HERO
 
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JESSICA
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サザンビーク

 
 本当に悲しい時には涙がでないとは言ったものだ。
 ゼシカは翠天に流れゆく薄雲を眺めながらぼんやりとそう考えていた。
……
 西の大国、サザンビーク。由緒ある血統を引き継ぐ王家の城下には伝統と格式に溢れたギルドが軒を連ね、普段は重厚な趣を漂わせているのだが、今日々街の中心を成す大広場は空の青に万国旗を掲げ、色とりどりのバルーンを浮かべて雍容と賑っている。
 山脈を背に構える王城より注がれる清流を隔て、広場を中心に左右に広がる街。ゼシカは噴水を囲むようにして置かれたベンチに腰を下ろし、ただ一言を反芻しながら空を見上げていた。
……
 “本当に悲しい時には涙がでない。”
 これを誰かに聞いた時は「まさか」と一笑した覚えがある。悲しいからこそ泣く人間が、更に深い悲しみに包まれたときに涙が出ないなど、幼い頃のゼシカには理解できなかった。
(でも、その「まさか」だった)
 この言葉を自らの経験をもって納得することになるとは更に思ってもみなかった。
 噴水の飛沫が光に煌きながら時折頬を撫で、無数の雫がひんやりとした空気を届ける。溢れる水の音と周囲に弾む声に紛れ、ゼシカの呟きは不意に声になっていた。
……泣けなかったなぁ……兄さんのお葬式……
 兄の冷たい亡骸は、闇に似た絶望を抱かせた後に眩暈を起こすほどの憎悪を呼び起こした。事態が飲み込めず、彼の死を受け容れることのできない自分は、兄を殺したという仇を討てば彼が生き返るとでも思っていたのだろうか。塔にやってきたエイトに怒りのままメラを放っていたのは、整理の覚束ない激情をぶつけたかっただけなのかもしれない。そう、あの時の自分は狂っていた。
 ようやく兄が還らぬ人となったことを悟ったのは、塔での仇討ちが空振りに終わったあの時。
「声まで出して泣いたのなんて、何年ぶりだったかな」
 夜通し泣いて身体中の水分を涙で絞った次の朝は、ようやく現在に立つ自分を見ることが出来た。
……
 それからだろうか。自分の中の時計が進み、めまぐるしく変化し成長する自身を感じるようになったのは。あれから自分は変わった。そう考えられるようになったのも、前を進んでいるからだと思える。
 ゼシカはまるで吸い込まれるように細い顎を上げて天空を眺めていた。
「ゼシカ」
 そうして突き抜ける空を見つめていた瞳は、呼ばれて地上へと戻される。
 見ればエイトが大きな荷物を抱えて立っていた。
「世界樹の葉は一枚ずつしか売らないんだって。だから今ヤンガスとククールが別々に並んで買おうとしてるんだ」
 サザンビーク城下で開催されるバザーは、年に一度の大祭典とあって大変な賑わいを見せている。世界中から出店者が集って店を構え、他では買えない珍しい商品が売りに出されるとあって、買い物客も競って店前に列を作り広場を埋め尽くしていた。
「お一人様一個限り、というわけね」
「バレるから止めた方が良いって言ったんだけど……
 エイト達は旅の用立てにと店を回っていたのだが、天使のチーズを作る材料になる世界樹の葉が売られていると聞いて、メンバーがその一店に飛びついた。トーポに与えるのが勿体無いほど美味いチーズは、一度食べたきり口にしていないが、幻の味として仲間の間で語られている。
『嬢ちゃんも並ぶんでげすよ!』
 見ればヤンガスは列の最後尾から激しく手を拱いてゼシカを呼んでいた。天使のチーズに対する執着心は最も強い彼である。あの形相では今しがた買い終えたエイトまでも再び列へと加えそうで、遠巻きに彼を見たゼシカは肩を竦めて失笑した。
「食材の調達は済んだ筈だけど……付き合ってあげようかしら」
 ゼシカは膝に乗せた大きな紙袋をエイトに預けると、かけていたベンチから立って行列の作られた店へと向かおうとした。
「待って、ゼシカ」
 二つの荷物を抱えることとなったエイトはその重みにややバランスを崩しながらも、紙袋の間から慌ててゼシカを呼んで引き留める。
「何?」
 咄嗟に振り返ったゼシカは、袋の端から転げ落ちそうになる食材を見て思わず彼に近付いた。折角自分が吟味して選んだ新鮮な野菜である。危ない、と彼女が紙袋に手を伸ばした時、エイトは隙間から見えたその表情をまじまじと見つめていた。
「ゼシカ……今、泣いてた?」
「え? 何で」
 大きな紙袋ごしとはいえ、接近した二人は互いの顔を見つめ合って表情を確認する。エイトは少し不安そうにゼシカを見つめ、ゼシカはそんなエイトを不思議そうに見返す。
「いや、なんとなく……
 彼女らしい強い視線が目尻ひとつ潤ませず見つめてきて、エイトは自分の誤認かと思うと慌てて目を逸らした。普段は意識しないが、やはりゼシカは美人だ。その瞳が至近距離で己と視線を合わせていると思うと、彼女に対する心配はかき消えて、未だ恥らってしまう自分がいる。
「泣いてなんかないよ」
 ゼシカはどうかしたのかと逆にエイトを覗いてきて、大きな瞳を更に大きくして近付いてきた。エイトは両手に荷物を抱えたまま、背だけを反らして逃げるように退く。海老反りよろしく体勢が辛くなったところで、エイトは苦しそうに声を出していた。
「、ならいいんだ」
 ゼシカの大きな緋色の瞳は、時折全てを見通しそうなほど鋭く輝くことがある。これ以上は、とエイトが後のベンチにドスンと腰を落とすと、ゼシカは半ば呆れたような顔でそれを見やり、あれからずっと手を振っていたヤンガスの元へと走っていった。
……
 エイトは腰を落とした衝撃で膝にのしかかる荷物の重みを痛感すると、仕方なしとは言え最後尾に並び始めるゼシカを見やって、抜けるような一息をついていた。
 
 
 
 
 
   初めて会ったあの日以来、君の涙を見ていない。
   あれから君が泣いたことはない。
 
 
 
 
 
……四人で並んだのに五枚あるよ」
「なにこのホラー」
 宿屋で過ごすのも今夜で最後。
 明日からは闇の遺跡に張られた暗闇の結界を解く鍵を見つけようと、周辺を探索して情報を集めるための野宿に入る。それ故に今日は物品の調達をしていたのだが、こう宿屋での暮らしが長くなると、交代で火の番をして眠る野宿生活に戻るのが惜しくなってくる。買い揃えた道具類を確認しながらも、全員で起きていられる楽しさに甘え、つい話を逸らして夜更かしをしてしまう。
「それは俺があの娘にサービスして貰ったからさ」
「何、あんな小さな女の子まで口説き落としたわけ?」
「悪人でがす」
 食事を済ませた後に翌日の計画を話し合うのがメンバーのルールになっていて、集まる場所はエイトのベッドを中心とした男部屋。作戦会議を終えるとゼシカが一人、別部屋へ帰っていくのが通例となっている。
「まさか! 君を見たさにもう一度並ぼうかと言ったら、彼女はもう閉店だから二枚あげると言ったんだ。だから明日も来てくれってね」
「ほら、口説いてるじゃない」
「見境のない男でがす」
……酷い言われようだぜ」
 エイトのベッドに荷物を広げ、旅の仲間の会話が続く。会話の大半は今のようなククールの女癖を批判するか、ヤンガスの無尽蔵な食欲を批判するか、短気なゼシカの気性を批判するかのどれか。そのどれであっても、エイトはほんの少しの笑みを乗せて聞く側に回ることが多い。
「でも、これで天使のチーズがいっぱいできるよ」
「だろ? 俺はチーズの為に誰より貢献したんだぜ」
 エイトの言葉を味方につけたククールはここぞとばかり己の正当性を主張してみたが、疑い深い魔法使いとそもそも彼を信じていない戦士には効果がない様子。
「貴重な世界樹の葉ですからね、貴方の復活には使わないようにしたいわ」
「自分で手に入れたアイテムで生き返るのも何でげすな」
 口を揃えて言い合う二人と、言葉を詰まらせるククールの間に居たエイトはプッと笑って肩を竦めた。パーティーに加わった時などは彼が最も口達者だと思われたのだが、今や口ではこの二人に敵わぬと見える。最近は何を言っても叩かれる損な役回りを彼もまた買って出ているのだと思うと、自然と笑みが零れる。
「とにかく明日からは錬金釜の為に走り込み開始ね」
 小さく欠伸をしたゼシカは、時計を見るとそう言って部屋から出て行った。それを皮切りにククールとヤンガスも解散し、それぞれのベッドへと向かっていくのも普段と変わらない。走り込みと聞いて渋い顔をしたヤンガスに笑ってオヤスミと言い、ゼシカは扉を開けて自室へと戻る。
 そのドアノブが完全に閉まるかという時、
「エイト、ちょっといいかしら?」
 既に顔も見えなくなった隙間から彼女の声だけが届いて、エイトは扉の方向を向いた。
「、」
 声色は左程深刻でもない。しかしそれが余計に引っかかる。
 エイトはベッドに散らばったアイテム類を避けながら、彼女の後を追うように部屋を出て行った。
 
 
 
 
 
   勝気な君の笑顔に絆される反面、僕は少し不安になる。
 
   君が泣いているような気がして。
   泣けなくなった気がして。
 
 
 
 
 
 どうしたの、と声をかけるよりも彼女の表情を見た方が早かった。
「エイトは何でもお見通しなのね」
 突然と降参したような微笑を湛えて言うものだから、エイトは昼間に大広場のベンチで交わした会話の事だと直ぐに理解る。
「涙が出る前にバレちゃうなんて」
 やはりとは言えないが、何故彼女がそんな気持ちになったのかは気になる。
 辛い思いなど毎日させているのだから、いつどこで女の子であるゼシカが泣いてもおかしくない。エイトはそう思って旅の計画を練ってはいたが、実際に泣かれると相当に心が痛む。
「ごめん、辛かった?」
 自分に彼女を苦しめるものが何であるか分かれば良いのだが。心労を本人に聞くとは何とも野暮な話だ。加えてゼシカは辛いかと問われて首を縦に振る性格ではないことも重々に承知している。不甲斐無さを募らせたエイトは不意に謝っていた。
 するとゼシカは笑って首を振り、「違うの」と言葉を続ける。
……なんだか弱くなった気がして」
「ゼシカは強いよ」
 瞳を伏せて苦笑した彼女を励まそうとエイトはそう言っていたが、これを聞いた本人はフッと笑って今の言葉を否定した。
「強くなんか、」
 男勝りだとか勝気だとか。以前のゼシカならば寧ろそう言われる事を好んでいたものだが、今はどうやら違うらしい。そう、彼女は上辺だけの強さを追わなくなっていた。
 自室の扉の前で足を止め、ゼシカは心配そうに己を覗き込むエイトに小さな声で呟く。
……何でもない事に涙が出そうになるの」
 自嘲気味にクスリと笑ったその表情は、これまでに見たことのない優しげな憂い顔。初めて見る柔らかな苦渋の微笑は、エイトの心をどこかさざめかせる。
「今日もね、沢山の人の笑顔を見てたら……平和だなって思って」
 もはやほとんどの宿泊客が眠りについただろう静やかな夜の時刻。小さな灯を残して暗闇に沈む宿の廊下で、ゼシカは昼間に降り注いでいた陽の温もりを思い出す。
 水のせせらぎを消す人の声や城下に満ちる笑顔。瑞々しい飛沫のあがる大広場は、陽光に全てを煌かせていた。ゼシカは美しい景観と歓喜と幸福に溢れる人々の空間に埋もれ、束の間の平和を甘受していた。
 一通りの景色を思い巡らせた彼女は、大きな息をひとつ吐いて、次にゆっくりと言った。
「悲しくなくても涙は出るのね」
 人の笑顔に埋もれて自分も笑えればどんなにか良いだろう。
 こんなにも平和な街に「本当の平和があれば」と思う心はやはり自分が敵を追う旅をしているからか。不条理な死を受け容れ踏み越えてきた者の、世界とは隔てられた視点なのだろうか。
「人が亡くなっても泣かなくなったのに、ヘンな所で泣いちゃうのね」
 昼間に浴びた陽の温かさを思い出したゼシカは、緩んで潤む目元を紛らわせようと笑ってみせる。自分でもよく分からない不確かな、しかし切なく込み上げてくる想いを押さえようと失笑を交えて。
 細身の身体を縮ませてくつくつと笑う姿は泣いているよう。エイトはそんなゼシカを目の前にすると、冗談でかわそうとする彼女を制して言葉を返した。
……それは何でもない事じゃないよ」
「大した事じゃないわ」
 畳み掛けるようにゼシカが答えるが、エイトは真剣な面持ちになって首を振る。
「何でもない事に涙は出ないよ」
 エイトは俯きそうになるゼシカの瞳を確りと捉え、真っ直ぐに見つめて問うた。
「僕は弱い?」
「そんな事ないよ、」
 ゼシカはいつにないエイトの様子にやや緊張して咄嗟にそう返したが、事実彼を弱いと思ったことは一度もない。彼の身体能力や才能には一目置いているし、内心ではエイトの内面的な強さに男性としても憧れているほどで。
 そう笑顔で答えようとしたゼシカを、エイトは真面目な声で制する。
「じゃあ、お願い」
 彼の両手は自然とゼシカの細い肩を掴んでいた。
「僕の知らない所で泣かないで」
 
 
 
 
 
   君が泣くと悲しい。
   でも、知らない所で君が泣いているのはもっと悲しい。
 
 
 
 
 
 エイトは真っ直ぐな視線を注いで言った。
……
 これを聞いたゼシカは彼の優しさに胸が締められ、込み上げる想いと共に目尻より涙が溢れそうになったが、それでも泣くことは躊躇われた。
「エイトを困らせたくないの」
 特別な感情を抱いているエイトに対しては、よりによって自分の事で彼の心を煩わせたくはない。ゼシカは気丈を振舞ってそう言いたかったのだが、既に瞳に溜まった感情はいまにも零れ落ちそうで、彼女の声は震えていた。
「ゼシカにそんな苦労をかけたくない」
 エイトとてそんな健気な姿を見せられて動かぬ男ではない。彼はゼシカの頬に掌を添え、そっと親指で瞳を撫でて慰める。そうしてゆっくりと閉じられた彼女の瞼からは一筋の涙が頬を伝って流れ落ちた。
……泣き顔がブスだから泣かなかったのに」
 ゼシカは瞳を閉じたまま、口元に苦笑を交えて言ってみせる。柳眉を寄せて止まらぬ涙を堪える姿はいじらしく、エイトは温かい涙が頬を濡らす度に指でそっと拭ってやった。
「そんな事ないよ」
 寧ろ目の前で静かに泣くゼシカは、この胸にかき抱きたくなるほど。細身の彼女を懐に迎え、両腕で強く抱き締めたい。そう思いながら微笑を湛えていたエイトは、次にゼシカが叶ったように己に近付き、そっと頭を預けてきたことには緊張した。
「こうしたら見られないよね」
 ゼシカはエイトの胸元の服をギュッと握って肩口に顔を埋める。呟かれた言葉は己のすぐ首元に届けられ、成程彼女の顔は見えない。
……見ないよ」
 泣き顔を恥らう彼女が愛おしい。
 エイトは微笑してゼシカの頭に掌を添えると、更に引き寄せて包み隠した。
 ひんやりとした薄暗い宿の廊下で、ゼシカはとめどなく流れる涙を流れるままに溢れさせ、エイトの服にしっとりとその雫を滲ませた。
 
 
 
 
 
 
 
 翌朝。
 長らく滞在したサザンビークを後にして、一行は出立の日を迎える。
 城門の開錠時刻と同じくして街を出る為、広場のバザーこそ閉まってはいるが、この早朝からも鍛冶屋の鋼を打つ音は聞こえるし、水を汲みにくる職人の姿も垣間見える。エイト達も彼等に交じって井戸水を水筒へ入れ、準備を終えたところで城門を潜った。
「ゼシカ、」
 寝起きに彼女と合流した時、エイトはその眼が腫れてはいないかと心配していたのだが、スッキリとした表情で「おはよう」と微笑まれたのには少し驚いた。ゼシカは誰よりも溌剌と朝食を済ませ、寝呆け眼にパンを口に運ぶヤンガスとククールを窘めたくらいである。
 エイトはポケットの中をあさりながらゼシカに声を掛ける。彼女はまだ眠気の取れぬ二人の装備を整えてやっていた。
「ゼシカ。これ、つけてみて」
「何?」
 差し出されたものに反射的に手を出して受け取り、軽い感触を覚えたゼシカは掌に乗ったそれをまじまじと見つめた。
……指輪?」
 これまでに指輪は何回か填めたことがある。防具ほど頑強に守備力を補えはしないものの、気軽に身につけることのできるアクセサリの補助効力には幾度も助けられていた。
……あまり変わった気がしないわ」
 手や指を代えて何回か填めてみるが、魔力も腕力も変化した感覚がない。ゼシカは不思議そうにエイトの顔を見ると、彼は笑ってその姿を見つめていた。
「それはただの指輪だよ」
 ゼシカはこれまで戦闘に役立たないアクセサリ類を身につけたことがない。己を装飾するだけのそれは、普通の女性ならば溜息を吐いて憧れるようなものだが、ゼシカには左程興味をそそられるものではなかった。
「何の効力もないけど、綺麗だったから」
……
 ガラス玉のキラキラと輝くそれはバザーで出品されていたもので、とても高級とは言い難い。エイトは街中でこれを見つけ、何気なく手に取った時にふとゼシカを思い出していた……それだけのことだった。小さく光る可愛らしい指輪は、きっと彼女の細い指に似合うだろうと思っただけのことだった。
……
 ゼシカにとって装備品でも特殊アイテムでもない指輪というのは、フィアンセより贈られた指輪のそれしか思い当たるものはない。当の本人に結婚の意志がなかったことで一度も箱から出されたことはなかったが、男性より贈られる指輪とは「そういうものだ」と認識している。
 ゼシカはやや頬を赤らめて、第一希望である左手の薬指に填めてみようと試みたが、どうも大きさが合わないらしい。第二希望の右手のそれにも通してみたが同じだった。
「これ、中指にしか合わないじゃない!」
 ゼシカはプッと頬を膨らませて詰った。
 ようやく馴染んだのが中指。ゼシカはピッタリと真ん中に収まった指輪を見てガックリと項垂れると、恨めしそうにエイトを睨んだが、上目に見つめられたエイトの方は照れながらも彼女を宥める。
「じゃあ、薬指にするやつは、今度一緒に選ぼう」
 エイトは恥ずかしそうに言った。
 ゼシカが薬指に付けていたい気持ちも理解るし、自分とて彼女の薬指を占領できれば良いことこの上ない。しかし婚約者でも恋人同士でもない二人にとっては、薬指のすぐ隣、中指くらいの距離で丁度良いのかもしれない。
 エイトは頭を掻きながらはにかむと、ゼシカはその答えに満足したのか中指に居場所を見つけた指輪を愛おしそうに見つめて言った。
……壊さないようにしなくちゃね」
 魔力を回復する祈りの指輪などは、ゼシカ一人で数回壊した記憶がある。
 そんな冗談を含めて彼女は笑ったが、少し泣きそうになったことは隠しておく。彼女は朗らかな笑顔をエイトに注ぎながら、郊外で待つトロデ王の下へと走っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 この後、一行はチャゴス王子の儀式に付き合って
王家の山に行くことになるんだと思いますが、
エイトはこの際に大量収穫したアルゴンハートで
「薬指にするやつ」を作ってくれたと思います。
そうやって自然とサザンビーク王家に則ってしまうのは
天然……、というか血脈の成せる業ということで(笑)。
 
 
 
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