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 大河の両岸に沿って煉瓦造りの店々が軒を連ねるリバーサイドで、魔王と魔物の棲む城の存在を聞いたアリーナは、仲間達の予想通り喜色満面に拳を鳴らした。強いモンスター、未知なる世界への興味が、太陽の色に似た彼女の瞳を爛々と輝かせるのを隣に見たクリフトは、長い指を顳 (こめかみ)に当てただけで、彼女の冒険心に水を差すような言葉は言わない。
「止めないのね、クリフト」
 溜息ひとつ吐かずに己を見つめる彼を意外に思ったのか、アリーナは振り返ってクリフトに尋ねる。
 彼女としても、自らの行動や判断に赤い顔で怒る魔法使いと、顔を真っ青にして諌める神官を見るのは中々に楽しく、彼等の反応を窺うのも冒険のひとつだったかもしれない。それが今回のクリフトは、揶揄い甲斐のある美形に真剣を見せているのだから、アリーナは肩透かしを喰らった気分で彼の花顔を見つめた。
「もはや私に姫様を止める術はありません」
 これが皮肉を含んだ声色ならば、アリーナも悪戯な微笑を返しただろうが、クリフトは不安でも諦めでもない面持ちで静かに言うのだ。
「止められぬなら、共に行くまでです」
 以前のクリフトならば、彼女の機嫌を損ねぬよう傍に居ただけの影のような存在であったが、今や主君の可否に関わらず、共に在ることを望む者となっている。足手まといだと突っ撥ねられようとも、彼は自らの信念によってアリーナを守ることを決意しているのだ。
「なによ、クリフトったら。昔は直ぐに連れ戻そうとしたのに」
 彼を詰ろうとしたアリーナが、自らの言に刹那自答する。
「、そっか。帰る場所がなかったんだっけ、私達」
「姫様」
 自嘲気味に呟かれた言葉が互いの胸に刺さる。
 ブライもクリフトも、事ある毎に二言目には「城へ」と言ってアリーナを戻そうとしていたものだが、バルザックを倒した今もサントハイム城に人は戻らず、自分達が帰る場所は亡くしたと言って良い。
「そうね。私達はもう進むしかない」
 振り返ることもないが、退路は既に絶たれている。
 アリーナは大河の遥か向こうにあるだろう魔王の居城を捉えるように、遠い闇色の空を見据えて言った。
「連いてきてくれるでしょ? クリフト」
 彼を見ずとも、答えは知れている。
 小さな背を向けたまま返事を待つアリーナに対し、クリフトは「何処へでも」と言って膝を折った。
 
 
 
 
 
ブレイクアウト
You've got to find a way..
Say what you want to say..
Breakout..
 
 
 
 
 
 何処へでも、何処までも連いていくと言って、その言葉通り地獄の底、新たなる世界まで共に戦ってくれたかけがえのない男性(ひと)は、冒険が終われば自分とは違う場所に居り、手を伸ばそうにも自らの腕はドレスに窮屈を強いられままならぬ。
「これが平和ってやつなら、私が地獄の帝王になってやるわ」
「アリーナ様」
「ウソよ、ウソ」
 コルセットを締める女官の何と力強いことか。アリーナはドレスの着付けに関しては己も彼女には敵わぬと、狭められる肺からやっとの息を吐き出した。
 サントハイム城の復興記念と称してパーティーが催されるのは、これで何度目になるだろう。しかし何度締められようともコルセットは馴染まず、このような装備品に呼吸の自由を奪われるくらいなら、たこまじんの触手に捕まっていた方がマシだとさえ思えてくる。
「今宵は花婿候補のお方もいらっしゃいます。身繕いは完璧に」
「はいはい、」
「アリーナ様」
「はーい!」
 背の開いたドレスの紐を縛る女官に促され、アリーナは亜麻色の髪をやや乱暴にかき上げて項を晒した。髪も肌も母譲りの美しさだと言われるのに、この奔放な性格は誰から受け継いだのだろうと自問する。
「休憩時間ってあるかな」
「姫様が全て終わるまで大人しくしてくださるなら」
「ちぇー」
 ドレスの裾を直す女官に苦い返事をしながら、アリーナは窓より1階の教会を眺め見た。
「行けないか、」
 全ての敵をなぎ倒した後、サントハイム城に人が戻れば、アリーナは元の王女となり、クリフトが元の王宮付神官に戻るのは当然の事だった。旅に出る前の関係に戻ったと言えばそれだけのことで、謂わば冒険の頃が非日常的であったのだろう。
 聖職者の彼に男性を感じたのも、ほんのりと甘い想いを抱いたことも、生死を賭けた戦いの中での一瞬に過ぎなかったのか。冒険を終えてサントハイムは以前と変わらぬ平和を取り戻したが、自分だけは間違いなく変わったと思えるのは、己の中での彼の存在位置が変わったからに他ならない。
「窓――
「窓がどうかしましたか?」
 この窓を開けて飛び降りてしまえば、教会はすぐそこだ。
 しかし今のアリーナには、以前のように考えたことを直ぐに実行するほどの行動力はない。それはドレスの裾が邪魔だからとか、窓を叩き割ればブライに叱られるとかいった判断が彼女を思慮深くさせているのではなく、教会に飛び込んだところで彼がどのような表情をするか分からないからだ。
 それは時間を隔ててしまったからか、既に以前の距離を失ってしまっているからか判らない。しかし、誰かの反応が怖くて行動を躊躇うなど、これまでのアリーナにあっただろうか。
「変わっちゃったな、私」
 溜息と共に呟きが漏れる。アリーナは滑らかな生地の手袋をはめた細腕で、窓硝子をそっと撫でた。
 
 
 
 
 
When situations never change
Tomorrow looks unsure
Don't leave your destiny to chance
What are you waiting for
The time has come to make your break
 
 
Breakout
 
 
 
 
 
 煩わしいことは、煩わしい時にこそ起きる。
 それは冒険中、多くの障壁にぶつかった時に体験した彼女なりの法則だった。
「なによ、お父様ったら!」
「アリーナ、よく聞きなさい」
 いつの間にか婚約者が決まっていた。
 それだけでなく、今夜の宴は彼がアリーナに声をかけ、交際を始めるまでの段取りが首尾よく整えられているという。結婚の話は前々より聞かされてはいたが、本人の与り知らぬところで用意周到に進められていたことは、アリーナにとって驚きとともに不信感を抱かせることとなった。
「私より強い人じゃないとイヤだって言ったじゃない!」
「フレノールでは有名な剣士だと聞いております」
「実際に戦ってみなきゃ分からないわ!」
 書類を見て静かに言った大臣にアリーナは鋭い視線を投げる。彼女にとって剣士とは、壮絶な戦いを剣一本で戦いきったバトランドの戦士しか居らず、他の者、ましてや真の戦いを知らぬ貴族が彼と同等に剣士を名乗るなど片腹痛い。
「ブライも何か言ったらどう!」
 まるで侮辱されたようだと、アリーナは同意を求めるようにブライを見た。
「わしは城じいめにございます。姫様に諫言を呈するのが本来の役目」
 しかしブライが発した言葉は、アリーナの期待するものではなく、
「冒険が終われば、元の通りですな」
 厳しい視線がアリーナの胸に刺さる。
 つまりはサントハイム王の味方ということか。ブライはこれ以上を言わないが、冒険前より彼に結婚の事は口酸っぱく言われていた。彼自身の口からそれが出なかっただけ、まだ譲歩されているということか。
 アリーナは拳を握ると、いからせていた肩の緊張をそのままに父王を正面に見る。
「私に進む道しかないことは理解ってるけれど、」
 以前のように、ただ拒み続けることは許されないとは理解っていた。
 しかし、ただ受け入れるだけでもいけないということを、先の冒険で学んだアリーナである。
「進む道を間違えないようにしなくちゃいけないわ」
 
 
 
 
 
You've got to find a way
Say what you want to say
 
Breakout
 
 
 
 
 
「姫様」
 普段は余程端整な顔を驚きに変えないクリフトがその瞳を大きく開いたのは、突然彼女が聖堂を訪ねてきたことよりも、目の眩むほど美しいドレスを身に纏っていることよりも、ただ彼女の眦が怒りに吊り上っていたからであろう。頼りなく尖る華奢なヒールから、如何にしてその不機嫌な靴音を鳴らせるのか、クリフトは彼女の剣幕に思わずプリフィカトリウムを落とすところだった。
「ねぇ、クリフト。どう思う?」
 ドレスが皺になることも構わず、聖壇に佇む彼の前でトスンと椅子に腰をかけたアリーナは、まるで同意の相槌を得ようと問いかける。
「大した実力もない人と結婚なんかできないわよね」
 大臣が婚約相手を絞り、父王がそれを認め、ブライもまた止めようとしなかったことは勢いのままに吐き出した。用意周到な彼等に対して自分が感じた理不尽は、中立であろうクリフトに正当性を認めて欲しかった。
「せめて一回、正々堂々と戦わせて欲しいのに」
 これでは自分は顔も強さも知らぬ男と運命を共にせねばならない。人間界の滅亡の運命にすら否を付き立てた己にとってそれは耐え難い筈なのに、抗うにも何故か戸惑い間誤ついていることは否めなくて。
「どうしたら良いと思う?」
 高ぶる感情に任せてアリーナが一通り吐き出し終えると、やや気圧され気味にこれを聞いていたクリフトは、次に穏やかな微笑を湛えて答えた。
「姫様」
 ホスチアを聖櫃に収めたクリフトの柔らかな声が石畳の聖堂に低く響く。
 そうしてアリーナの瞳に映されたのは、冒険の頃より彼女が暫し見惚れた、飾らない彼の眩しさ。
 
「私の知っている姫様でしたら、もう此処にはいらっしゃいません」
 
「クリフト」
 
 以前のアリーナであれば、自分に意見や同意を求めることなどなく、まずは思うままに身体を動かしていた。クリフトはそんな彼女に慌てて連いていくのが日常で、アリーナが最初に城を破壊して脱走を試みた時も、クリフトは彼女の姿が見当たらず、不安に思って探していた矢先の出来事だったのである。
 
 
 
 
   テンペでの魔物退治に生贄を代わると言った時も。
   フレノールで黄金の腕輪を差し出した時も。
   エンドールで武術大会に参加した時も。
   翼を折られたルーシアを助ける為に世界樹に登った時も、
   そして、天空の城より地獄の底へと飛び降りたあの時さえ。
 
 
 
 
「私らしくなかったわ」
 一呼吸ついて苦笑を零すアリーナに、クリフトもまた薄く笑みを浮かべて返す。それはアリーナが此処に来てはじめて彼女らしい表情を見せたからだった。
「自分で動かないからいけないのよ」
 立ち上がったアリーナは、肘までを覆う絹の手袋のまま両拳を合わせて鳴らす。邪魔なドレスの裾などは、そのまま膝丈まで破いてしまいそうなほど。意気込んだ今のアリーナは、嘗て彼女が腕試しの旅に出たいと言って城中の大理石像を相手に戦っていた時と似ていた。
「クリフト、また私についてきてくれる?」
 既に彼女の頭には、どこの壁を壊せば警備の手薄な所から抜け出せるかという算段が働いている。時間と距離を隔てた今は若干の不安があったが、それでもアリーナはクリフトを信じて、敢えて彼の瞳を見ないまま尋ねていた。
 そして返ってきたのは、予想通りの是。
「姫様をおいて行くところなど、私にはありません」
 聖体拝領前の信仰告白にも似た言葉は大仰を装っているのではない。静やかに、しかし確かに言って目蓋を伏せたクリフトに、アリーナは夭夭と破顔した。
 
 
 
 
 
Don't stop to ask.
And now you've found
a break to make at last
 
 
 
 
 
 着替えている時間はないと言うアリーナに、彼が綺麗な微笑を返したのはこういう意味だったのか。
「クリフトって、けっこうやるのね」
 聖堂を出て廊下を走るアリーナを、「はしたない」とか「昔のお転婆が蘇った」と言って騒ぐ者は誰一人居ない。見れば廊下や広間に歩く筈の官吏や召使、近衛兵士など、城内の全ての者は眠らされている。これがクリフトの得意とするあの呪文でないことを確認したアリーナは、呆れたような溜息を吐きながらも易々と自室まで走って戻ることが出来た。
 城中の者に眠りの術を施す彼の力量に感心しながら、途中、玉座に沈む父王を見る。
「お父様」
 今は夢の中で娘が逃走する光景を見ているのではないか。だとしたらそれは予知夢を見るという彼の特殊な能力に拠るものでなく、現実を夢で見るという新たな特技になることだろう。
 やや固い表情のまま寝顔を晒す彼に足を止めたアリーナは、その悪夢の覚めぬようゆっくりと近付くと、皺の深くなった頬に小さなキスを落とした。
「お転婆な娘でごめんなさい」
 亡き妻によく似ていると、目を細めて自分を見つめる彼の行動は、全て愛情によるものだとは理解っている。しかしアリーナは、そんな彼の愛情に応えることのできない自分を悔いてはいなかった。父の望むような娘にはなれない自分もまた自分であるからだ。
 アリーナはキスを落とした部分を慈しむように撫でながら、温かい微笑を湛えて瞳を閉じた父に囁く。
「これでも私、お父様をいちばん愛してる」
 
 
 
 
 
Oh daddy dear, you know you're still number one ?
 
 
 
 
 
 嘗て着慣らした旅の服に袖を通し、アリーナは自由の効く呼吸に表情を明るくさせた。そして隣に控えるクリフトを見れば、彼は皮の手袋に手を通して剣の握りを確かめており、久し振りに見る光景に思わず顔は綻んでしまう。左程昔ではない筈の感覚が蘇り、高揚を隠せない自分を感じた。
「これなら城を壊さなくても脱出できそうね」
 城内の者は全てクリフトによって眠らされている。アリーナは正々堂々と正面より出て行ける心地よさに満面の笑みを作りながら城門を開けた。
 その時。
 
「させるかぁっ!!!」
 
 扉を開けた瞬間、鬼の形相のブライと、彼の手より放たれた魔法が目を奪った。
「ブライ!」
「ブライ様、」
 空気が一瞬にして凍らされる音がする。急速に凝固点まで下げられた周囲の大気は驚くほど厚い氷の壁となってサントハイム城の空を覆い、身の毛のよだつ冷気が二人を襲った。
 これが既に引退を宣言した老魔導士の魔力であろうか。この巨大な氷を溶かすには嘗て同じく旅を共にした紅蓮の魔法使いとて手間取るであろう。城全体をドームのように氷で包んでしまった彼の殺気は息を飲むほど鋭く、禿げた額に浮き上がった血管が凄みを増している。
「これでキメラの翼も投げられまいて」
 杖を構えたブライの周囲に、捕縛用の網を抱えたサントハイムの近衛兵士が集まってきた。クリフトとアリーナの行動を読んでいたのか、ブライは城外の警邏兵を集めて配備していたらしく、すっかり旅の準備をした二人を瞳にとらえて尚怒り心頭であった。
「我が君まで眠らせおって、小僧めが」
 まるで老いを感じさせぬ魔力と眼力。どうやら怒りの矛先は、城中にラリホーをかけたクリフトの方が強いか。
 しかしクリフトはその視線を毅然と受け止めるばかりでなく、片手を剣に、片手で印を結びながら臨戦態勢に入っている。
「ブライ様も眠って頂く予定でしたが、お眠りいただけないならば」
「ほう。棺桶に半分足を突っ込んだワシに、死の呪文を唱えるか」
 凡そ虫も殺さぬような麗顔の前に構えられた彼の黒い手が、何の呪文を得意としているかは重々承知しているブライである。嘗ての仲間相手に消滅呪文とは、蓋しそれも小気味良いと口角を上げたブライの言葉に、背後に控える兵士達は恐れ慄いて後ずさった。
「いいえ。それも適いません故、」
 黒い手袋をはめたクリフトの右手が十字を切ったと思った刹那、兵士達は堪らず身を屈めて構える。
「姫様を援護させて頂きます」
 命を摘み取る黒い霧が辺りを包むかと思いきや、クリフトの詠唱した祈りの言葉は光となってアリーナの全身を輝かせ、みるみるうちに彼女に力を与えていく。
 漲る感覚に笑顔を綻ばせたアリーナは、好戦的な瞳を輝かせて声を張り上げた。
「いっくわよー!」
 空を舞ったアリーナが身を翻したかと思うと、氷のドームは彼女の拳に穿たれる。
「姫様っ!!」
 兵士達が叫んだ瞬間、ミシミシという音が地響きのように周囲に鳴り出し、砕けて粉粒と化した氷が空に弾けた。サントハイム城全体を覆っていた氷は、一瞬のうちに輝く雨となって振り落ちる。
「クリフト、」
 阿吽の呼吸とはよく言ったもの。彼女の呼びかけに頷いたクリフトは、次の言葉を聞かずとも理解っていたのであろう。彼は胸元からキメラの翼を放り投げると、フワリと浮いた自身でアリーナを抱え、キラキラと霜の煌く天空へと飛び立った。
「アリーナ姫!」
「クリフト殿!!」
 見上げれば二人の姿は既になく、ただ軽やかな言葉だけが後から降ってくる。
「安心して! ちょっと行ってくるだけだから!」
 その声色といい、最後に見た笑顔といい。
………………姫様、」
 ブライはやれやれと首を振って肩を竦めると、いまだ大空を見上げたままの兵士達に一笑してその場を去る。
「見事な一撃、お変わりなく何より」
 久しぶりに「アリーナ」を見たような気がしたのは錯覚ではない。
 ブライは美しいドレスに身を包んで父王の隣に執政を聴く彼女にも成長を感じてはいたが、冒険の頃の闊達に満ちたアリーナが押し留められていることに、内心では心苦しくも思っていた。しかしそれも彼女が選んだ王道ならばと何も言わずに見守ってきたものだが、アリーナ自身がそれを解いたというなら止める理由はない。
 時には羽を伸ばすのも良いではないか。そして実際、光を帯びたアリーナの背に翼が見えた気がするのは、年齢による耄碌ではないだろう。
「それにしても、粉々に砕かれてしまったものよ」
 実に清々しいと、ブライは辺りを舞う氷の粒に頬を冷たく撫でられながら呟いた。
 宝玉のように重厚に造ったと思った氷の壁を、真逆(まさか)一撃の素手で破られるとは思わなかった。彼女の力には毎度圧倒を感じえぬが、クリフトの魔力による補助がなければ穿つことは出来なかったろうとも思う。
 それは腕力の強さではなく、彼の支えを得たという意志力の増大。だとしたら、捕らえられる筈だった籠の鳥に自由を与えた者の存在はあまりに大きい。
「やってくれおるわい」
 ブライは粉雪のように舞う氷に光を溢れさせる碧空を仰ぎながらクッと笑う。
「姫様を誘拐するとは、この花泥棒め」
 既に飛び立った男に向けて呟いた皮肉は、氷粒を運ぶ風に運ばれ空に消えた。
 
 
 
 婚約者に手合わせを願い出て、相手の敗北を理由に婚約解消を取り付けるだけのつもりが、二人が帰ってきたときにはサントハイム史上未曾有の駆け落ち事件にまで発展していたというのは、また別の話。
 
 
 
 
ブレイクアウト
Lay down the law..
Shout out for more..
Breakout and shout day in day out..
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
背中を押してくれるのがクリフトの役目なら、
私、あなたの手を引っ張ってあげる。
 
だから
 
一緒に行って。一緒に居て。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 歌詞はSwing Out Sister の“Breakout”から。
(また世代のバレる曲を。)
でも途中で Cyndi Lauper も加えてしまいました。
どっちも好きだな。
 
 
 
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