HERO × JESSICA |
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きみというひと
パヴァン王の一件に関わってからというもの、僕達は結構有名になってしまって、特にアスカンタ地方では宿も格安で泊まることが出来たし、武器屋でモノが手に入らないということはなくなった。
王様が仰ることには、名声に助けられることもあれば、それによって縛られることもあるらしく、僕は余所者を受け入れない村や町に入るのに「勇者様」と言われ迎えられることは確かに便利だと思ったけど、その後の接待染みた歓迎ぶりには、確かにその通りだと思った。
「元山賊が村長の家で酒に預かるとは思いもしやせんでした」
「破戒僧もな」
寧ろ僕達は、共通した仇敵を追う殺伐とした旅人で、勇者ご一行でも何でもない。
正直、ドルマゲスの行方を探る僕達の足を止めるような村の厄介事を相談されはしないかと、僕は内心ヒヤヒヤしながら村長の豪快な笑顔に合わせて笑っていた。
「本日の宿はお決まりで? ですって」
「あのまま村長の家に世話になってたら、今夜のベッドと一緒に自慢の一人娘も差し出されていただろうな」
「勇者様に?」
「エイトが断らなければ俺が貰ってたぜ」
先程まで麗顔の騎士を演じていたククールが、普段の彼に戻って言うのに思わず苦笑いが零れる。
村長の親切を断って、僕達はこの村に一軒しかないという宿屋を紹介してもらい、そこに泊まることにした。そして今は宿の主人が開いているという古い酒場で簡単な食事にありついているけれど、いつものように旅の予定を話し合う雰囲気にはなれない。
「ヤンガスの言う“若い娘さん達”、さっきから窓に張り付いて帰らないわね」
ゼシカはパンを割ったテーブルに肘をつきながら、自身の細顎を乗せて流し目に窓の外を見やる。
「酒場に堂々と入るのはゼシカの嬢ちゃんくらいでがす」
「ゲルダさんだってそうでしょ」
「あいつは別でさぁ、」
僕はゼシカとヤンガスの会話に苦笑しながら、同じく彼女達の方を見た。キャーという声が挙がってヒソヒソ話をしている様子は、一体何なんだろうと思う。
「ククール、あんた行ってきなさいよ」
「俺?」
ゼシカが赤ワインを傾けながら言うと、丁度給仕の女の子と話していたククールが振り向いて答えた。
「本日の生贄でげす」
「そうね」
「まじかよ」
視線を集めるククールが出て行けば、女の子達も満足するかもしれない。そうすれば僕達は平穏に宿へと向かえるのだから、確かに彼は「生贄」に違いなかった。
「感謝してくれよ? 勇者ご一行さま」
「明日の戦闘で使えなかったら許さない」
「酷ェ、」
それでもククールは満更でない様子で、軽やかに席を立って窓辺に微笑を注ぐ。浮ついたような黄色い声が聞こえるなか、彼は外へと出て行った。
「ほとぼりが冷めたら、裏から出ましょう」
「そうだね」
ゼシカが裏口に目をやって僕に言うと、ヤンガスが苦笑いして続ける。
「アッシはもう一杯楽しんでから戻りやす」
「うん。分かった」
村長の家といい、余程酒を飲む空気じゃなかったから、僕は彼に同情も込めて頷く。
周囲が落ち着いた頃を見計らって、僕とゼシカはこっそりと酒場を後にした。
宿に戻ってから、ゼシカと二人で旅の予定を話し合う。
いつものメンバーが二人も欠けているけれど、明日の朝にでも此処を発つ予定では、どうしても道具類の調達を決めておきたかった。
「お金の余裕も出てきたし、薬草のストックを増やしておこうか」
「いいわよ、歩く薬草が居るんだから。次はエイトの武器を新しくして」
「僕はいいよ、」
「一番使い込んでるじゃない。敵も強くなるんだし、我慢しないで」
今の力量に耐えうる武器でないことは分かっている。これまでゼシカには何度も言われていた事だけど、どうしても踏ん切りつかないというのが本音だった。
「トロデ王に言われないと、買い替えそうにないわね」
ゼシカはこんな僕の事を頑固だと言う。そんなつもりはないけれど、君がそうして溜息をつきながらも連いてきてくれるのは正直嬉しい。
「もう。エイトは私の意見も素直に聞くべきよ」
心配してるんだからと、彼女はやや責めるような上目遣いで僕を見た。労わるような優しい眼差しに、僕は戸惑って目を泳がせる。
不意に注がれた彼女の視線に「はい」も「いいえ」も失った時、部屋のドアがコンコンと叩かれた。
「勇者さまのお部屋はこちらですか?」
若い女性の声に僕はビックリした。
こんな時間に僕を訪ねてくるなんて、余程困っている人だと思うけど、ここは教会でもなければ僕だって神父じゃない。まさかククールが何かしたのではないかと、背筋に冷たいものが走る。
「な、なんだろ……」
魔物退治か夫婦喧嘩の仲裁か、色々と考えを巡らせてゼシカに目で問うてみれば、ゼシカは更にビックリするような鋭い表情に変わっていた。
「ゼ、ゼシカ?」
一体どうしたというのだろう。
テーブルを隔てて正面に座っていた彼女は、物凄い視線を扉に投げかけている。
「どうし……ゼ、ゼシカ!?」
ゼシカは無言のまま立ち上がると、急いで服を脱ぎ始めていた。お気に入りだという上着も、スカートも床に脱ぎ捨て、僕の前で下着姿を見せている。あまりの出来事に状況の掴めない僕は、この前手に入れたガーターベルトは、そんな風に使うものなのかと、わけの分からない感想を浮かべていた。
そうして絶句する僕の前に近寄ったゼシカは、次に僕のベルトに手を掛ける。
「ちょ、……ちょっ、ゼシカ、」
「いいから」
「いいから、って……良くないよ!」
もう本気で何が何だか分からない。
彼女の白い手が僕のベルトをしゅるしゅると解いて、あっというまに僕の上着を剥ぐ。
「勇者さま?」
そうしている間にも、扉の奥の女性の声は不思議そうにノックして、僕はますます混乱した。
「ちょ、ちょっと待って!」
目の前のゼシカに言っているのか、部屋の訪ね人に言っているのか。僕は大きな声で訴える。
すると僕のシャツの紐をばらしたところでゼシカは扉に振り返り、折角の綺麗な髪をクシャクシャと掻きあげながら、あろうことか、ドアを開けた。
「ごめんなさい、何?」
ビックリしたのは僕も、そして扉の奥の女性も同じだった。
彼女にとっては、乱れた下着姿のゼシカの向こうに、同じく服装を乱した僕が居たのだから、その驚きは相当だと思う。ゼシカを間に僕と彼女は目が合ってしまって、ますます言葉を失った。
「そう。ありがとう」
ゼシカは涼しい声で、そんな彼女と2、3言の会話を交わした後、何事もなかった表情で僕の前に戻ってきた。
「エイト、“お忘れ物”だって」
言った瞬間、掌に乗っていたトーポはすぐさま地面に降りてどこかへ走っていったけれど、僕はトーポの行方を追うより、ゼシカのあられもない姿に釘付けになっていた。
「ゼシカ、あの人勘違いしたよ」
ようやく言葉が出る。声が裏返ってなかったのがせめてもの救いだった。
「すればいいのよ」
「そんな、」
「あの人がこうなりたかったんだから」
きみという人は、そういう事をしれっと言うのか。
「鈍感ね。狙われてるのはククールだけじゃないって話よ」
この場合、僕はゼシカにお礼の言葉でも言うべきなのだろうか。
確かに僕一人では、夜分にトーポを送り届けてくれた彼女をそのまま帰す言葉も見つからず、困り果てたに違いない。けれど、こんなにもゼシカに身体を張って守られる僕って何なんだろう。
この時、僕はちょっとでも複雑な顔をしていたのか。ゼシカは僕の顔を覗くと、困ったように微笑して続けた。
「勘違いしないで。エイトを守りたかったわけじゃない」
「、どういう――」
男の貞操を気に掛ける程、彼女も子供じゃない。
「私がイヤだっただけだもの」
「ゼシカ」
そう言ってはにかむ姿に胸が締められる。君は、君という女性(ひと)は、僕がどれだけ努力しても言えそうにないことを、そんな笑顔で言えるのか。
「でもちょっとやり過ぎたかしら」
何事もなかったように髪を梳き、結い直している彼女を正面に見つめながら、僕は暫くの無言の後に口を開いた。
「ゼシカ」
僕の目線に気付いたのか、首を傾げて髪を結っていたゼシカは、不思議そうな視線を僕に注ぎ返す。
「あのさ、」
「? 何?」
「もうちょっと見てていいかな」
君のそんな姿、なかなか見られるものじゃない。
僕の目線に気付いたのか、ゼシカは白く柔らかそうな胸元の谷間に瞳を落とし、そこでようやく恥ずかしそうに手で隠した。
「エイトのバカ」
うっすらと赤みを挿した頬に乗る表情は、なにより綺麗だった。
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【あとがき】 |
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彼女ならこういう芸当もできるんじゃないかと。
皆さんのゼシカとイメージが違ったらごめんなさい。
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