HERO
 
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JESSICA
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イイカンジ。
 
 
 
 童顔だとか、線が細いとか。
 僕が外見的に言われることは結構あって、特に今まではそれを気にはしていなかったけれど、歩けば誰もが振り向くような美人の彼女の隣に定位置を置くようになってからは、そういうことにも敏感になってきた。
「ゼシカは高い靴履かないんだね」
「高いって、ヒールのこと?」
「うん」
 ヒールって言うのか。知らなかった。
 やや言葉足らずの僕の質問を微笑して受け止めるゼシカ。因みに彼女の機嫌が良いのは、久しぶりに街に出かけて買い出しが出来たからだけじゃない。昨日、僕が人前で手を繋いで歩くのをOKしてからというもの、ゼシカはずっと笑顔だ。
 彼女は喜色満面で僕の手を取り、もう片方の手は財布を握りしめている。僕は少し引っ張られるようなその手に足を躓かせぬよう、溢れんばかりの紙袋を反対の手に抱えながら歩いていた。時折紙袋に乗せただけの野菜が零れ落ちそうになるのを入れ直してくれる、そんな上機嫌のゼシカは周囲の視線に気付いているだろうか。
 顔立ちやスタイルが良いのは誰もが認めるところだろうけど、彼女が凄いのはもっと他にある。自惚れや贔屓目に見なくとも、ゼシカには何処か輝くようなオーラがあって、自然と人を惹き付けるんだ。だから今、僕達は「ただの買い出し」の筈が街角美人の御幸のような勢いで中央通りを歩くことになっている。
 多分、いや、確実に今の僕とゼシカは目立っていた。
「エイトはハイヒールが好きなの?」
「いや、そうじゃないけど」
「履いて欲しい?」
「ううん、そういうのじゃなくて」
「まさか踏んで欲しいとか言わない?」
「どういう意味、」
 こんな会話、すれ違う人に聞かれていたらどうするんだ。
 蠱惑的で探るような瞳が注がれて焦った僕は、目を泳がせた後で改めて彼女の足元を見た。
「ゼシカが踵の高い靴を履かないのは、僕の所為?」
「え?」
 歩きながら自然に話題を振ったつもりだったけど、実は聞きにくい話。
「履くと僕より背が高くなるから、遠慮してるのかなと思って」
 見た目の良い君の隣に居ると、今までは気にも留めなかった事が途端に気になり出す。
「、まさか」
 ゼシカは初めて気付いたという表情で僕を見るけど、それは本当らしい。彼女は旅すがら歩きやすい皮のブーツを履いていて、それを好んでいるようだった。
 それでも僕は靴だけの問題じゃないような気がして、遂に本当に聞きたい事を聞いてしまう。
「ゼシカは、その、背が高い男の方が良い?」
 君が僕を選んでくれた事はとても嬉しかった。だけど同時に不安になる。
 本当はゼシカが言わないだけで、もしかしたら僕は君の望んだ相手とはかけ離れているかもしれない。君を満足させられるような男じゃないかもしれない。隣に相応しくないかもしれない。
 周囲の視線を集めて輝く彼女を見る度に気がかりになる僕。背はそれほど高くないとは自覚していたけれど、眩いゼシカの隣に居る者としてはやっぱり足りないんじゃないか。
「うーん、」
 そうして僕はどんな顔をして彼女を見つめていたのだろう。ゼシカは僕の質問にキョトンとした可愛らしい瞳で受け止めると、その後綻ぶように柔らかく微笑して口を開いた。
「これくらいが丁度かしら」
 ゼシカは繋いでいた僕の手を離し、そうして真向かった僕の頭に手をやると、自分の身長と比べるようにその手を水平にして翳す。
 確かめるように「うん」と頷いて納得の表情を浮かべた後は、悪戯な笑みを浮かべて言っていた。
「だって便利じゃない」
 ほっぺを、むに。
 買い物袋を抱える僕が抵抗できないのを知ってか、ゼシカは僕の頬を摘んで広げてみせる。
「ゼシカ、」
 なんだか揶揄れた気になって僕が詰ろうとしたその時、
「こうしやすいでしょ?」
 ちゅ。
 僕と同じ目線の彼女は、あろうことか中央通りのど真ん中で僕にキスをした。
「ちょっ、ゼシ――」
「それに、ここにも届くし」
 ちゅ。
 もう一回、今度は額にキス。
 ほんの少しだけ背伸びをして踵を上げたゼシカは、先程まで抓っていた僕の頬に優しく触れながら、軽い音を立てて唇を落としていく。
 僕は慌てて買い物袋の陰に火照った顔を隠してしまったけれど、周りの人達に見られてるのは間違いない。それでもゼシカは気にしない様子で、戸惑う僕の表情をも楽しむように覗き込んでくる。こういう小悪魔みないな所が好きな僕もどうかしてると思うけど。
「ね?」
 僕の本当の気持ちは解決したのかはぐらかされたのか理解らない。
 でも、なんとなく嬉しい気持ちになった僕は、陰の隙間から少しだけ顔を出して彼女を見やって頷いた。
……うん」
 あんまり大きな声じゃ言えないけど、ゼシカの言うように僕達はこれで丁度いいのかもしれない。
 積極的な君に振り回されて、顔を赤くしたり青くしたりする僕を見て微笑む君は可愛いし、何せ僕自身が翻弄されるのも悪くないって思ってる。そう、僕はきっとゼシカに捕らわれやすい位置に居るのがいいみたいなんだ。
 僕が心の中で結論を出していると、ゼシカは僕の胸を締めるような飛び切りの笑顔を見せて満足そうに言った。
「ほら、いい感じ」
 再び手が繋がれる。
 ゼシカは自分でも反芻するかのように優しい声で言いながら、今日の買い物を締めるべくカフェテラスへと僕の手を引いていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 イイカンジ。
ポ○モンのコジ&ムサ見てて思いついたネタです。
あの二人は最後ヤナカンジー! になっちゃうんですけど。
(コジムサも好きだなぁ)
 
 
 
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