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 犬のしつけでは、今の私の状態は「おあずけ」というらしい。
 餌を目の前にして涎を垂らしながら、食欲を押し留めている。
 犬は主人の許しさえあれば食事にありつけるわけだが、私のご主人様は「お許し」はおろか、肉を前に欲望を抑えている私の気持ちなどご存知でないだろう。
 
 熟れた罪の果実を口にする日は、いつになることやら。
 
 
 
 オ ア ズ ケ 
 
 
 
 
 ホフマンさんが作った移民の町は、サントハイム東の小砂漠地帯に位置している。彼は私達サントハイムの人間がソロさん達と旅を共にする以前、彼等に同行した昔の旅仲間ということだった。
 かつて世界を冒険していた頃は、ホフマンさんの町づくりに「旅先での移民集め」として私達も加わっていたのだが、ソロさんがモンスターばかりを勧誘したせいで、街は魔物の巣食うミステリータワーになってしまった。「何処で間違ったのだろう」と絶望に打ちひしがれたホフマンさんは、失意のうちに旅に出てしまった。彼は別の場所で再び人生をやりなおすという。
 この始末をどうすべきか。
 パーティー8人で討議をした結果、移民の町はサントハイム領だという理由によって我々3人に任された。いや、押し付けられたのだ。こんな面倒を姫様とブライ様にお頼みできる筈もなく、こうして私が時々やってきてはホフマンさんの代わりに日誌を書いているというわけだ。
 そして今日は珍しくソロさんがやってきた。
 世界を救った天空の勇者はマスタードラゴン様の誘いを断り、故郷の山奥の村で隠居暮らしをしている。
 ソロさんは彼の畑で採れた野菜を手土産に忽然と現れ、どっかりと椅子に座ってくつろぎ始めた。長い足を机に乗せ、サントハイムの宮廷魔術師マドルエの書物を読みながら時間をもて余している。
 私は相変わらずの彼の行儀の悪さに苦笑して、ふと窓より見える「ソロタウン」を眺めた。
 不気味な紫雲が塔の先端を常に隠している謎めいた建物。街道ともいえない街道には複雑に住居が配置され、加えてうそ寒い空気が立ち込めているので、私は未だに足を踏み入れるたびに迷ってしまう。
……まったくソロさんも酷いお方だ。いくら貴方がモンスター好きとはいえ、町にまで勧誘することはなかったのに」
「そうか?」
 彼は書物に目を預けたまま、生返事をした。
「そうですよ。これではまるで街全体が魔物のアジトかモンスター格闘場です」
「あいつら、楽しそうだぞ」
「お陰でホフマンさんの住処が奪われたようなものです」
「あいつは町ひとつ作ったくらいで完成するようなヤツじゃない。これで良かったんだ」
 口の悪さも変わらない。思わず溜息が出てしまう。
「ホフマンさんの“信じる心”を裏切ったわけではないのですね?」
 押し付けられた私の身にもなって欲しいという目つきが伝わったのだろうか、ソロさんは頭を無造作に掻いて億劫そうに言った。
……へいへい。じゃ俺はホフマンの新しい町づくりに手ェ貸してやるとすっか」
「立派な商人になりたいという彼の夢を壊さないであげて下さい」
 私の言葉を背に、彼は手だけを振ってまた忽然と去っていった。仕込んでいたスープの出来上がりを待っていたのかと思ったのに、用意のできた頃には彼はルーラを唱えて消えていた。
 まったく不思議な方だと思う。
 結局のところソロさんは、群れを離れたモンスターを見捨てておけなかったのだろう。行き場なく彷徨う彼らの切なげな瞳に、素直に心惹かれた、あるいはその哀愁に共感を覚えただけに違いない。人間と天空人の間に生まれた彼らしい優しさと悲しさ。そんな彼だからこそ勇者になれたのかもしれない。
……少しお説教がすぎたかもしれません」
 さて、彼の為によそったスープをどうしたものかと悩んでいると、二階から軽やかな声がパタパタという足取りとともに降りてきた。
「おはよークリフト」
 朝にしては遅いが、姫様の清々しい笑顔は太陽の目覚めに似ていらっしゃる。
「おはようございます、……って姫様!?」
 一礼して顔を上げた私の目に映ったのは、衝撃のお姿。
 下着に簡易な肌着を纏っただけの頼りない装備。無防備に晒された肩と、真っ白の脚。
「ななな何て格好でっ……
 やり場を失って泳ぐ目をうかがうように、姫様は私の顔を覗き込まれた。
「クリフト、おなか空いた」
「わっ」
 大きな瞳が近付いたかと思うと、同時に服の隙間から膨らんだ胸の谷間が見えた。
「そ、そんな格好で降りてきてはいけませんよ」
「マーニャ姐様もしてた」
「な、何か着てください……
 声が震えているのは怒っているからではない。
 とりあえず羽織るものをと戸惑いながら自分の上着を差し出し、私は逃げるように朝食の支度に取り掛かる。
……おっきい。ポンチョみたい」
 姫様は袖を折って丈を調節しながら椅子に腰掛け、ソロさんが片付けていかなかったマドルエの書物に目を通されていた。
 先程のスープにサラダとパンをつけて、ミルクと一緒に机に並べると、姫様は嬉しそうに身を乗り出されたのだが。
「ひ、姫様。お行儀が悪いですよ!」
 食事の用意が出来た今は咄嗟に書物を横に脚を下ろされたが、腰掛けた椅子に片脚を乗せて書物を読むそのお姿に閉口してしまう。
「女性が脚を開いてはいけません」
「マーニャ姐様もしてた」
「例外を出すのはお止めください」
 先刻にお貸しした私の上着が、余計に私を駆り立てているような気がしてならない。彼女には大きいそれは、瑞々しい太腿を更に魅惑的にのぞかせてしまっている。露出的な最初の格好を覆った今のお姿の方がなんとも卑猥に感じてしまう。
「公務のない休養日くらい、ラクにさせてよね」
 姫様は小さな口をなんとも可愛らしく尖らせて不平を仰る。
 旅を終えてからはサントハイム王を援けて執政の輔弼をなさっている姫様が、自由気侭に羽を伸ばす機会が減ったのは知っている。もともと奔放なお転婆姫であられたが、特にマーニャさんやミネアさんと暮らしていた旅の頃が姫様にとって非常に新鮮な世界だっただけに、今の生活は窮屈でならないのだろう。
「ちょっとくらい息抜きしたいわ」
……ここだけですよ?」
「うん」
 姫様はニッコリと笑ってくださったが、私には気が気でならない。
 ここだけと言うよりも、私の前だけでと本心は言いたかった。つい先刻まではソロさんが居たのだから、彼とそんな姿で鉢合わせなどしたら色々な意味で大変な事になっていたに違いない。
「今日のご予定は?」
 なるべく瞳だけを見て、私は話を切り替えた。
「新しく入居したモンスターに手合わせ願おうかと思ったら、ベロちゃんだったの」
「昔の戦友ではありませんか」
「そうなの。彼には勝ってるからね」
 つまんない、と姫様は口の端についたイチゴのジャムを指ですくった。
 姫様はそうして夕方近くまでこの格好で室内をブラブラされて、何をするわけでもなく佇まれた。外に出たがる彼女の性格からは珍しい行動で、失礼ながらも私はそのおとなしさに心配してしまう。
……今日は元気がありませんか」
「うーん。ちょっと気だるい」
 日誌を書く手を止めて私が見やると、姫様はソファに身体を預けてヌイグルミと遊ばれていた。
「生理が近いのかも」
「せ、っ!」
 何と返事を申し上げれば良いのだろう。
 女性同士の会話じゃないのですよ。そう心では思うものの、当たり前に彼女の身体を気遣う一言でも出ない自分が情けなくなってくる。
 ありもしない言葉を選ぼうと困惑していると、姫様はそんな私の様子など知らぬ顔で浴室へと歩いていかれた。
「お風呂入ってくるね」
「は、はい」
 パタンと扉が閉じられたのを見て一息つく。しかし、その後浴室から湿った水音が聞こえ始めると、あらぬ想像をして目の前の事に集中できなくなっている自分がいた。
 
 
 
 この不思議な感覚、いや、この微妙な雰囲気は何なのか。
 姫様は私に無防備なお姿を晒されているし、発言などはまるで恋人同士のようなもので。お許し頂いているようで、誘ってらっしゃるようで。
 半ば宙吊りにされた私はどうしたものだろう。また姫様は私をどうされたいのか。そう考えながら一日が過ぎて、悶々としたまま寝床につく。
……
 明日、姫様はフレノールへ赴かれるし、私はサランの教会へ行かなくてはならない。しばらくはお互いにそこより離れられないだろうから、サントハイムで会えるのは数ヶ月先のことになる。
 それにしても。隣の部屋で眠る姫様はご存知だろうか。
……
 私が姫様との今の関係に答えを求めていることを。もしくは出掛かっている答えを導き出そうと急いでいることを。
 最終決戦の前に、私達はお互いの気持ちを伝え合った。私は姫様を愛しているし、姫様も私を大好きだと仰ってくださった。本来ならばそれで十分な筈が、私がこうも「その先」を求めているのは、積年の恋が実った喜びの衝動だけではない。いみじくも神官を務める私が、「男だから」という理由だけでこんなに駆り立てられはしないだろう。しかしそういって、この不可解な衝動の理由を「貴女が魅惑的すぎるから」と姫様に転嫁するのは卑怯だ。
「ふぅ」
 一息ついて寝返りを打ったその時。
「クリフト」
「わっ!!!」
 いきなり部屋の扉が開いて、暗闇に枕を抱えて立つ姫様が現れる。私の身が跳ね起きた。
「クリフトのお布団で寝る」
「えっ! ……ええぇ!?」
 姫様は淡々とした口調で一言そう仰り、突然の事態に混乱して収拾がつかない私をベッド隅にギュッ、ギュッ、と押しやってご自分のスペースを作られた。
「寒いし、淋しいし、一緒に寝ようよ」
「あ、あのですね」
 私の返事など聞いておられないようだ。戸惑いのうちに姫様は手際よくベッドに身を滑らせて、いつの間にか私の胸の中にいらっしゃるではないか。
「ひ、姫様」
 目と心臓が飛び出そうになる。
 姫様の、私の上着を簡易に掛けただけのその下は、上下の下着しかつけられていないようだ。
「○※×△@□◎※◇!!!」
 私とて寝間着一枚しか肌に纏っていないぶん、姫様の体温を感じれば敏感に“反応”してしまうに違いない。
「ど、どうなさったのですか……
 なんとも弱々しい声。
 湯上りの姫様の髪の香りに不意を打たれた私は語尾が震えていた。冷静を繕っている心の奥では何かを期待している自分がいるのは否めない。答えを求めていた私に、姫様から自ずとそれを差し出されたような気がして、動揺が走る。
「ねえさま二人と寝たときはとってもあったかかったの」
「そ、それとこれとは違いますよ……
 理性のうちで次には「例外です」と続けるつもりだった。
 しかし、
「恋人同士が一緒に寝るのは例外?」
「、」
 今、姫様の口から「答え」が出たような気がした。
 姫様は抱えていた枕を床になげ置き、私との距離を縮めて胸に寄り添われる。甘い香りがふわりと漂って、脳内が彼女で痺れそうになる。
「恋人同士が一緒に寝るのはいけないことなの?」
……いいえ」
 私は無意識に姫様の首に腕を滑らし、枕の代わりを差し出していた。空いた片方の手は彼女の背に回して引き寄せる。
 何をやっているのかと、自分でも己に問いながら。
「寒くありませんか?」
「うん」
 胸元に響く小さな声がもどかしい。このままかき抱いて永遠に放したくない。朝を告げる太陽を昇らないようにして、ずっと貴女を包んでいたい。
(抱きたい。どうしようもなく抱きたい)
 私の胸元でうっすらと瞼を閉じている姫様は、この薄闇の中でさえ美しい輝きを放っている。小さな手で私の服を掴み、放さないその姿が狂おしいほどに恋しい。
 ここには神官も何もない。今の私は、愛おしい人を前に猛るただの男。
「クリフト」
「はい」
「私ね、ずっとこうしたかったの」
「は、はい」
「クリフトの胸の中は、モヤモヤもイライラも全部なくなって、ほっとするの」
……
 高鳴る胸の鼓動を抑え、よくよく理性を繋ぎとめて考えてみる。
 彼女が無防備な姿を晒すのも、身体の不調を正直に告白するのも、寂しさを吐露するのも。姫様を愛している私を信用し、安心しているからであって。
「あったかい気持ちになれるの」
「姫様」
 そう、今のこの欲情は不謹慎だ。
……ありがとうございます」
(我慢、我慢。)
 姫様が女性として本当に私を許し、受け入れ、もしくは私を求めるまで。この感情は押し殺しておこう。
 そう思って私は姫様の背中を強く抱きしめた。
「クリフト」
 姫様の声が少し緊張したように聞こえたが構わない。
 何も言わずに柔らかい姫様の感触を確かめていると、姫様は少しもがくように私の胸から手を伸ばしてきて、闇の中で手探りに私の頬に触れられた。
「クリフト」
 温かい手がそっと私の頬を火照らす。
……私の為に我慢してるの?」
 私は一瞬、硬直した。
「そ、それは」
 姫様はご存知なのか。それとも気付かれたのだろうか。
 この、緊張して昂ぶる身体を押さえているなけなしの理性の葛藤を。見かけだけの自我の節制を。
 事実、私の芯は疼いていた。
「クリフト。私、知ってるんだよ」
「な、なな何を……
 上擦った声が漏れた。
「クリフトがしたいこと。我慢してること」
「ひ、姫様」
「アリーナって呼んで」
「ア、アリーナ様……
 しっとりとした彼女の声と真っ直ぐな瞳に、みるみるうちに私の身体は熱を帯びて緊張してくる。
「私、それを待ってるって言ったら、はしたないかな」
「!」
 思考が止まる寸前かもしれない。いや、もう止まっている。
 全てがアリーナ様の大きな瞳に吸い込まれて、もう、何もできない。何も考えられない。
「私、クリフトが大好きだよ。優しいところも、そうやって色んな事に気遣って我慢してるところも全部。大好き」
 私の背中にアリーナ様の細い腕が絡まった。
「でも、我慢しないで。クリフトのしたいこと、私にして」
 暗闇に私を見つめるあなたの表情といったら。
「それ、私もしたいもの」
「○※×△@□◎※◇!!!」
 □▼※J△×@+●A◇■△○$◆◎旦□▼※△×@+=A◇■△○$◆◎□串※△×@+●◇麻△○$つ◎□▼※△×@+後A◇ぽ△○$◆◎□▼※△×@+9◇△○$◆◎□ぬ※△×@+乳●A◇脱△○$◎!!!!!!(思考停止)
 
 
 
 オ ア ズ ケ 
 
 
 
 尻尾を振って涎を垂らし、目の前の御馳走に思わず叫んでしまいそうなほど。
 犬は主人の許しがあれば餌にありつけるわけだが、この私の場合、ご主人様の「お許し」が出た今はどうしたら良いのだろう。
 
 熟れた罪の果実を口にするのは、この瞬間。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 クリフトのセリフは一部解読不能になっていますが、
文字化けではありません。彼が壊れただけです(笑)。
 
Satelliteで見せた「微妙な関係」の二人を、クリフト視点から。
ただ同じ場面にするのは勿体なかったので変えてみました。
今回の神官はごほうびにありつくことが出来そうな展開です。
 
冒頭のミステリータワーはホフマンさんに失礼すぎる展開ですね。
(ホフマン的バッドエンディング)
魔物ばっかり勧誘しちゃうのは管理人ですよ!
 
 
 
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