HERO × JESSICA |
|
※この文章は、暗号解読をするかJavaScriptを解除して、コピーを図った場合に表示されます。
このページは、小説の無断転写や二次加工を防ぐために、マウスコマンド制御やソースの暗号化などを設定しています。というのも、管理人は小説をweb公開しておりますが、著作権の放棄はしておらず、パクられるのがイヤだからです。管理人の主旨をご理解のうえ、小説は当サイト内でのみお楽しみくださるようお願い致します。 |
|
|
|
|
|
あかいいと
世界がこんなに雪で埋もれてしまったら何もできやしないと思っていたのに、やらなきゃいけない事は意外にも沢山あるものだと、メディさんの暮らしを見てつくづく思った。
僕達はお世話になった彼女の少しでも役に立つために、納屋に集めた薪を割ったり、屋根の雪降ろしをしたり、暖炉に積もる灰を運んだりした。ククールは寒さに弱いのかほとんど動かないし、僕もヤンガスも何かにつけて手が悴んで大変だ。これを一人でしていたなんて、メディさんは本当に凄いと思う。居心地が良いからと言って此処にあまり長居は出来ないけれど、出来ることなら少しでも彼女が楽に冬を過ごせるよう助けになりたい。
だから家の中で気付いたことは直ぐにやるようにしてるし、今は臍の甘くなった椅子を直していて、それが終われば鞣(なめ)した鹿皮を町まで運びに行くことになっていた。
「エイト、どんな感じ?」
「そろそろ終わるよ」
ゼシカはと言えば、手伝いに関しては彼女が一番役に立っているみたいで、メディさんに生活の知恵を教わりながら色んな家事の手助けをしている。今も二人は一緒に暖炉の前で編み物をしていて、何か長いものを作っていた。途中、メディさんに何やら聞きながら針を動かしていたのは知っていて、床に転がる赤い毛玉を、うたた寝していたバフがチラと見やるのが可笑しかった。
「もうちょっと待って、ほら」
「なに?」
椅子の傾きを確認する僕の傍に、ゼシカが駆け寄ってくる。
「外に行くんだから、あったかくしなきゃ」
そう言って彼女が僕の首にかけたのは、丁度編んでいた赤いもの。僕の首をぐるっと一周して、毛糸の温かさに触れたところでようやくそれがマフラーだということに気付いた。
「僕の?」
「そうよ」
マフラーに手をかけたままのゼシカがニッコリと笑って、僕の胸が密かに弾む。慌てて彼女から視線を外せば、同じくニッコリと笑ったメディさんの笑顔が映って、僕は更に恥ずかしくなった。それ故にか僕は咄嗟に感謝の言葉も言えなくて、首を巡りながらも床についた端に気付くと、誤魔化すように口を開く。
「な、なんか長くない?」
「これで良いのよ」
そう言ってゼシカは僕の首にもう一回、マフラーを巻いた。冷気を拒むよう幅のある作りに仕上げられたそれは僕の首どころか口元まで覆ってしまって、成程これなら寒くないと思う。暖炉の炎のような赤い色も温かいし、ホワイトアウトの雪の中で遭難しても、これが目印になればきっと見つかりやすい。
僕はそう納得して目の前のゼシカを見たら、彼女の手に残るマフラーはまだ余ってて、二重どころか三重巻きにしても十分な長さがある。
「まだ長くない?」
「うん」
これじゃ僕は首どころか頭や肩までグルグル巻きになってしまう。それは温かいどころか動きにくくてどうなんだろう、若しか僕はまたゼシカに揶揄われているんじゃないかと思った時、彼女がぐるぐると回っているのに気付いた。
「ゼシカ?」
「ほら、ピッタリ!」
一瞬のうちにゼシカの顔が急接近した。
「わっ」
見れば彼女の首には僕の巻いたマフラーが巻かれていて、僕とゼシカが一本のこれで繋がれている。ゼシカもまた勢い良く回って二重にしたものだから、僕との距離はこれまでにない近さになった。
「あったかい?」
「あ、あったかいって、」
温かいどころじゃないよ。視界いっぱいにゼシカに微笑まれ、僕の身体は薪をくべたように熱くなっていく。彼女と同じもので繋がっていると思うと、僕より正直な心臓がドキドキと緊張していくのが理解った。
「上出来、上出来」
暖炉の傍ではメディさんがマフラーの仕上がりを褒めてくれて、ゼシカはとても嬉しそうに笑っている。先程の会話では彼女が編み物をするのは初めてだったということだから、満足のいく仕上がりになって喜びも一入だろうけど、これは僕もお祝いしてあげたらいいのかな。
「赤いのが良かったのかい?」
「そうなの」
メディさんは糸を替えながらセーターの袖を作っているらしく、全てを赤い毛糸で編んだゼシカに首を傾げながら尋ねた。(後から判明したことだけど、その時彼女が作っていたのは僕等の分だった)尋ねられたゼシカの方は、これに太陽みたいな笑顔で答える。
「赤い糸は切れないように、太く、長くしなくちゃ!」
「あぁ、そうだねぇ」
聞いてメディさんはニコニコと微笑んだ。
一方、ゼシカの言葉に僕はいよいよ赤くなって、マフラーと同じ色に染まりそうになる。運命の恋人は見えない赤い糸で結ばれているって聞いたことがあるけれど、彼女はこんなにハッキリとした太い糸で僕を結んでくれるというのか。
降り積もる雪が解けそうなほど温かい微笑みを見せるゼシカにメディさんも朗らかに笑って、自分の作りかけを膝に置くと手招きして言う。
「おいで。フリンジを付けてあげるよ」
「本当? ありがとう!」
聞いてパッと花顔を綻ばせたゼシカがメディさんの所に戻ろうとして、僕の首が引っ張られた。
「ぐえっ、」
「あっ、ごめん!」
息が止まりそうになった僕にゼシカが慌てて、それを見たメディさんが声を出して笑う。
「二人共、ゆっくりおいで」
外は身も凍るほど寒いのに、メディさんのにこやかな顔が温かくて、マフラーが暖かくて、僕はなんだかとても幸せな気分になってしまった。
|
|
【あとがき】 |
|
見えないより、見えたほうがずっといい。
|
○ |
○ |
○ |
○ |
|
|
|
|
|