HERO × JESSICA |
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ゼシカの攻撃を庇って受けた。それが喧嘩の発端だった。
「どうして盾になろうとするの!」
患部は肩口。鮮血に染まったシャツを裂いて止血し、反対の手でホイミをかけていたところにゼシカがやって来る。
僕の返り血を浴びたゼシカは、頬にその斑点をつけたままツカツカと近付いてきて、不満を通り越した怒りの表情で僕を見つめてきた。
「いつもそうやって傷ついて!」
「僕はゼシカを傷つけたくない」
本気でそう言っていたのに。
「私を傷つけているのはエイトの方だわ!」
ゼシカを酷く怒らせていた。その時は、彼女の怒りの意味が理解らなかったんだ。
されど、二人。
鬱陶しい雨の日が続いた。雨粒の川をつくる窓を覗けば鈍色の空が街を覆っていて、霧がかった上空に数羽の烏がぼんやりと見える。耳にはサアァァ……という雨音が常に鼓膜を震わせて、その合間に聞こえる己の溜息にもいい加減滅入ってくる。
「……」
仲直りしろよ、とククールに言われたのが一昨日。情報収集なら二人で出来ると、彼はヤンガスを連れて今日も宿屋を出て行った。僕はといえば隣の部屋に居るゼシカの気配を感じつつ、こうして何をするわけでもなくベッドに寝転がっていたりする。
数日前に僕はゼシカを怒らせて、嫌われたのか口をきいて貰えなくなった。
(これって「喧嘩」なんだろうか)
だとしたら、僕は初めて誰かと喧嘩をした。
幼い頃、ミーティア姫にお付き添いしていた時には姫が機嫌を損ねることはあったが、それも子供の一時の感情だ。姫はすぐに忘れて僕についてきたし、城では誰かと諍いを起こしたことはなかった。ヤンガスとは勿論仲が良いし、ククールだって意見を違えることはあっても僕と口論したりはしない。
そう、僕は初めてこんな思いを体験している。
(喧嘩って、もっと単純なものかと思ってた)
どちらかが悪くて、片方が謝れば解決するものだと思っていた。もしくは両方が互いの非を認めてしまえば修復できるだろうと。
しかし今のはそうじゃない。僕が悪ければ謝るけど、そうじゃない気がするんだ。だから隣の部屋に居る彼女に謝りにも行けないし、実のところ、どうして良いかさえ分からないでいる。
「……」
そんな事を考えながら、僕はベッドに仰向けになっていた。
すると部屋の扉が数回ノックされて、ゼシカが僕の名前を呼ぶ声が届く。彼女は淡々とした声で「いいかしら」とだけ言って、部屋に入るわけでもなく扉越しに佇んで言った。
「ねぇエイト。私は皆の仲間じゃないのかしら」
ベッドより起き上がって扉に近付く。それでもドアノブに手はかからなかった。
「仲間だよ」
今更の質問に、僕は当然そう答える。
扉を挟んで会話をするのは初めてだ。声だけが向こうに届く。
「ゼシカは僕達の仲間に決まってる」
「じゃあ私に優しくしないで」
強めの口調に僕は意図を測りかねた。戸惑いに言葉を失うと、ゼシカは扉のすぐ傍で僕に語りかけてくる。
「皆と戦っているのに私だけエイトに庇われて、そんなにお金がないのに防具だって真っ先に私のものが優先されるし、回復だって軽くても私が一番、それにこの前だって…………」
「……」
ここまで聞いて僕はようやくゼシカの気持ちに気付いた。彼女の疎外感は僕が作り出していた。先日彼女が言った通り、僕はゼシカを傷つけていたんだ。
「これ以上、私を甘やかさないで」
人一倍努力をする彼女だ。自分だけそのような扱いをされるのは嫌なんだろう。
でも、僕にだって言い分はある。
「君は仲間だよ。でも、僕達と違って女の子だ」
「女だからって特別扱いされるのは嫌よ」
実は密かに、トロデ王は婚約を解消したゼシカの貰い手を心配されている。この冒険で彼女に取り返しのつかない傷がついたとしたら、一時の預かり主として彼女の母親に申し訳がつかないと仰る。僕もその意見には賛成だ。
いやそれ以上に。
「ゼシカ。君は女の子だし、それに僕にとって大切な女性なんだ」
君が傷つくなんて考えられない。それならば僕が背負う。
彼女の顔の見えない扉越しだから言えるのか。僕はこんな事言った例がないし、ずっと隠しておこうと思っていたけど、今のゼシカにはどうしても言いたかったんだ。
「僕は譲れないよ」
君を庇ったことについては謝れない。僕は君を守りたいという信念でそうしたのだから。
「私だって!」
そう言うとゼシカは扉を開けて僕の前に姿を見せた。真剣な瞳が複雑な感情を伴って僕めがけて一直線に飛び込んでくる。突然音を立てて開かれたドアに驚いた僕は、次のゼシカの言葉に更に驚かされた。
「私だって……エイトを守りたいのよ」
「ゼシカ、」
君が僕を守るって。確かに君は強いけれど……僕は男だよ?
「私だってエイトを傷つけたくないんだから!!」
自分のせいで傷ついて欲しくない。そんな思いを背負わせたくない。ゼシカはそう言って僕に訴えた。
「……それって、」
結局は僕と同じ感情。だから彼女も譲れない。
相手に傷ついて欲しくなくて、お互いがお互いを守ろうとして。抱く想いは一緒なのに、どうして僕達は上手にすれ違って喧嘩をした。なんだか肩透かしを喰らったようで、自嘲さえ込みあがる。
「「……ごめん」」
結果。僕達はよく分からないまま、いつの間にか互いに謝っていた。
僕達は宿屋のロビーでククールとヤンガスの帰りを待った。この数日間、重苦しい雰囲気を一番感じていたのは彼等だろう。何となくそんな後ろめたさもあって、僕とゼシカは敢えてロビーで待つことにした。
「二人きりだね」
日中の宿屋に客は殆んど居ない。雨続きだからもっと客が居てもおかしくないと思うのだが、小さな宿屋はガランとしている。
僕は細かな雨粒を降らす雲を窓より見やって、そう言っていた。
「そうね……二人ぼっちだね」
これに対するゼシカの返事は変わっていて、見れば僕と一緒の窓を見たきりぼうっとしている。「ぼっち」という言葉は、一人の時にしか使わないんじゃないか。
僕はそう思って彼女の横顔に問いかける。
「もしかして寂しい?」
確かに今はククールとヤンガスが街に出ていて、二人でいる状態が寂しいかもしれない。でも、僕が傍に居るのに「寂しい」と口にされるのは僕が寂しい。
「ううん。ちょっと悲しい」
ゼシカは小さな声で僕に答えた。
「エイトと……こんな風にしたいわけじゃないの」
「……僕だって、そうだよ」
喧嘩をした僕達は、それぞれの本音を言い合って逆に心が近くなった気がする。でも、やっぱりよそよそしくなってしまうのは仕方ない。
「……」
「……」
今回の件で理解ったのは、僕達はお互いに相手を大切にしているということ。僕は君が好きで、そして君も、僕の事が。
「……」
「……」
喧嘩をして初めて気付いた。喧嘩は誰とでも出来るものじゃない。心が近いからこそぶつかって、それからまた近くなるんだ。
「ねぇゼシカ」
僕はなんだか沢山の事を君に教えて貰ったような気がする。
「4人になるまで、また元の“仲良し”に戻ろうよ」
僕はそう言って、あまり得意ではない笑顔をゼシカに見せていた。彼女がつられて笑顔になることを期待して。
「……うん」
窓より視線を移したゼシカの瞳が僕のそれと合わさる。彼女の手が僕の前に差し出されて、握手を促す。
外の雨音がやけに五月蝿く耳に聞こえた。
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【あとがき】 |
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両思いなのに喧嘩した時って、ドキドキしてて逆によそよそしい。
第三者から見ればラブラブに見えるんですけど、
本人達は意外にも二の足を踏んでいたりするものです。
そんな感じを出したかったのですが、ダメでした。がくり。
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