HERO
 
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PRINCESS
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究極ベホマ

 
 
 
 
 彼女を守っているつもりが、守られていたことに気付くには左程時間を要しなかった。
 ドルマゲスを倒した一行は、杖を持って失踪したゼシカを追ってリブルアーチ地方に来たものの、ライドンの塔に棲まうモンスター達に早くも苦戦を強いられ、彼女を欠いた3人編成の脆弱さを痛感する事になった。
 塔の仕組みに気付いたまでは良かった。勝手を知ったエイト達がいざ上に向かおうと様々な絡繰りを攻略し始めれば、生命を与えられた石像がそれを阻むように襲ってくる。何回か戦ううちに、これら石像が魔法攻撃に弱いという事が判ったが、肝心の魔法使いを欠いた一行は苦戦を強いられるばかり。
「もう無理。限界」
 遂にククールの魔法力が尽きた。
 彼は石造りの床に大の字になって寝転び、今しがた粉微塵に砕け散った石像の残骸と並んで倒れる。彼の長い手足は鉛のように地に沈み、疲労感を露にしていた。
「ゼシカが居ないと俺達も頼りねぇもんだ」
 ククールは天井を見上げたまま失笑する。
 彫刻の町リブルアーチでは、大呪術師ハワードの屋敷で杖の魔力に洗脳された彼女と戦ったが、無意識化の底知れぬ魔力には男3人が束でかかっても敵わなかった。圧倒的な強さを前にこちら側は大きな損傷を受けることになったのだが、敵に回った仲間を前にしたショックは更にこたえるものがある。
 これは戦力の増減の問題ではない。彼等は今、冒険が始まって以来経験したことのなかったパーティーの分裂に精神的な負担を強いられていた。
「あの譲ちゃんは娘っこの身でアッシらによくついてきたと思ってやしたが、」
 逆だった。
 細身の身体に強大な意志と魔力を秘めたゼシカは攻撃の要でもあったし、何よりパーティーのムードメーカーだった。感情の起伏の激しい彼女に一日を左右される事も少なからずあったが、寧ろそんな性格がまとまりのない男性陣を引っ張ってきたのだ。
「今はあの強烈なメラゾーマが恋しいでげすよ」
 これまで敵に目掛けて放たれていた魔法を己が受けたのは数日前。その威力の程を身をもって知った今は、ゼシカの不在を言葉通り「痛感」している。
 ヤンガスはククールより少し離れた石床に、同じく大の字になりながら言っていた。既に強敵を相手にして技を出し切った彼の魔力も底を尽きている。
「せめて兄貴の回復でも出来れば、」
 ヤンガスは瞳だけを動かして、石像に寄りかかって座るエイトを見て言った。
 彼はふくろを漁って薬草を取り出している。その様子から彼に回復に宛てる魔力はないと読んだヤンガスは申し訳なさそうにそう呟いていた。
 するとそれを聞いたククールが、皮肉な溜息を交えて横槍を挟む。
「お前の効かねぇホイミなんて当てにしてねぇよ」
 この言葉には泥のようにへたったヤンガスも反応したらしい。彼は「へっ」と鼻でせせら笑うと嫌味っぽく言葉を畳み掛けていた。
「魔力を失った僧侶こそ使えねぇものはないでがすよ」
 同じく魔力の尽きた状態では、どちらが役に立つかなどは言うまでもない。ヤンガスは返し言葉に挑発を乗せて笑う。
 しかし互いに喧嘩を始めるほどの気力も体力もないらしい。
……お互い口だけはよく回るもんだぜ」
「でげすな」
 後は二人で合意の言葉を溜息に交えて吐けば、仲良く天を仰いで倒れるばかり。エイトはそんな仲間の様子を見て微笑すると、寝転ぶ戦士と僧侶にそれぞれ薬草を投げて渡した。
 同じく体力の限界に達しているエイトは、彼等の所まで行って薬草を使ってやるという力はないらしい。彼ははぐれメタルのように床にへばりついた二人を眺めながら、小さく口を開いて呟いていた。
「とにかく、僕達までバラバラにならなくて良かった」
……
……
 それは多分、誰もが思っていたこと。
 敢えて口にこそ出しはしなかったが、ここで残された者達が先の一件に動揺して心を離せば事態は更に悪くなっていた。そんな最悪の事態を避ける為に、普段は反発しがちなククールとヤンガスもこうしてまとまっているのである。
 エイトはそれが嬉しかった。ゼシカを失った今、彼等がそうしてくれるのは大変心強かった。
「ま、フラれた男ってのは大概こうやってツルむもんだぜ」
 ククールはエイトの疲れてはいるが穏やかな微笑を受け止めると、掌をヒラヒラと振って冗談を言ってみせた。どうやら動くのは利き手の肘から下だけらしい。
「そんで振るよりも振られるのが男ってモンでげすよ」
 これに続けてヤンガスも言ってみせる。
 口端を小気味良く上げて笑う彼もまた丸太のような腕を動かし、その後は石像のように微動せず床に張り付いてしまった。二人の台詞にエイトが笑ってから、暫くは沈黙が続いた。
……
……
……
 身体は岩のように重く、身に纏う服も汗を吸って気持ち悪い。体力も魔力もカラッポで、指先一つ動かすのも億劫だ。何せ身体中が疲労と傷に悲鳴を挙げている。
 それにしても。
 事態は確実に悪い方向へ進みつつあるというのに、これを何処か心地良く感じてしまうのは、決定的な敗北感を味わったからか。
……
……
……
 見上げる空は憎らしいほど穏やかな青。塔より覗く晴天は、真っ白な雲を運んでは流していく。快い風が汚れた頬を撫でていくのを感じ、結構な高さまで登ってきたのだと気付かせてくれた。
 エイトは見上げた頭を石像に預けながら、吸い込まれそうになる程の空の青を見つめ、今頃は地上で帰りを待っているであろう主君と姫君の事を思い出していた。
……
 
 
 
 
 
 近衛兵として入隊してから、エイトは初めて騎乗を許された。城内での帯剣と共に近衛兵士の特権とも言うべきそれは、小間使いだった頃よりの夢で、エイトは厩番をする度に馬への憧れを強くさせていた。近衛兵として騎乗訓練を始めた時は、念願の想いが叶ったという喜びに心を躍らせていたものである。
 最初のうちは馬の世話をしていた経験もあってか簡単に出来ると思っていた。しかし馬を馴らすのはこれと別である。エイトは己の足と化した彼を乗りこなすことが出来ず、訓練では何度も落馬して怪我を負い、救護の世話になっていた。
「馬に乗れなければ姫君をお守りすることなど出来るまい」
 傷の手当てを受ける時に言われる第一声は決まっていた。救護室へ来る前には近衛隊長にも同じ台詞を言われて送られたエイトである。入隊して間もなく覚えたこの言葉は、もはや彼の中で成句と化していた。
「はい」
 擦り傷を作って打ち身に腫れた肘を見つめ、エイトは一言返事をして口を噤む。
 近衛としての任官を希望したのは、馬に乗るためではない。姫君を守る為だ。より近くにあって彼女を守る為にこの道を選んだ自分には、相応しい能力を身につけなくてはならない。
……
 そう自戒を込めて彼が沈黙した時、救護室の扉が勢い良く開いて音を立てた。
「エイト!」
 彼の落馬を聞いたミーティアが慌しく駆けつけたのである。
「ミ、ミーティア」
 驚きの表情で迎えたエイトは、彼女の不安そうに震える瞳が己の負傷した腕を捉えるのを見て、困ったように微笑した。
 彼女が己の傷を見て悲しむのは昔から変わらない。
「どうしましょう、どうしましょう……
 最近は彼女を安心させようとして見せる微笑も疑われるようになった。強がりを言っているのだとか、自分を心配させないようにしているのだとか、幾分成長した彼女には偽りが見破られるらしい。
「ひどい傷、」
「大したことないよ。手当てもして貰ったし」
 本当は凄く痛いけど、とは言えない。エイトは肘を軽く振って見せると、やはり笑って彼女に言った。なるべくなら落馬の事実を知られたくなかったという、なけなしの自尊心も隠してである。
 しかしミーティアは大きく首を振って更に言った。
「いいえ、私は平気ではありません」
 心が張り裂けそう、とミーティアは胸に手を当てて訴える。彼が近衛への入隊を決意した理由に自分が関わっていることを重々に知るミーティアは、それによって彼が傷付くことに深い悲しみを感じるのだった。
「ごめんなさい、エイト。私にホイミが唱えられたら良いのですが」
 魔法の唱えられない彼女にとって、彼の傷は心の痛みそのものに変わる。癒す術を持たない自分の無力を痛感し、痛々しい傷跡を見ては涙が滲むのだ。
「そんな、いいよ……僕が強くなれば済むことだし」
 涙を見せそうになるミーティアを前に、エイトは慌てて言っていた。
 傷など負わぬ程に強くさえなれば、彼女にこのようなことを思わせることなどない。回復魔法や手当てを必要としない強靭さがあれば、こうして彼女を泣かせることもないだろう。
 ミーティアの大きな瞳は今にも涙を零しそうに震えているが、今の自分には流れる涙を拭ってやる強さも資格もない。きっと彼女は傷だらけの指を見て、また泣くだろうから。
(あぁ、)
 強くなりたいと心から思う。
 彼女の不安の一切を取り除き、幼い頃に見せた屈託のない笑顔と共に居られるよう、彼女を守れる強さが欲しい。
 エイトがそう思いながらミーティアの前で指一つ差し出せずに留まっていると、ミーティアは何か思いついたのか、彼の患部に手を当てて大声を出した。
「いたいの、いたいの、とんでいけ!」
 小さな掌でエイトの包帯を擦ると、クルクルと回した手は高々に天へと向かって放れる。
「、」
 エイトは刹那、彼女の台詞に驚いてしまった。
「どうかお大事に、エイト」
 己の心が傷と共に痛む時、彼女はいつもそうしてくれた。何ら昔と変わりない、彼女お得意のまじないをまだしてくれるというのか。
 
 いたいのいたいの、とんでいけ。
 それは魔法が唱えられない彼女の究極魔法。
 
……
 今はもう離れてしまったが、彼女が手を置いた部分が仄かに温かい。そして彼女の優しさに触れた心はみるみるうちに癒されていく。
……ありがとう」
 小さな頃はまやかしだと信じなかった動作も、今は何となく効果があるように思えてくるから不思議なものだ。彼女の魔法を受けたエイトは、心からの笑顔で謝辞を述べていた。
 
 
 
 
 
……
(あぁ、あれから)
 
 あれから僕は強くなったろうか。
 君を守れるほど強くなれただろうか。
 
 エイトは塔より見える青に、彼女の瞳の色を重ねて昔を思い出していた。
 澄んだ今の蒼空は、いつまでも純真な彼女のよう。瑞々しく降り注ぐ太陽の光のように、いつだって温かな元気を与えてくれる大切な女性。
 彼女を思い出している自分は、やはりまだ弱いかもしれない。
 
 
 
 
 
「いたいの、いたいの、とんでいけ」
 エイトは空を見つめながらそう呟いていた。
 沈黙の続いていた塔に、小さく紡がれたその言葉はよく通って聞こえる。
「は……?」
 ククールが間の抜けた声を出してエイトに顔を向けた。ヤンガスもまた振り返る。
「あ、兄貴?」
 二人はエイトをまじまじと見つめ、天を仰いだまま無心に言を吐く彼も遂に気がふれたのかと心配そうに身を起こす。
 不安げな面持ちを揃って見せる仲間の気配は感じ取っているのか、エイトはそれでも空を仰いだままの姿勢で返事をした。
……って言ったら、何だか元気になってきた」
 石像に背を預け、力なく立てた膝に腕を乗せ。エイトは脱力した肉体の重みを感じながら、顔だけは上に向けて言う。呟くように吐かれた言葉が天に吸い込まれると、彼の唇には仄かな笑みが象られる。
 そう、彼は笑っていた。
「それは魔法でがすか」
 ヤンガスとてその言葉は小さな頃に何回か聞いた覚えがあるのだが、言われて痛みが消えたことは勿論ない。故に彼は、穏やかな微笑を浮かべて空を見つめるエイトに敢えてそう聞いていた。
 エイトはその問いに暫し「うーん」と唸ると、雲を仰いでいた視線をゆっくりと二人に戻し、次には笑って答えた。
「究極魔法、かな」
……
……
 キョトンとするヤンガスと、呆気に取られているククール。そして彼等を見て微笑むエイト。
 地に張り付いていた二人が顔を上げてエイトを見つめ、3人はここでようやく視線が合う。音を失った空間に地上からでは感じることの出来ない涼やかな風が流れ、決して苦しくはない沈黙が3人を暫く包んで去った。
「、そりゃ究極だ」
 漸くククールが口を開く。彼は噛み締めるような笑いを零すと、「よいしょ」と上半身を徐に起こしてエイトに尋ねてきた。
「リレミト唱えるだけの魔力はあるか?」
 普段は軽やかな身のこなしが自慢の彼も、今は起こした半身を肘で支えるのが精一杯。ククールは細身の体躯より気怠い溜息をひとつ付くと、彼らしい妖艶な流し目でエイトを見た。
「それくらいなら、多分――」
 エイトは言われて内観し、己の疲れた肉体に宿る微かな魔法力を推し量ろうとしたが、ククールは彼の返事を待たず言葉を続ける。
「それはここを出た時のルーラにとっておけ」
 ククールは言い終える前に起き上がり、やや格好をつけて立つと手をヒラリと振って見せた。
「俺はもうカラッポだから、お前に任せる」
 そうしてエイトが見上げたククールは、いつもの気丈な僧侶騎士。
「そん代わり、進む道は切り開いてやるぜ」
 女性を虜にする彼の美しい瞳が塔の上部を一瞥すると、視線は再びエイトに戻ってウインクして見せる。やや誇張してそう仕草するのは自身への皮肉なのだろうか。
 エイトは彼の微笑につられてフッと笑うと、己も座ってはいられないと腰を起こした。
「兄貴、」
 そうして立ち上がってみれば、ヤンガスもまた覇気に満ちた表情で目の前に立っている。
「こんな塔を作っちまった本人を殴りに行きやしょう」
……
 先程までは泥のように床にへばりついていたパーティー。
 HPは僅かで、MPも底を尽きたという悪条件は何ら改善されていないというのに、それでも立ち上がり進もうという気力が漲るのは何故か。
 エイトは無形不可視の大きな力に感謝し、己の前に立って待つ仲間に大きく微笑む。
「うん、行こう!」
 その声は晴れやかな天空に透き通って届いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 君が外で待っている。
 僕達が戻って来るのを待っている。
 
 君がそこに居るから、僕は前に進めるんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 「ライドンの塔」は引き返して何回かトライするよりも、
一気に上ったほうがずっとラクかなーと思います。
そんな事を考えていたら出来ていた小説。
 
重そうな石像を運ぶエイトに愛。
 
 
 
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