エイトが胸元の彼女を覗き込むと、どこかしら照れたような微笑を湛えて、ミーティア姫が口を開きました。
「今日はエイトに言いたい事が沢山あって、何からお話ししたら良いか困りますわ」
「?」
 不思議そうな顔で見つめるエイトの瞳は、少年のままの無垢な輝きで彼女を見つめています。
「だって、とっても素敵でしたもの」
 ミーティア姫は恥ずかしそうに言いました。
「エイトがあういう顔をするの、久しぶりに見ました」
 今はもう普段どおりの童顔を見せているエイトですが、ミーティア姫はまだドキドキしているようです。胸の鼓動を抑えながら、彼女は可愛らしく戸惑っています。
「私、エイトの大好きがまた大きくなりました。素敵なエイトの事、お話ししても良いかしら?」
 それはまるで子どものよう。
「姫」
 膨らむ愛情をそのままに、エイト自身に伝える彼女はとても素直で。それだけで彼女に対する愛おしさが溢れてきます。
「ちょっと恥ずかしい気もしますが、」
 エイトははにかみながらも腕の中に納まる彼女に言いました。
「今日、エイトは眠れないかもしれませんわ」
 言いたいことが、沢山ありすぎて。
「ほ、本当ですか」
 戸惑うエイトに微笑んで、ミーティア姫は嬉しそうに胸に埋まりました。
 
 
 
 
 
「眠れないだってぇぇぇっっっ!!!」
 廊下での会話を耳にしたチャゴス王子は、ミーティア姫の軽やかな声を聞いて飛び跳ねました。意味を取り違えた彼は、今にも悶絶しそうな勢いです。
「ひ、姫がそそそんな事を言うなんて〜〜〜っっっ」
 おのれエイト!
 憎しみにチャゴス王子の拳が固まったとき、
「あぁ、王子も今夜は眠れませんよ」
 城に戻ってきたククールが皮肉な笑いを見せて現れました。
「今から王子は、願いの丘で満月を待ってらっしゃるクラビウス王と、今度は自発的にトロルの迷宮へと隠遁した大臣に、サザンビークに戻ってもらえるよう謝りに行かなくてはなりませんから」
 仰々しい言葉と態度で、ククールは意地悪そうに口端を上げて微笑みました。
「何ィィィィィ!!!」
 悲壮に叫ぶチャゴス王子を黙らせるように、ゼシカがムチをビシリと構えます。
「さ、ご準備を」
 彼女に合わせて、ヤンガスもまたその背の大鎌を持ち、チャリと音を立てました。
 元山賊ヤンガスの鋭い眼光が、チャゴス王子を捕らえました。
 
「い、いやだァァァッッッー!!!」
 
 そうして静寂のサザンビーク城に切り裂くような悲鳴が上がったころ、エイトは薄闇の中で隣に眠るミーティア姫を見つめていました。
……
 天蓋をすり抜けて届く月光に、彼女の寝顔が輝きます。
 ミーティア姫は、今日の出来事や昔話までを少々興奮気味に話して、そのまま眠りに誘われていったようです。ベッドの中で嬉しそうに喋りながら、次第にまどろんでいった彼女を思い出すと、エイトは自然と笑みが零れました。
 安らかな寝顔を見つめていると、不意に動いた彼女の手が自分の胸に添えられます。
……エイト……
 おぼろげにも意識があるのか、それとも無意識なのか。ミーティア姫は薄く開いた小さな唇から、彼の名前を漏らしました。
 小さな手は、眠りについた今でもエイトの優しさを求めているようで、彼の寝間着をキュッと掴みました。
 エイトはそれに微笑んで、胸元の手をそっと握ります。
「ミーティア」
 そのとき、しとやかな月光の一筋がそこを照らしました。
 左手の薬指。彼女の白く細い手に、生命の輝かしい色をした光がさしこみます。
 両親より受け継いだ愛の証であるアルゴンリングは、今も永遠の愛の灯火として彼女の指で煌めいています。この炎のような真紅の輝きは、これからもかげることなくミーティア姫を包み、守っていくことでしょう。
 エイトは彼女の手にそっとキスをして、自分も眠りにつきました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 おおきづち。滝の洞窟ではじめて彼に出会って以来、
メチャクチャ気に入ってます。かわいすぎ。
彼の口調が捏造なのは、どうかお許しを。  
 
 
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