HERO × JESSICA |
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まるで、それはまるで。
まるで
朝、ゼシカに叩き起こされた。
「エイト! 起きて!」
僕の身体にくるまっている布団を、毟り取るように剥いでゼシカは言った。ベッドの上で一回転した僕は、何事かと目蓋を開けて彼女を見たけど、別に怒っているというわけでもないらしい。
「いいお天気だから干したいの。早く起きて」
見れば部屋に寝ていたのは僕だけで、ヤンガスのベッドも、寝坊の筈のククールのベッドもきれいになっている。
「二人の布団はもう干しちゃったわ」
あぁ、そうか。
ヤンガスは昔馴染みから情報を集めに行ったきりだし、ククールは(多分)朝帰りだからベッドが空いていたんだろう。別に僕が寝坊をした訳じゃなくて、此処に寝ていたのは最初から僕だけだったんだと、寝覚めの冴えない思考でそう考えていた。
「昼から曇ってきそうだから、早めに干しておかないと」
「う、うん」
出窓から身を乗り出し、布団を広げて並べる彼女の手際良い様子を見て、僕は慣れたものだとしみじみと思った。
パルミドに滞在してもう二週間になる。
船の調達に関しては相変わらず手掛かりが掴めないままで、ヤンガスの言う「情報屋」というのがいつ戻るか分からない以上、情報集めにも本腰を入れないといけない状態だった。僕は昨日、パルミドの古書屋で何か資料はないかと探したけれど、エッチな本の山に隠れていたのはうさん臭い賭博誌で、「パルミドカジノ必勝法!」と書かれたそれに、僕は溜息しか出なかった。
そうして焦れる間にも日はどんどん経っていて、仮宿として借りたこの家にも随分と慣れてしまった。布団を叩くゼシカが妙に馴染んでいるのも、此処での生活にが溶け込んでしまったからだろう。本当は名家のお嬢様なのに、パルミドでの生活が板についたなんて、彼女の母親には言えやしない。
「あ、エイト。忘れていたわ」
ボーッとそんな事を考えていたのか、ゼシカはベッド脇に突っ立っていた僕に振り返ると、キョトンとした顔の僕に言葉を投げかけてきた。
「おはよう。いい朝ね」
窓辺に降り注ぐ朝の光を浴びて、ゼシカが柔らかく微笑む。
「お、はよう」
その笑顔があまりに眩しくて言葉を失っていると、ゼシカは更に破顔して「まだ寝ぼけてる?」と言った。
「きのこシチュー。おばさんに教えて貰ったの」
僕が着替えて階下へ向かうと、空腹を感じさせる香ばしい匂いがした。
見ればエプロンをつけたゼシカが、湯気の立つ鍋をかき混ぜている。そういえば先程のゼシカが特別に見えたのも、このエプロンの所為だった。
本当はお嬢様なのに、こんな生活感に溢れたことは不釣合いだろうに、エプロンを着けて腕をまくったゼシカは本当に、かわいい、というか愛らしい。
「今度、山菜を採ってきてくれるって」
「おばさんにはお世話になりっぱなしだね」
「本当。何か私達にもできることがあればいいんだけど」
シチューを皿に注ぐ彼女の隣で、僕はパンを小切りにする。
ヤンガスを古くから知るという隣の家のおばさんは、僕達に快くこの家を貸してくれたばかりか、何かと世話を焼いてくれる。数年前に一攫千金を夢見て旅に出た息子と僕が同じくらいの年齢だって言ってたけど、そんな理由でこんなにも親切にしてくれるおばさんに、僕は頭が上がらない。
早く手掛かりを見つけて旅を再開しなくちゃいけないのに、こんないい人が居ると足に根が付きそうになる。僕は何となく後ろめたい気持ちになりながら、今日もこの入り組んだ町の中で情報を集めて走らないといけないと思った。
「今日は酔いどれ横丁のあたりを探してみる」
「ヤンガスが危ないって言ってた所ね。大丈夫?」
「僕は男だよ」
「心配してるの」
ちょっとした言葉にドキッとする。
「待っている方が気が気でないのよ」
僕に背を向けて、作業をしながら言った言葉。彼女の感情が読めなくて、僕はパンを口に放り込む。
ゼシカは最近になって待機役になった。
彼女がこの町でやたら変な視線を集めるので、なるべく出歩かないようにと僕が言っている。一度誘拐されそうになったことがあったからだ。
「それに、やること一杯あるし」
行動派のゼシカが、文句も言わずに家に居てくれるのは有難い。最近になって「待つのは嫌じゃない」と言ってくれるのは、僕は嬉しかった。何故って、帰った時に君が居ると妙に心が躍って、面映くて、なんというか、その、まるで。
「洗濯物は葦籠に入れておいてね。あなたのは分かるけど、ヤンガスのはどれが汚れ物か分からないわ」
「うん。分かった」
「あと、繕いものがあったでしょ? あれも出しておいてね」
「ありがとう」
エプロンの裾で手を拭きながら、ゼシカは振り返って言った。
「それに、遅くなったらメラミ」
「わ、分かったよ」
僕は食器を片付けて、持ち物を点検して、そして玄関へ向かう。
テーブルを拭きながら言葉を掛けてくるゼシカに照れながら、僕は「行ってきます」と言おうとした。
するとゼシカがエプロンを外して、扉を開けようとする僕を制するように走ってくる。
「エイト」
何か言い忘れたのだろうか。それとも帰りに調達してくる食材のメモでも渡されるのだろうか。
彼女が何を言うのかと僕が待っていると、ゼシカはにっこりと笑って僕を見つめてきた。
「なんかさ、私達、まるで新婚さんみたい」
「っ、」
どうしてそんな笑顔で言えるのか、僕は不覚にも熱が上がってしまった。
僕だってそう思っていた。君がまるで、まるで僕の奥さんみたいで、すごく温かくて恥ずかしくて。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
そうして僕がビックリしていると、ゼシカは追い討ちをかけるように僕の右頬のチュッと唇を落として笑った。
「う、うん。行ってきます」
「遅くなったらマダンテだからねー」
返事も半ばに、まるで逃げるように玄関を駆け出した僕の背に、ゼシカは声を掛けて見送ってくれる。
きっと手を振っているんだろう、ご近所の人達の目線にむず痒くなった僕は、彼女の「おしおき」がメラミからマダンテに変わっていることにも気付かず、澄み渡る空の下を飛ぶように走って行った。
早く帰ってこなければ、と心に誓って。
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【あとがき】 |
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このエイトは、
どうせなら明日の朝は、キスで起こして欲しいなぁとか
そんな事を考えながら走っていったと思います。
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