助けてオカァサン。
魁!氷結クリフト
第9幕 「男はオオカミなのよ」
「おかしいわね。確かこの辺りで出る筈なのに」
一行は、モンスター図鑑を完成させる為にゴットサイド周辺を歩いています。
この一帯には夜にならないと出現しないモンスターが居るということで、戦闘好きのアリーナ姫は拳を鳴らして準備をしているのですが、なかなか現れてくれません。
「よるのていおうっていう名前だけは判ってるんだけど」
マーニャは暗闇に目を光らせながら、しかしやや疲れたように言いました。
「んもうっ! じれったい!」
エスタークをも 一 撃 で倒した王女です。
それほど強敵ではないと理解っていながら、なかなか出現しないことにシビレを切らしたアリーナ姫は、馬車で眠るトルネコに無理矢理でもくちぶえを吹いてもらおうかと思いました。
その時、
「女性を待たせるとはよくありませんね」
「クリフト」
暗闇に色気を纏った神官が月光に前髪をきらめかせてアリーナ姫の前に立ちます。
「成程よるのていおうとはよく言ったもの」
「クリフト?」
「私とて夜は雄の性を抑えられませぬ」
は?
クリフトは ポ カ ン とした表情で見つめるアリーナ姫に、美形の麗顔を繕って微笑みました。
「夜の帝王とは、今まさに姫様の目の前に」
彼女が今か今かと待ちわびて固くしていた拳をそっと取ると、ナルシストモードのクリフトは長い睫毛をゆっくりと伏せて、その甲に唇を近づけました。
「今宵は貴女をどうしましょう?」
「よし退治してやる! ド淫乱はそこになおれェ!」
「これもモンスター図鑑に描いておきましょう」
そうしてブライが図鑑に氷柱(しに)を書き込む月夜、あまりの光景に恐れを成した 本 物 の よるのていおうは、絶対に出て行くものかと森の奥深くでブルブル震えていたということです。
哀れ、氷結クリフト。
夜の帝王の逆位置(氷柱的に)。
|
|