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だって、こんなに愛おしい人を他に知らないもの。
いちばん大好きだった
「エイトは早くお姫様の所に行って!」
彼の背中を押したのは自分だった。
その言葉が今の結果を齎し、ひいてはこの胸の痛みを引き起こすものだと理解ってはいたものの、現実として彼が歴年の想い人であるミーティア姫の手を取ってこの場より去る光景を瞳に映せば、予想以上に自分が傷ついていることに気付く。
「兄貴、うまくいったみたいでがす」
「こっちも片付いたしな」
サヴェッラ大聖堂の高台から手を繋いで駆けていく二人を見ると、息が詰まるほど胸が締められるのが分かった。心臓が煩いくらいに高鳴って身体を熱くさせるのは、泣き叫びたい感情を必死に抑えているからだろうか。四面に広がる花畑を掻き分けて走っていく二人の笑顔を捉えたゼシカは、震える手を胸に当てて彼方を見続けていた。
「おっさん、いつの間にあんなところに! 馬車を用意していたでげすよ!」
「こうなることを読んでたな」
仲間の声に気付いて走る二人の前方に視線を移してみれば、先程までは自分達と共に護衛の聖堂騎士団員と戦っていた筈のトロデ王が、御者台から手招きしてエイト達の到着を待っていた。
「おっさんだって気付いていたんでげすよ」
二人の気持ちに。
しんみりと呟くヤンガスの科白に胸が痛む。
「、ゼシカの嬢ちゃん?」
兄貴が男を見せたとか、皆に勇士を知らしめたと言って喜んでいたヤンガスは、いつもならば何がしかの反応を返すゼシカが無反応であることを不思議に思って、ふとその表情を窺う。それでも遠方の二人を見つめ続ける様はどこか違って、疑問符を浮かべた彼は更に話しかけようと乗り出すと、隣のククールがそれを制した。
「嬢――」
「……失恋、しちゃった」
ポツリとゼシカが口を開いた。
これを聞いたヤンガスはギクリとして言を噤み戸惑ったが、彼の前で手を翳して止めていたククールの方は表情を変えない。
「多分、私……エイトが好きだった」
ううん、多分なんかじゃない。
そう首を振りながら淡々と呟かれた言葉はしかし確りとしていて、感情を隠そうとしない彼女の意思の強さが見て取れる。
彼女の言葉を聞くまでは、兄貴分のエイトとミーティア姫の幸せを手放しで喜んでいたヤンガスも、彼に密かなる想いを寄せていたという仲間が失恋に胸を痛めているとあれば言葉に迷う。
「そ、そうでがしたか」
「うん、」
「…………」
「…………」
暫しの沈黙。
ゼシカはそうして励ますにもまごつくヤンガスの優しさに微笑しながら、努めて気丈な麗顔で続けた。
「失恋した今になって、どれだけ好きだったか気付いちゃった」
「嬢ちゃん」
初めての恋、初めての失恋。
エイトの気持ちに薄々は気付き始めていた自分は、このような結末を迎えることをある程度は覚悟していたものの、それでもこの恋を諦め切れなかった。しかし傷付くことが理解っていて愛してしまったのは何故だろう?
「、貴方の兄貴が素敵すぎたんだもの」
誰にも従わぬ野犬のようなヤンガスが惚れ込んで弟分を申し出た程の男である。童顔な外見と細い体躯に最初は驚いたものの、その強さと優しさに惹き付けられたのは直ぐの事だった。誰にでも好かれる太陽のような存在だと彼の笑顔を見て微笑を返した自分は、既にその一人として恋心を抱いていたのだろう。
誰にでも等しく降り注がれる太陽の光と思えば、募る想いの苦しさにも耐えられたものの、世界の中でただ一輪の花にのみそれが特別に注がれるとしたら、加えてそれが自分でないとすれば、胸の痛みは更に耐え難い。
「……うん、でも」
ゼシカは胸元に当てた手をギュッと握って言った。
「エイトが旅立っていったんだもの。私も卒業しなきゃね」
気丈にも彼女は笑顔を見せているが、仲間の誰とも視線を合わせぬところを見ると、心の慟哭を我慢しているのがよく理解る。それはゼシカの勝気な性格がそうさせているのではなく、彼女が健気に元気を奮う時はいつものことだった。
いや寧ろゼシカはさざめく感情の昂ぶりを自分でも上手く制御できずに戸惑っているのだろう。初めて湧き上がる熱い感情のうねりは、闊達な印象とは真逆に華奢で繊細な彼女の心に言いようのない葛藤を呼び起こしているに違いない。
ククールは高台から碧色の天空を仰いだままのゼシカを静かに見つめ、続く言葉を聞いた。
「いつかは思い出になって、」
「ならねぇよ」
彼女の言葉に低音の楔を打つ。
「別の人を好きになって」
「無理だ」
「昔の事だと笑えるように」
「なれるわけない」
立て続けに否定の相槌を返されたゼシカは、堪らず振り向いて声主のククールをキッと見据えた。
二人の視線が合う。
彼女の科白に淡々と言を挟み続けるククールの様子に驚いていたヤンガスも、次に二人が視線をぶつけ合った時には一触即発の剣幕にたじたじになる。「ク、ククール」
「そんなこと、自分自身が一番嫌がっている癖に」
「、」
それは図星だった。
誰でも本音を曝されれば気が立つのは仕方ない。しかしゼシカが毎度の如くククールをぶたないのは、彼の視線が寂しさに似た穏やかさを湛えていたからだ。
そう、今の言葉は、まるで自分自身に言っているようで。
「……あんたには理解らないわよ」
しかしゼシカは敢えて否定する。彼に初恋があったかは知らないが、失恋などはいざ知らず、弄ぶような駆け引きじみた恋愛しか経験したことのなさそうな男が、自分のこのような感情に同調できるとは余程思えない。恋の痛みなど、賭け事での負け損くらいにしか考えていないような男の同情などは買いたくもなかった。
「あんたには、」
「解るさ」
そうしてゼシカがやや強めの視線を真っ直ぐに注いでいると、これを受け止めた方のククールは短い吐息をひとつ吐いて流し目に微笑した。「解るさ」
「俺も今、失恋したから」
たった今、失恋した。
そう言って自嘲気味に冷笑する彼の瞳は、ゼシカが初めて見る彼の本音だった。
「、ククール」
「なんつーか、同じ失恋仲間なんだ。喧嘩はよそうぜ」
今日くらいは。
「…………」
ゼシカは彼が自分と同じく視線を逸らす様子で理解る。
彼が今失恋したという相手は、
「クク――」
ゼシカが彼の気持ちに気付いた瞬間、ククールはそれ以上を言わせまいと刹那腕を伸ばし、華奢な体躯のゼシカを引き寄せてその胸にかき抱いた。
「泣けよ。胸くらい貸してやるから」
逸らした視線はそのままに、今は先のゼシカと同じく虚空を眺めるククールは、驚くほど強い抱擁で彼女を抱き締める。ゼシカは自分の抵抗を奪うような両腕の強さが逆にククールの弱さに見えて、それが切ないほど彼らしいと思った。
「本当は泣きたいくらい悲しいんだろ」
「……バカ」
どっちがよ。
ここで「ごめん」と謝るのも、「ありがとう」と礼を言うのも彼を傷つけると思ったのは、失恋した同士故のシンパシーだろうか。ゼシカは普段どおりの悪態を彼に返すと、そのまま大人しく涙を流してやることにした。
「胸、借りるわ」
こんなに悲しいひと、他に知らない。
こんなに愛しいひと、他に知らない。
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【あとがき】 |
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真っ直ぐな想いだけじゃ上手くいかない、
不器用な想いが交錯する、
ククゼシは(ヤンゲルも)私の中で「切なオトナ恋愛」です。
ククを愛するが故の苦悶クク萌え(新ジャンル。笑)を
アキノさんに教わったのですが、
再現できているでしょうか(どきどき)。
うん、できてないな(ガクリ)。
本気の相手にはとことん弱気なクク、どうぞお受け取り下さい☆
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