13階まで来ました。
続・氷結クリフト
その壱拾参 「可能性ゼロ」
「気持ち悪い、かも」
長い馬車旅に疲れたのか、アリーナ姫はやや青い顔で小さく言いました。
同じ待機組のマーニャが心配して側に寄ります。
「馬車に酔った? それともこの暑さにバテたのかしら」
これを聞いた目の前のトルネコは心配そうな面持ちで窓を開け、パトリシアの側を歩くライアンに馬車を停めるよう言おうと身を乗り出しました。
その時。
「おめでとうございますっっ!」
「の、のわっち!」
馬車の右翼を守っていた(珍しくスタメン入りの)クリフトが、乗り込むように駆け寄ってきました。
「つわりですね!」
「え」
瞳をギラギラとさせた彼の言葉に、トルネコはギョッとします。
「しかも3ヶ月!」
「え、3……、えぇっ!?」
いつの間に! っていうか、え、そ、そうなの?
青い顔でグッタリしているアリーナ姫の前で舞い踊るクリフト。
唯一の公式妻帯者であるトルネコは、悪阻(つわり)ってこんなんだっけ? と思いながらも、二人をまじまじと見つめて生唾を飲み込みました。ゴ、ゴクリ。
「あぁ姫様。今はお辛いかもしれませんが」
クリフトは満面の笑みでアリーナ姫の小さな手を取り、気分の優れぬ彼女の身体を労ってか、いとおしそうに擦りました。
「幸せな家庭を築きましょう!」
「クリフト」(ちょ、うるさい)
「男の子かな! 女の子かな!」
ワクワクして妄想を膨らませる神官の脳内では、サザエさん並みの円満な家庭図が繰り広げられています。
「姫様にそっくりな可愛らしい子がいいですね!」
蛭子収能くらいに顔をニヤけさせながらクリフトが言ったその時、
「淫乱の妄想野郎が! めでたいのは貴様の脳ミソじゃァァァッ!」(カッ!)
「まだやってもおらんのに、悪阻る筈なかろうがボケェ!」
「な、なぜ知って……がくっ」(しに)
この童貞が! と氷柱を足蹴りして去る老魔術師の背中を見送り、トルネコはその恐ろしさに冷や汗をかきながらアリーナ姫の看病に急ぐのでした。
哀れ、氷結クリフト。
ブライは何でも知ってる。
|
|