連続ギャグ小説 特別講座
最終講「パッフィー教授の発展恋愛学」
トロデーン国領の一帯にゲルダ様の指名手配書が張り出されて数日経った頃、代替教師として召喚されたのは「ぱふぱふ屋」のパッフィーちゃんでした。
世界中の冒険者を虜にする美貌の肉体とご奉仕精神。その豊満な乳は、ゲーム中でも常にその揺れが気になるあのゼシカまでを唸らせる程です。人知れぬ秘密の場所でウッフンと営業しているかと思いきや、意外にもこの店の噂を知る者は多く、遠く離れたトロデーンの地においても彼女にお世話になった者は沢山居るようでした。
「…何で大臣が彼女の事を知っているのですか」
「ご、ごっ、ごほんごほん!」
茨の呪いを受けながら玉座に座っていたくせに、とまでは言いませんでしたが、大臣がパッフィーちゃんを招集したと知ったエイトは、大臣に怪訝な視線を送ります。
「ごほん。…では何故エイト君、キミもパッフィーちゃんの事を知っているのかね」
言われてムキになった大臣も負けてはいません。
「そっ、それは、その…ゲフンゲフン!」
要するに同じ穴の狢というワケです。
エイト達は空が真っ赤に染め上がったあの日にさえ、「これが人生最期かもしれないから」と意気込んでぱふぱふ屋に行った「常連」でした。
返答に戸惑うエイトの後ろから、丁度サザンビーク地方より到着したパッフィーちゃんがやってきました。
「お待たせしましたー、…ってあれ?」
しなやかに腰をくねらせて歩くパッフィーちゃんの足は、エイトの前で止まります。
「エイト君じゃない! やっほー。久しぶりね」
「えっ、あぁ…こ、こんにちは…」
顔見知り(お得意様)を見つけて、一気に晴れやかな笑顔になったパッフィーちゃんは、嬉しそうにエイトの手を取り「エイト君があれをやっつけたんだよね!」と言いました。暗黒神をやっつけた勇者が、エイト達一行であったことを知っているようです。
ちょっと嬉しいエイト。パッフィーちゃんが続けます。
「私もエイト君のお相手をしたってことで、自慢なのよー」
「…そ、そうですか…」
エイトがギクリとしましたが、親しそうに彼に話しかけるパッフィーちゃんの姿を目の当たりにし、親交の厚さを如実に示した会話を聞いて、大臣は悔しそうでした。
「…」
羨望の眼というよりも、物欲しげな大臣の視線。エイトにとっては非常に居心地が悪く、早く彼女をミーティア姫の所へと案内しようという気になりました。
「ではこれで、」
エイトはパッフィーちゃんを促し、部屋を出ようとします。
「あっ、ちょ待…っ」
咄嗟に大臣の手が伸びました(本能)。
「…大臣。彼女は、今日は姫の講師としてお越しくださいましたから」
エイトはピシャリと言いました。
トロデーン城の訪問ついでに出張サービスを目論んでいた大臣の計算は完全に読まれていたようです。
「さぁ、姫の学習室へ参りましょう」
エイトは悲しそうな瞳で訴える大臣を容赦なく振りほどき、彼女を連れて部屋を出て行きました。
「パ、パッフィーちゃん…」
色っぽく腰を振りながら去る、パッフィーちゃんの背に向けられた大臣の手は震えていました。
てくてく。てくてく。
近衛隊長のエイトと、艶めいたバニーガール。トロデーン城の廊下を異色の二人連れが歩いていることで、すれ違う城内の者は皆それぞれが振り返ってはまじまじと見つめていきます。
エイトは彼等に「そういうのじゃないから」と言い訳をこと細かくしていたので、ミーティア姫の待つ学習室まで行くのには結構な時間を要しました。
今また一人の近衛兵に弁明をし終え、疲れた溜息をひとつついたところで、エイトは隣のパッフィーちゃんに話しかけられました。
「エイト君、最近はリフレッシュしてるのー?」
今しがたの苦労する姿や疲労感を揶揄っているのか、パッフィーちゃんはくすくすと笑っています。
「い、いや、あんまり…」
エイトは頭を掻きました。
「しないとダメよー。リビドーには素直に従うべきなんだからー」
「は、はぁ」
もじもじと言葉を濁すエイトを見て、パッフィーちゃんが気を利かせて言いました。
「ぱふぱふする?」
豊満な乳を差し出し、誘うように揺らします。
「えっ!っと、それは…」
エイトは戸惑いながらも彼女の胸元に釘付けになりました(本能)。
その時。
「お待ちしておりました」
ミーティア姫が扉を開けて二人を迎えました。
「うわっ!」
いつの間にここまで来たのだろう?エイトはミーティア姫の笑顔を見てたじろいでしまいました。自分の声を聞いて彼女は扉を開けたのでしょうが、バニーガールの胸元を凝視していた自分の姿は見られていないでしょうか。どきどき。
「ひ、姫」
「どうしました?エイト」
可愛らしい微笑みは普段通りなので、バレていないことを願い、エイトはそれ以上を口にするのはやめました。
「やっほー。お姫様」
エイトの背中から、パッフィーちゃんが軽やかにミーティア姫に挨拶をしました。
「パッフィー先生。よろしくお願いします」
ミーティア姫はドレスの裾を摘んで丁寧にお辞儀をします。
「で、では僕はこれで」
少しぎこちなく去るエイトの姿を、ミーティア姫とパッフィーちゃんがそれぞれの笑顔で送りました。
彼の背中が見えなくなったところで、パッフィーちゃんは、隣で手を振り続けるにこやかなミーティア姫を艶っぽく眺めました。
「今日は社会の勉強ということで、私の仕事を教えてあげるわねー」
「はいっ。お願いしますっ」
《第四講:パッフィーちゃん》
「私のお仕事は、旅行く疲れた冒険者の心をリフレッシュさせて、更なる“夢”を与えるぱふぱふ屋よ」
「…ぱふぱふ?」
ミーティア姫は知らない言葉に首を傾げました。
「そう、ぱふぱふ」
パッフィーちゃんはそう言って傍の椅子を取り、ミーティア姫をそこに促しました。
「やってみる?」
「? はい」
用意されたものは一脚の椅子だけ。隣に艶かしく立つパッフィーちゃんは、彼女が腰掛けるのを待っています。
ミーティア姫は全く状況が分からずに、そのまま足を進めました。
「はーい! お一人様、ごあんなーい!」
少し不安げな表情を見せながら腰掛けたミーティア姫の両肩に手を置き、パッフィーちゃんはのぞき込むように彼女の顔を笑顔で見ました。
「緊張しないで。リラックス、リラックス!」
そうして彼女はおとぼけたスライムのアイマスクを取り出し(どこから?)、ミーティア姫に目隠しをします。
「…(見えませんわ)…」
ミーティア姫が緊張しているのが分かります。
「うふふ。驚かせちゃった? でも目隠しすると、快感が2倍にも3倍にもなるのよ」
「…快感…?」
「そうよー」
パッフィーちゃんは妖艶にニッコリと笑ってみせましたが、ミーティア姫には勿論見えません。優しい声だけを頼りにミーティア姫は深呼吸をしました。
「じゃ ぱふぱふ始めるわね」
ミーティア姫、未知なる社会学習へ一歩踏み出します。
どきどき。どきどき。
「そーれ ぱふぱふ。ぱふぱふ。
「ぱふぱふ ぱふぱふ ぱふぱふ……。
ミーティア姫「…………。
「やわらかくて あったかいでしょ?
もっと 首のちからを抜くと さらに気持ちよくなるわよ。
「そーれっ! ぱふぱふ ぱふぱふ。
「ふぅ。気持ちよかったでしょ?
そう言ってパッフィーちゃんはミーティア姫のアイマスクを外してあげました。
「はいっ。肩のコリがとれて、ラクになったような気がします」
今やすっかり力を抜いてぱふぱふを満喫したミーティア姫が、嬉しそうに言いました。どうやらとっても心地よかったようです。
「よかったわー」
ご満悦のミーティア姫を見て、パッフィーちゃんも嬉しそうです。
「それでね、」
外したアイマスクをミーティア姫に手渡しながら、パッフィーちゃんが言います。
「エイト君の事なんだけど」
「…エイトの事?」
パッフィーちゃんは頬に軽く手を当てながら、少しだけ困ったように微笑しました。
「そう。彼ね、最近ご無沙汰みたいなの」
「ごぶさた?」
不思議そうに首を傾げるミーティア姫を、パッフィーちゃんが色っぽく見つめます。
「ごぶさたなんですか…」
「そうなの」
困り顔のパッフィーちゃんを見て、「ごぶさた」の意味が理解らないミーティア姫も、エイトがとりあえず困っているのではないかと感じています。事態を図りかねたまま、ミーティア姫は一緒になって困った顔になりました。
「エイト…そうでしたのね…」
そうして不思議そうにも可愛らしく首を傾げている彼女に、パッフィーちゃんは魅惑的な笑顔で言います。
「これ、私の代わりにエイト君にご奉仕してあげて欲しいな」
それはまるで励ますように、パッフィーちゃんは手渡したスライムマスクとミーティア姫の手をギュッと握りました。
「はいっ!分かりました、パッフィー先生!」
ミーティア姫の顔が上がります。
気合十分。ヤル気まんまん、まんまん!です。
「ミーティア、一生懸命ぱふぱふを覚えて、エイトに気持ちよくなって貰いますわ!」
闘志に満ちたミーティア姫は、パッフィーちゃんの手を強く握り返します。
「うん。じゃ、頑張ろっか」
二人はニッコリと微笑み合いました。
「…あれ?」
エイトが授業の終わりを告げに扉を開けたときには、パッフィーちゃんは既に居ませんでした。
「やっほーですわ。エイト」
代わりに、バニー姿のミーティア姫が彼を待っていました。
「ひ、姫?」
ギリギリのミニスカートが瑞々しい太腿を大胆に見せています。危ないラインから目が離せません。
「ぱふぱふしません?とっても気持ちいいですわよ!」
「えっ!!!」
ここ最近の委託授業で、ミーティア姫が非常に影響の受けやすい性格だということを知った(味わわせられた)エイトは、今回もまたハードに洗脳されたと思いました。
しかし「これはこれで悪くない」と思ってしまうあたり、今回は違います。どうしよう、と戸惑う心の奥底ではパッフィー先生ありがとうの気持ちです。
本能ではドキドキしながらも、表面上で見せる理性は一応の断りを言っていました。
「い、いえ…そ、その…」
消極的な答えを聞いたミーティア姫は、教わったとおりに腰をくねらせてイヤイヤと身体を揺すって詰りました。
「あぁーん!エイトにはリビドーが足りませんわ!」
「え、じゃ、 “は い” で」
即答です。
「はーい! お一人様、ご案内ですわ」
すると今度は満面の笑顔で、バニー姿のミーティア姫がエイトを椅子に促します。
「あ、あの。姫」
恐る恐るエイトは椅子に腰掛けました。
「緊張しないで。リラックス、リラックスですわ」
そうしてミーティア姫は彼の背後に回りこみ、可愛らしく、色っぽくスライムのアイマスクを取り出して彼に装備しました(緊張+15)。
「…スライムの調達は何処で?」
おとぼけたスライムのマスクをつけながら、エイトは振り向いてミーティア姫に話しかけます。
「スライム? エイト、モンスターさんは此処には居ませんわ」
ミーティア姫はエイトの質問の意味が分からずに首を傾げましたが、その姿は彼には見えません。
「えぇ!?じゃあ…」
エイトは更に緊張しました。
…スライムを使わないんですか?
それって、それって、それって!!!
「め、目隠し、取っていいですか…」(超期待)
「いけませんわ、エイト。目隠しで快感が2倍にも3倍にもなるんですもの!」
ミーティア姫はパッフィーちゃんの口調の通り、軽やかに言いました。
「そ、それもありますけど、そうじゃなくて…」
彼女の店には足繁く通っていたエイトですから、この勝手は理解してはいましたが、今回ばかりはそうはいきません。
どきどきです。それはもうどきどきです。
マスクの下で非常に緊張した面持ちを見せるエイトの耳元で、ミーティア姫が色っぽく言いました。
「じゃあ、ぱふぱふ始めますわね」
(は、鼻血が…)
エイトはその声を天にも昇った気持ちで聞いていました。
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