HERO
 
×
 
JESSICA
※この文章は、暗号解読をするかJavaScriptを解除して、コピーを図った場合に表示されます。
このページは、小説の無断転写や二次加工を防ぐために、マウスコマンド制御やソースの暗号化などを設定しています。というのも、管理人は小説をweb公開しておりますが、著作権の放棄はしておらず、パクられるのがイヤだからです。管理人の主旨をご理解のうえ、小説は当サイト内でのみお楽しみくださるようお願い致します。
 
「髪切るよー」
 透き通る小川に足を浸していた僕が、鋏を持ちながらそう言うと、同じく長旅の疲れを癒していたククールとヤンガスが一目散に逃げていった。
「ククールは髪長すぎると思うんだけど」
「俺は伸ばしてるからいいんだよ」
 裾を膝までたくし上げたククールが、言い訳をしながら上流へと逃げていく。皮のブーツが濡れないように抱えて走る姿は、麗わしの騎士も何もない。彼は白い足首にバシャバシャと水をかけながら、僕の溜息も聞こえぬ程遠くへと行ってしまった。もう一方のヤンガスはと言えば、既に小川から脱出して森の中へと逃げ込んでおり、僕は彼の小さくなっていく背中を眺めながら、あのトゲトゲ帽子の中はどうなっているのだろうと思った。
「二人とも、なんで髪を切るのが嫌かな」
 トロデーン兵士の規則では、前髪は眉に、後髪は襟にかからぬよう揃えておくよう定められている。髪が伸びると邪魔になるし、それになんだか清潔じゃないし、特に前髪が視界を遮るようなことがあっては戦闘でも不利になると思うのに、あの二人はどうだっていうんだろう。
 そうして僕が溜息をついていると、水際で脚を浸していただけのゼシカがスカートの裾を摘んでやって来る。
「エイト、前髪切ってくれる?」
「えっ、ゼシカの?」
「そうよ」
 ビックリした。
 女性である彼女の髪を、このような鋏で切っても良いというのか、そもそも僕はゼシカの髪に触れて良いのだろうか、一瞬にして色々と心配事が浮かんだ僕はどんな表情をしていたというのだろう、僕と瞳の合ったゼシカはやや睨みがちに「切って」ともう一度言った。これは自分だけを特別視しないで欲しいと不平を言う時と似ている。有無を言わせぬ雰囲気に、僕は内心たじろぎながら彼女の肩に布をかけた。
 
 
 
 
その距離、10センチ。
 
 
 
「短めでいいから」
「うん」
 僕は分かったと言って鋏の切っ先を差し出し、ゼシカが目を閉じる。
「遠慮しないで、思いっきりやって」
 いつもは髪を二つに結い上げ、前髪だって綺麗にまとめている彼女がそれを煩わしく感じることなどあるのだろうか。結い残りの髪が一束、風に揺らいで彼女の高い鼻を擽る時、むず痒そうに首を傾けて耳に送る姿を、実は僕は好いている。その前髪が短くなるのは惜しいことだと言えば、彼女はカッと瞳を開いて僕を睨むのだろう。だから僕は内心どれだけ躊躇おうとも黙って彼女の言うとおりにするしかない。
「本当にいいの?」
「勿論。瞼は切らないって信じてるから」
 視界を暗くさせたまま彼女がそう言うのを聞いて、僕は瞬間、その姿にドキッとした。
 瞳を閉じたゼシカはかわいい。いや、彼女はいつも可愛いんだけど、なんだろう、瞳を閉じて待っている今のゼシカは、その、キスが出来そうだ。近付く刃に動かずに居てくれるのは嬉しいけれど、こんなにも素直に目蓋を見せるなんて、ちょっと無用心じゃないかと心配にもなる。それは僕を信用してくれているからか、それとも僕を男として意識していないのか、それはそれで残念な気持ちにもなるけれど、それでもゼシカの長い睫毛を前にした僕は妙に緊張して、そわそわした。
 くっきりと描かれた二重の弧が瞼のラインを縁取り、そこから生えた長い睫毛が一斉に下を向いている。普段は彼女の強い意志をそのままに伝える眼差しも今は隠され、まるで眠りに落ちたかのような柔らかな美しさを見せている。こんな風に瞳を閉じるだけで、すっと通った鼻筋も、瑞々しい桃色の唇も、そして彼女の心すら差し出されているような気がするのは何故なんだろう。
 僕は密かにドキドキしながら、彼女の前髪に近付いてそっと言った。
「切るよ」
「うん」
 櫛で整えた前髪を指で挟んで鋏を入れると、彼女の鼻頭や頬をハラハラと髪が滑り落ちていく。時折、離れるのを惜しがるのか頬に残る髪もあって、その様は彼女の髪を切るのが勿体無いと思う僕のようだった。さして勢いよく鋏を動かせぬ僕は、ほんの少しを切っただけで止めてしまう。髪はまた伸びるし、髪を切ったところでゼシカに痛みはない筈なのに、僕はどうしても彼女の望むようにザクザクとは切れない。
「終わった?」
「うん、終わった」
 物足りないと責められることを覚悟して鏡を渡すと、意外にも彼女は「うん」と頷いただけで不平を口にはしなかった。自分の姿を映した彼女は、満足のいく長さになったからか柔らかく微笑んで、美しく口角の上がった佳顔に僕は少し照れてしまう。
 彼女の髪に触れて、しかもそれを切るなんて、何だか仲間以上の事をしてしまったような気分だ。別にどうという行為でもないのに何処か浮ついていた僕は、ゼシカが肩にかけていた布を払って髪を落とし、それを僕の首に巻きつけていることにも気付かなかった。
「次はエイトの番よ」
「えっ、えっ!?」
「髪を切れって言われたのは貴方じゃない」
 見れば僕は既に布で覆われ、そこから出る手をゼシカに引かれて川縁に連れられる。草の生い茂る水際に座らされた僕は、上目にゼシカを見る形となった。
「はい。おとなしくする」
 確かに髪が伸びたとトロデ王に言われたのは僕で、僕の髪を切るついでにヤンガスとククールの髪も切ろうとしていたんだ。僕は僕の手で切ろうと思っていたのに、まさかゼシカの髪を切り、またゼシカに僕の髪を切って貰うことになろうとは思わなかった。
「短めにしておく?」
「う、うん」
「思いっきりやっていい?」
 なんだかゼシカは楽しそうだ。彼女の好奇心に輝く美しい瞳を見て、僕はなんとなく不安な気持ちになる。
「お手柔らかに頼むよ」
 だって君は誰かの髪を切ったことなんてないだろう? ミーティア姫が侍女に髪の手入れを任せているように、ゼシカだって名家のお嬢様なんだから、そんな粗野な経験はしていない筈なんだ。
「任せて」
 余程の事はないだろうと彼女を信じてみる。最悪の事態としては、前髪がゴッソリなくなってしまうとか、僕の額が鋏でズタズタになってしまうとかが考えられるけど、それも何とか対処できる範囲だろう。予想以上の事態が起きたなら、それはもうパルプンテとして受け入れるしかない。
 そうやって僕が内心ヒヤヒヤしながら彼女の鋏を待っていた時、前髪の近くで彼女の可愛らしい声がそっと呟くのを聞いた。
「そうやって大人しく目を瞑ってたら」
 心臓が跳ね上がったのは、彼女の声があまりに近くて、息の温かささえ感じられる距離だったから。
「キスされちゃうよ」
 そして僕が跳ね上がったのは、勿論彼女のビックリ発言に対して。
「ゼ、シカ」
 狼狽した僕は瞳を開いて目の前に迫るゼシカを見る。
 するとそこには、悪戯な微笑を浮かべる飛び切り可愛らしい子悪魔が、優しい微笑を湛えていた。
 
 
 
 
 
その距離、10センチ。
 
 
 
 
 
 小川の水に浸された彼女の白い足首が、やたら妖艶に見えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 髪に触れるとか髪を切るとか、エロい。
そしてこのゼシカはエイトの唇を奪っちゃうと思います。  
 
 
「プチラブ。」へもどる
主ゼシ書庫へもどる
       

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル