まだ2階です。
続・氷結クリフト
その弐 「予約は要らない」
新しい町にやってきました。滞在する宿はクリフトとアリーナ姫が手配することに決まりました。
「姫様、今夜の宿はこちらにしましょう」
「えっ、早!」
町の城門から一直線、クリフトはアリーナ姫の手を引いて、わき目もふらずに中へと入っていきます。
「あれ? フロントに誰も人が居ないよ?」
「ここは誰にも会わずにチェックインできるのです」
クリフトは薄暗く狭い入口を不思議そうに見つめるアリーナ姫にそう言うと、空室の部屋番号を確かめてボタンを押しました。
「ルームキーも受け取ってないのに中に入っていいの?」
「部屋の扉は遠隔自動制御されておりますのでご安心を!」
アリーナ姫は、宿泊人数や日数も言わずに室内へと入れるものかと不安顔。
普段とはまるで勝手が違う宿と、なんだか鼻息がとっても荒くなっている神官に怪しさを隠せません。
「ぜ、全然安心できないんだけど」
彼女の手を引いてずんずんと歩いていたクリフトは、愛しい人の弱々しい声を聞いてクルリと身を翻すと、彼女の手をギュッと握って見つめました。
「こ、怖がることはありません」
「こわいよ」(クリフトが)
「最初はそうかもしれませんが、どうか私にお任せを!」
振り返ったクリフトは既に伸びた鼻の下に2本の血の川を作っており、妄想モード全開のようです。
「き、気持ちよーくして差し上げますから! 時間をかけて!」
「クリフト」(意味分からない)
困惑に瞳の光を揺らすアリーナ姫も、クリフト・アイ(盲目)に映れば劣情を昂ぶらせるものでしかなく、
「破瓜の痛みも分かち合いとうございます!! ぶ、ぶはぁ!」
そうしてクリフトの鼻血が活火山の如く噴き出したその時、
「この猥褻淫奔ド外道がァァッ! すりつぶしてくれるわァァァッッッ!」
「晒しものになっとけ!」
そう言いながら老魔術師はエッチなホテルの玄関口に冷気漂う氷柱を立てて去り、アリーナ姫は恋人を置き去りにすることに戸惑いを抱きながらも、彼に引っ張られるようにしてその場を離れ、別の宿を探しに行くのでした。
哀れ、氷結クリフト。
二人はまだ清い関係。
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